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2~凶兆の予感、魔物ランクAレイス

 

 

 秘密基地をさらに奥に進むこと数分。

 小走りで先を行くルクスの背中を追うも、

 まだ変わり映えのない森の風景は続き、例の祠は見えてこない。


 目につくのは大きな雑木林ばかり。


 意外と遠いな。

 良く晴れた真上の空を見上げる。

 幾分か森の木が、陰となって太陽光を遮ってくれてるけど暑い。




 「ねールクス全然近くないじゃんその祠さ」


 さすがにハルカが不満の声をあげる。

 ハルカの服は白で長めのチュニックだし、シャツ1枚の俺より暑そうだ。


 「誰がちけえって言ったよ。まだまだ距離あるぜ」


 走りながらの会話。

 ルクスはすぐ正面を向き速度を戻す。

 まだまだ距離はあるらしい。


 ちょっと遠すぎだろ。

 そんな遠くまでルクスは何をしに行ったのだろう。


「はぁ~風使うか」


 隣を走るハルカが呟くと、風が後ろから徐々に吹きつけてくる。

 まるで巨大な風を、扇風機で送られてるかのような、暑い体への心地良さを感じる。

 風の力で足は自然と前へ。


 これは楽だ。





「おっおっ!? ハルカの風魔法だな、おーいいや、これなら素早く走れそう」


「本来、こういう用途で使うもんじゃないからねルクス」



「まあ、かてーこというなよ。これなら家から駄菓子屋までの距離もっと早く行けそうだな。ハルカ今度よ俺の家からやってみてくれよ」


「ねえルクス。もう1回詳しく聞かせてくれないその場所のこと」


 華麗に話をスルーするハルカ。

 気にするような素振りもなくルクスが答える。

 自分が感じた衝動を、すぐにでも語りたいのかもしれない。


 

「なんか空気が違うんだ、そこだけ。虫とか鳥や生物の音もないんだ。時間が凍ったような感じでさ、入っちゃいけないって感覚になるんだよな。あんな場所は大人達から聞いたこともねーし」



  

大人達が立ち入りそうもない場所を、俺達は秘密基地に選んだ。

そして作った。

俺達だけの楽園。


気の合う仲間達と何をするでもなく、集まり菓子などをつまみながら日常の会話をする。

どこか満たされてて、懐かしい気持ちにさせられる。



遠い昔何処かに置いてきた童心を、ゆっくり形どってゆくような優しい時間。


黄金の時間。

子供時代の思い出は無敵だ。

充実したものなら、決して色褪せない。

窓の外から沈む夕陽をゆっくり眺めるかのような。


……正直悪くない。



 それからさらに10分ほど走っていくと、森は幾重もの葉が重なった天蓋が多くなる。

 真上に太陽が昇ってるのに、天蓋で辺りは薄暗く、太陽も差し込まないからか少し肌寒い。


 一応、人が通れるぐらいに通路は十分にある。

 あるのだが……虫や動物の声も生りを潜めたかのように聞こえないし、慣れ親しんだこの森も奥へ行けば行くほど不安な感覚が増していく。無数にある落ち葉を踏むと、枯葉のくしゃりとした足裏の感覚すら不気味に感じてしまう。


 

事前にルクスの話があったからだと思う。


俺は見る者を圧倒させる彫刻、遺跡。


そういうのを期待してたのだが実際に現場に到着すると、想像を凌駕した光景に出合った。


入ってはいけない、心霊スポットの前に来てしまったような感覚。


見れば、子供にだって分かる。


だって明らかに立ち入るなってロープが上下左右に鎖みたいに、張り巡らされているんだ。ロープには何文字か分からない黄色と赤の札がロープにぎっしりと、結びつけられている。


その中心にあるのは祠。

祠といっても、そこいらの石を2つ上に置いたぐらいの無造作加減だ。


楕円形の石の上に、屋根のような三角の石が置かれてる。


石にはコケが生えてるし、かなり古い物だろうと予想できる。


無言。 

俺もルクスもハルカも無言。ひたすらに。



侵入者を拒むためというより、

ここにある祠を封印したかのようにも見える。

 


やがてルクスが、引きつった顔で俺に話かけてくる。





「なっ不気味だろ。カナタもそう思うだろ」




「確かに……中に誰か入れないようにする為。ではなく、ここを封印してるようにも見える」


「私もそう思うわ。これぐらいの感覚なら、背の低いサーちゃんなら簡単に通れるだろうし。人を通さない為のロープなら仕事が雑すぎるわ」


「で、どうするよ? せっかくだし中に入ってみねえ?」


 


 俺が言葉を返す前に真剣な表情をし

 悪巧みを浮かべたような笑顔で、ルクスが同意を求めてくる。

 

 触らぬ神に祟りなしと故人は言った。

 俺もその言葉に従い、 ここを早急に去った方がいいと思う。

 

 ハルカが、言葉を強めて言った。


「ダメだ、絶対ダメよ!」


「どうしてだハルカ?」


「どうしてって……そりゃカンよ。見ればルクスも分かるでしょ」


「カンか。ハルカの勘はやたらと的中するからな……しゃーない止めとくか」


「じゃー帰るか。帰ったら大人達にこの祠のことを聞いてみよう」


「カナタ、それはやめといた方がいい。だってさ案内することにでもなったら、秘密基地の場所がバレるし、最悪取り壊しとかされるかもしれないじゃない」


 ふむ、確かにハルカの言うことも一理ある。

 サーニャのじいちゃんは村長だしな。

 しきたりとか、うるさそうなタイプみたいだし。




「あーあ結局無駄足かよ。俺としてはこう好奇心がくすぐられるってのかな、中見て見たかったなぁ」


 後に両腕を組みながら少し不満気なルクス。

 実に対照的だ。俺は何もなくてホッとしてるが。

 ハルカは少し離れたところからアゴに親指を乗せ、考える素振りをしている。


 各々考えてることは違うだろうけど、俺もハルカに賛成だ。

 好奇心はネコを殺すという言葉がある。

 過剰な好奇心は命を滅ぼすのだ。

 大概、取り返しのつかない悪さをするのは好奇心旺盛な少年と相場が決まっている。


 ……だが、待てよ。

 俺には 完全夢想の再遊戯リバイバルゼロの能力があるじゃないか。

 中を改めて、もし危険だったら時間を戻せばいいじゃないか。

 それなら危険はない。



 だけど、こいつらをここに残すのは不憫だよな。

 1回時間を戻した時に、前の日の俺がもう一人いるんじゃないか?

 とかも考えたが、そんなことはなかった。

 だから多分だけど、親殺しのパラドクスとかもないと俺は推察する。



 まあ今日はいいか、踵を返し祠から去ろうとする。

 すると違和感に気づく。

 来る前はなかったのに、帰ろうとした瞬間に。


「なぁっ!?」



 驚いて声を上げる俺。

 なんだアレ?

 黒いボロ切れみたいなのを纏った、顔の見えない何者かが、いる。

 その両手に持ってるドでかい鎌はなんだ。


 一見すると死神。

 そんな風貌をした魔物だろうか。



 俺の声に反応したのか、ハルカとルクスも声を上げた。





「おい……来る前はこんなヤツいなかったよな。てか、いつからいた?」



 そう、まるで気配を感じなかった。


「レイス。魔物ランクA、滅多に現れる魔物じゃないわ、物理的攻撃に強く気配を消して行動する極めて危険な魔物よ。それに精神支配系の攻撃を使ってくる」


 極めて事務的にハルカが説明をする。


「はは……魔物かよ。このご時世に珍しいな、俺の冒険者を目指す練習台にと思ってたけど、ランクAかよ。はは……軽くドン引きだぜ」


 魔物ランクA。

 冒険者を目指してるルクスから聞いたことがあるが、大の大人の冒険者でも敵わないミノタウロスがBとか言ってたけ。1回だけ親父と旅をしてた時に倒したことがあると言ってたけど、相当苦労したらしい。


「ハルカ勝算は?」


「ちょっとマズイね」


「じゃあ逃げるか?」


「それも無理。コイツは一度人の気配を感じとったら、撒いてもそこにやってくる」


 つまり逃げれないし、やるしかないってことか。

 動悸がする。

 本能的に逃げろ逃げろと、俺の頭の中で危険信号を送ってる。



「2人は逃げて。こいつの相手は私がする」


 と言い前に出て、手のひらを広げ両手を前に手出し構えをとるハルカ。


「俺もやるよ。ハルカだけにいい格好はさせないぜ」


「いいから逃げな。そこに居て何が出来るの? ルクスはあいつを倒せるような魔法が使える? はっきり言うけど2人共足手まといなのよ」


 はっきりとした拒絶。

 だけどハルカが俺達の身を案じているのは分かる。

 魔物ランクAだ、極めて危険な部類に入る。



通常はランクの高い魔物ほど、都会の方か、人を寄せ付けない大滝壷、険しい崖で構成される山々にいるのが通例だ。


現にアッテル村に、魔物が出現したなんて聞いたことがない。

前例がないんだ。

完全に異常事態。



「っ……そんな言い方はねえだろ! 俺は仲間を見捨てたくないだけだ! ハルカも言ってたろAランクの魔物だって!」



「私の身を案じるなら、駄菓子屋の婆ちゃんか村長に助けを呼んで」


「村長は分かるけど、あの駄菓子屋のババア?」




「行こうルクス。それが最善だと思う」


「分かったよ。死んだらタダじゃおかねーぞハルカ!」


「ご心配なく、私けっこう凄い魔法使えますから。負ける気はない」


 と、おどけて見せてレイスと対峙する。

 俺はルクスの肩に手を置き、行動を促す。

 立ち尽くしていたルクスは短く「あぁ」と答え重い足取りで動き出す。


 それでも俺もルクスも納得したワケではない。

 やっぱり気になるものだ。

 自分達が無力とハッキリ突きつけられた事実。

 同世代なのにハルカが、女の子が一人で戦っているのに俺達は逃げなきゃならないんだから。


 何度か振り返りながら、ハルカとレイスのやりとりを見る。



「凍れる女王の吐息よ。震える刃となりて我が敵を切り刻め アイスブラスト!」


 初めてみたハルカの氷の魔法。

 

 一つ一つが鋭利な氷の刃ともいえる。

 それが、いくつも浮きだしてレイスに刃を向ける。

 

 微動だにしないレイスに次々と命中てゆく。

 それだけじゃなく、辺りを霜付けにしてやがる。


 一般人ならひとたまりもないだろう。

 喰らったら風穴が体に空いてると思う。


 なのにだ!

 レイスは平然とふわふわ浮きながら、前にゆっくりと進んでいる。

 攻撃が効いてるのか効いていないかすら、判別に困る。



 あれが獰猛な猛獣とかの方が可愛げがあったかもしれない。

 息もするだろうし痛みを感じれば、痛いなりの反応をするだろう。

 レイスは喋りもしなければ息もしない、反応もない。

 あれはそもそも生きているのだろうか?

 

 霊体、ゴースト、それらの性質に等しい気がする。


 

 だから不気味だ。

 そして一人残したハルカが心配だ。



「クソっ……急ごうぜカナタ。村の大人達に知らせなきゃ」


「ああ急ごうハルカが心配だ」


 俺達は全速力で来た道を戻る。

 不安を置き去りにするように、ひたすら足を前に、前に、前に。

 それだけが今、俺達に出来ることなのだから。


 ……。



これでいいのだろうか?


やきもきする。

正直、俺はハルカが引き受けると言った時に、ホッとした自分がいた。

それは怖いから、恐ろしいから、自分がケガしたくないから。


そんな自分本位の身勝手な感情が、心の中でとぐろを巻く。




決意する。

まだ胸にちっぽけな勇気が残っている内に決断。

時間を浪費すればするほど、なくなりそうだから。



「なあルクス」


「なんだカナタ」


「戻らないか。やっぱりハルカが心配だ」


「お前もそう思ってたのか」


「まだ秘密基地も見えてこない。軽く村までは走っても30分はかかる、戻った方がいいと思う」



「そうだな、そうだ。ハルカに俺の剣技を見せつけて前言撤回させてやらなきゃな」


「急ごうぜ」

「ああ」


 俺とルクスは来た道を駆け戻る。

 ハルカの無事を祈りながら。

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