19〜作戦会議〜旅立ち前
秘密基地の中、皆でこれからのことを話あった。
ハルカにつき纏う死の運命。
ラプラスの悪魔のこと。
予言書のこと。
俺の能力のこと。
これらの対策を練った。
ただ一人、基地の外にいるハルカを除いて。
俺は…ハルカに嫌われてしまったらしい。
それまでいい。
ハルカが無事なら。
ラプラスの悪魔を解放したのは、トッズとモッズの兄弟らしい。ハルカがサーニャとリュカを一緒に連れて来たので、2度目の時間のようにリュカが追われることはなかった。
だが、悪戯な運命に導かれるかのように、二人は基地に現れたようだ。その後の結果は、傍若に振る舞いだしたトッズとモッズをハルカが撃退。
結局、ハルカが撃退するかアズシアが撃退するか。その違いだけ。
俺達は…とんでもない袋小路に迷い込んだらしい。
何処まで逃げ回ろうとしても、決して逃げ切れはしない。まるでトリカゴの中の鳥だ。
未来、過去、今と繰り返すこの悪夢のような、シナリオを止める手立てはあるんだろうか。
ある意味、ラプラスの悪魔よりタチが悪い。
俺達は運命という名の、神に等しい相手に挑まねばならないのだから。
まず、ラプラスについてはサーニャが基地に持ち込んだ絵本にヒントがあった。
あまりに強大な力を持つラプラスに、今から500年前ほど前に勇者と4人の仲間達が挑んだ。
勇者達も強かったが、それ以上にラプラスは強かった。
勇者達は。
・アーカーシャの剣
・アースガルドの聖杯
・賢者の石
・虹の輝石
これら4つのアーティファクトを用いて、ラプラスを封印したと書かれている。
もっとも奇妙なことはこの絵本。
神話と言える出来事なのに、ラプラスに纏わる文献や本が一切ないのだ。
ここに存在する絵本(負けるな勇者くん)しか発刊されてないという。内容は勇者が魔王をたおすまでの、エピソードを綴った英雄譚。といっても、そこは子供向けの絵本。
赤裸々に旅の詳細、全て綴ったものではないだろう。
負けるな勇者くんは全3巻で、現在は絶版。サーニャが持ってるのは最後の3巻のみだ。激レアらしく、この3巻のみで相場は金貨30枚にもなると、アズシアが言っていた。
目の飛び出るような値段を聞き、サーニャが「じゃあ今すぐ売りに行くのだ!」と言い出しので、リュカと俺で全力で止めた。
ヒントになりそうだし、そもそもサーニャの爺さんの前の代からの品らしい。
アズシア曰く、ラプラスの存在を広めたくない何者かがいるのではないかと推察していた。
ハルカに関してだが、村にいてもらうのがベストだと判断した。1度目のルクスが願いごとをしたように、
トッズとモッズも、村には手を出すなと言ったのだろう。
村は至って平穏だ。
まったくホッとする。
しかし、見落としてないだろうか。
村は2度目の時間で滅んだ。
ラプラスは1度目の時間では約束を守った。
…この場合はどうなるんだろう。
とにかく今のところ村は唯一、安全とも言える聖域だ。
明日になればラプラスの予言どおり、恐らく世界に魔物が溢れ、大冒険者時代がやってくる。
冒険者にとっては喰える時代だろうけど、市政の人からすれば生きづらい時代になるのは間違いない。
そして俺達の最大の武器にして、盾にもなる予言書の存在。これを活かして最悪の未来を塗り替える。
今から10年後には世界が滅び、ごく少数の人間しか存在しないと記述にはある。それまでにラプラスを倒し、理想の世界へと戻さなくてはならない。
ラプラスが解放された原因は、俺にもある。
直接的にはルクスとモッズ兄弟が、封印を解いたが、俺が時戻しで、防げたはずなんだ。
ほんの少しのボタンのかけ違いで、こんな最悪なことになってしまった。
だから俺は決めた。
世界改変の為の旅に出る。
アズシア達は予言書の一節。
レゾニアの危機を回避する為に、レゾニアに嫁いできた母方の国。ルーブルランドへ庇護を求めに行くらしい。
俺も、アズシア達に同行する旨を伝えた。
「あら、ハルカからアズに鞍替えかしら。星々の煌めきより、美しいアズの側にいたいのは分かりますが、少し節操がありませんね」
と言われた。
そんなじゃなく、俺の責務を果たしたいだけだ。
と言ったら、「まあカナタの能力は役に立ちそうですし、いいでしょう。アズと旅を共に出来ることを光栄に思いなさい」…だってさ。
もうルクス以外、この天元突破のナルシストっぷりにドン引き状態。
リュカが「王女様って皆こういう感じなんだ」と言ったらソルトが小声で申し訳なさそうに「アズシア様だけだと思います。スミマセン」と謝罪していた。
これまでにも、苦労してんだろうなあソルト。
それにしても予言書って誰が書いたんだろう?
一部、風化してるページもあって、虫食いになってるのが困るところだ。
ソルトがノートを見て、ノートが作られ売られるようになったのはここ数年前だと、考察してた。
つまり、ノートを作った人間は神話の時代の人間でなく、今現代を生きて普通に生活してる人間だ。
いったい誰なんだろう。
何の目的があって、どうして封印の祠の下に予言書を隠したのか……検討もつかない。
最後に俺の能力のこと。
多分、連続使用すると身体に疲労とダメージがくるのだと思う。この1年間で数回使ったが、時間を空けた時は不快感のみだったからな。
次に使う機会があれば、決して同じ轍は踏まない。俺は運命なんて言葉が大嫌いだ。
最初から全てが決まってるなら、その人が積み上げてきたものや努力が、全て水の泡という結論になる。
認めたくないし、許せない。
だから運命なんてぶっ壊してやる!
色々、話あったところで解散することとなった。
アズシアは明後日にこの村を発つ。
それまでに荷づくりとか、親を説得して来なさい。とのことだ。
リュカが少し、俺に引いてるというかよそよそしいのが引っかかった。そりゃあ、俺がカナタじゃないと知ったら、どう接していいか分からなくなるだろう。
普通のことだと思う。
そんなリュカを見て、ルクスが帰りにこう言った。
「この1年間カナタは俺達と遊んできた。その日々も否定する気か? 違うだろ、俺は違和感なかったし、バカやったり、時には助けられたり、楽しかった。中身が変わろうが、カナタはカナタだ。それで、いいじゃねえか」
救われたよその言葉に。
友達にランクをつけるのも、あまり良くないが俺の唯一無二の親友がルクスだ。
そんなルクスとも、明後日にはお別れ。
これからは、別々の道を歩むことになる。
ルクスも旅に同行したがっていた。
何せ愛しのアズシアが、いなくなるんだから。
俺は村までの道を、ルクスと歩いていた。
ハルカは、先にサーニャとリュカと一緒に帰って行った。
「なあカナタ」
「どうした?」
「この空って、世界中繋がってるんだよな」
ルクスは夜空を見上げて言った。
アッテル村は山奥だからか、宝石を散りばめたような星の海が瞬き広がっている。
「詩人みたいなこと言うんだなルクスも」
素直にそう思った。
ガラにもなく、ルクスも少しセンチメンタルになってるかもしれない。
「カナタは遠いところに、行くんだなと思ってよ。またどっかで思い出してくれよ。俺達のこと」
「忘れねえよ。忘れるハズないだろ一生。ルクスはキャラが結構強烈だから、イヤでも残るさ」
「てめー言ったなカナタ!」
「ハハハハハ」
そして昔のことや、アズシアへの恋話などを互いにしながら、家の近くまでたどり着く。
楽しい時間はどうして、こんなに早く過ぎるんだろう。
「明日はどうすんだカナタ」
「荷づくりとか、親父や母さん説得しないとな、出来なかったら家出する」
「……そっか実質、今日が最後か」
しばし無言。
互いに色んな、思い出、感情が心に渦巻いてると思う。上手く言葉に出来なくて、ならなくて、もどかしい。
「さらば友。決して忘れないよ。ルクスに出会えたこと誇りに思う」
「…泣かせんなよ。ちくしょぉお…俺だって忘れねえよ」
「泣くなよ」
「泣いてねえよ目にゴミ入ったんだ」
「そうだな。別れの時季にはよく、目にゴミが入るもんだ」
「じゃあな」
「ああ達者でな」
互いに拳を作り軽く合わせる。
この村に伝わる勇気を試す時の風習。
健闘を祈るなんて意味もある。
だって決して今生の別れではないのだから。
今までありがとなルクス。
次で最終話です。