16〜それでも前へ
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自分の絶叫で目が覚めた。
見慣れた俺の部屋の天井。
腕はーーちゃんとある。
あの朝だ。
3度目の朝がやってきた。
「…つっ!」
頭痛と吐き気と、身体のあちこちに痛みがある。
目眩までして視界が安定しない。
それでも急がなきゃ。
もう皆に全部、ことの顛末を話そう。
俺一人じゃ抱えきれないし、対処するだけの知恵もない。
ここまで最悪の未来になったのは、俺のせいだ。
「はぁ…はぁ…はぁ」
ハシゴを降りて一回に行く。
「兄ちゃあぁああん!」
妹のシャラが抱きついてきた。
重さに耐えれずに、俺はシャラを背中にしたまま倒れ込んだ。
「あぁっ…兄ちゃん大丈夫!?」
「…大丈夫だシャラ」
「兄ちゃん泣いてるの…寝言いってたし悪い夢でも見たの?」
ハッとして顔を、ゴシゴシとシャツの袖で拭う。
「かっこ悪いとこ見せちゃったな。いいかシャラ、今日中にこの村を親父と母さんと出るんだ、村の人にも知らせてくれ」
「どうして?」
こんな突拍子もないことを言われたら、疑問に思うのも当然だ。
「ラプラスの悪魔が、村を滅ぼす可能性がある。村の人にも伝えてほしい。聞かない人には無理して、言わなくていい。とにかく一時的に避難してくれ。決して、村を守ろうとか戦おうとかしなくていい。信じてくれとは言わない、言うことを聞いてくれ」
やや逡巡してから、花のように明るい笑顔を向けるシャラ。俺なんかには本当に出来た妹だ。
「分かった。でも兄ちゃんはどうするの?」
「行かなきゃいけない場所がある」
フラついて膝を床に落とす。
「無理だよ。兄ちゃん…顔色悪いよすごく、家で休んでた方が」
首を左右に振る。
「ダメだ。絶対に俺が行かなきゃ。家のこと頼むよシャラ」
「分かった。無理しないでね兄ちゃん」
「ありがとう」
まだ頭がズキズキするし吐き気もある。
身体は全身が痛いし、心臓は早鐘を打ち体調は最悪。
それでも進まなきゃ。
まずはアズシアに会って、全部を話してから皆と合流だ。
「はぁっはぁっはぁっ」
千鳥足でも一歩前へ。一歩前へ。
「カナタちゃん。おはよう今度、ウチの主人にまた文字教えてやってくれよ」
村のおばさんとすれ違う。
この会話も2度目か。
「逃げて下さい今日中に村を。ラプラスの悪魔が現れるから危険なんです、一時的にでも避難して下さい」
「えっ? カナタちゃん一体何を言って…? それに顔色悪いよ」
「俺は、行かなきゃいけないんです」
小首を傾げるおばさんの横を通り、秘密基地を超えてアズシアのベース地へと向かう。
「はぁ…はぁ…遠い」
秘密基地にはまだ誰もいなかった。
ルクスを止める為にまず、ベースが先だ。
そうだ俺はバカか。
ハルカにはテレパスを使って、通信したらいいだろ。
(ハルカ大事な話がある。後でルクスを連れて秘密基地に行くから来てくれ)
数十秒の時間差の後に、ハルカからテレパスの返信がくる。
(いきなりどうしたのカナタ。説明しなさいよ)
(説明してる暇はない。あと今日は絶対に村に留まるな。リュカとサーニャも強引にでも、基地に連れてきてくれ)
(どうゆうことよ。もうっー!)
「ぐはっ…オエェっ!」
道端で盛大に吐いてしまう。
はぁ…はぁ…しんどい。
あぁ…もう意識が……遠くなる。
ついには倒れこんでしまった。
草の感触と香りを感じる。
立たなきゃいけないのに……ハルカの通信が入ってくるけど、ダメだ…返す気力もない。
そのまま俺の意識は、闇の中に引きずり込まれた。