表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/20

15〜奈落の底へ③〜最後の切り札


 見ただけで圧巻させられる、体長3メートルはありそうな一ツ目巨人ギガンテス。


 凶悪なライオンとヤギの顔に、尻尾のように蠢くヘビの身体を持つキマイラ。


 状況は最悪にして最低。

 出くわして、身を硬直させたかと思うといきなりバタンとサーニャが倒れた。見慣れない魔物を見て失神でもしたかと思って駆け寄る。


「サーニャ!」


「あちしに話かけるなカナタ。死んだフリをしているのだ。あちしは死体なのだ、見ざる、聞かざる、喋らざるなのだ」


 こんな時に何をマイペースなことを。


 バタン。


「俺も」


 ルクスもサーニャに続き、死んだフリしたおバカな死体が2人出来上がる。



「遊んでる場合か!」



「見て分からねーかカナタ。山で熊に会ったら死んだフリが有効だと」


 迷信だろそれは。

 目の前にいるのは熊より凶暴だぞ。

 熊だとしても、引っ掻かれて嚙み殺されるぞ。


「えっ、えーと熊に会った時は、顔を逸らさずゆっくりと後退したらいいはずだよ。でも、どっ、どうしよう。怖いから僕も!」



 リュカお前もか!


 ポツンと残された俺一人に対して、ギガンテスとキマイラが歩調を同じくして、近づいてくる。死んだフリした3人の作戦は功を成したのか、俺を狙っているらしい。



 どうしよう。

 勝てる気がしない。

 助けを求めるように、後ろを振り返る。

 絶対零度の氷壁に閉じこめられたラプラスは、いつの間にか脱出していて、アズシアと派手な魔法合戦を繰り広げている。


 爆炎が広がり、轟音を伴う雷が辺りに降り注ぐ。

 そんな中心で一進一退の攻防を繰り広げるアズシアとラプラス。文字通り桁違いにレベルが違う。


 

「ちぃっ!」



 キマイラが、毒々しい紫の液を俺に向かい吐いてきた。塊の液体がこっちに向かってくる。


 しまった!

 避けきれない!

 反射的に両腕を交差させ、身体を強張らせ目を強く瞑る。


 じゅうううう。


 耳にするのも恐ろしい、焼けるような音と煙が漂う。

 あれ?…身体は何ともないぞ。



 ソルトが俺の前にいて、盾で毒液を防いだのだ。


「ふぅ…間に合った。でも他の皆は間に合わなかった

 。もう少し早く僕が間に合っていれば…皆の仇だ! 手向けにこの剣をくれてやるぞ魔物共!」



 えぇええ!?

 いや、皆生きてるから!

 勘違いだから! おーい!


 呼び止める手に気付かずに、言い出す暇もなくソルトは盾を構えながら、猛ダッシュする。


 ギガンテスがその巨体から、丸太のような棍棒でソルトを上から叩きつけようとする。


 地面を揺らすような一撃は空振りに終わる。

 ソルトはひょいっ、ひょいっと棍棒から腕へと器用に飛び移り、肩まで移動する。


 纏わりつくハエを払うかのように、空いた手でがぶりを打つ。ソルトはそれもジャンプして避けて、頭に乗っかるとギガンテスの目を剣でついた。


 さらに、追撃で首への一撃。



「喰らえぇえええっ!」



 威勢よい掛け声と共に、ギガンテスは「グオォオオオオ」と悲鳴を上げうつ伏せに倒れ込んだ。


 ソルトは地面へ着地すると、衝撃を流すように一度転がってから姿勢をシャンとし立ち上がる。


「ふぅ」



 つっ…強い。

 見た目サーニャより少し背が高いくらいのチビッコなのに、自分よりもはるかに身体の大きいギガンテスを倒しちまった。


 あのワガママ姫にして、専属騎士もこの強さか。



「よっしゃあ良くやったソルト! 加勢するぞ!」



 状況有利と踏んだのか、死体と化していたルクスが剣を構え蘇った。


「うわぁあああー! ひぃっ…! ル、ルクスがあの世から戻ってきた」


 ソルトは俺の背中に隠れ、ガクガクブルブルと震えている。



「あ〜? 何言ってんだソルト。死んでねーよ。死んだフリしてただけさ。いい作戦だろ」


「紛らわしいな! 本気で心配したんだからな!」


「あちしも参加するぞ。投石攻撃してやるのだ」


「君もか」


「ぼ、僕もです」


 申し訳なさそうに、立ち上がるリュカ。


「あぁっ!?」



 ソルトが素っ頓狂な声を上げた。

 その方角へ、首を巡らすとアズシアが地面に、尻をついて座りこんでいるのが見える。

 相対するように、ラプラスがやや頭上に漂っている。



「ここは任せたよ!」



 ソルトがアズシアの援護に向かった。


 バタン。



「あちしは物言わぬ死体なのだ」


 再び死体と化すサーニャ。


「やってる場合か!?」



「グルルルル!」


 唸り声を上げたキマイラが爪を振り翳して、突進してきた。


 ぼとっ。


 最初は、何が起こったのか分からなかった。


 俺の腕が! 腕がゴミのように真横に転がっている。



「…っあぁああああああっ!」



 遅れてやってきた痛覚。

  我慢し切れずに、転げ回る。


 いてぇええ、痛えよ、ちくしょう!

 腕が…腕が! ちくしょう、ちくしょう!



「カナタ! てめぇえキマイラァ!」


 形振り構わずにルクスが、激情に身を任せ突っ込んで行った。

 一秒一秒の、時間の感覚が鋭敏になっていく。

 他人の最後を看取るかのように、スローモーションに。


 ルクスの剣はキマイラに届くことなく、強靱な爪で身体を引っ掻かれ倒れ込んだ。


 それを見て戦意を喪失したリュカは、事切れた人形みたいに座り込んで、現実を直視しないように目と耳を塞いだ。


 サーニャは死んだフリをしながら、小さなその身をガタガタと震わせている。


 血が流れすぎて目が霞んできた。

 やめろ…やめろ!

 こんな現実を俺は、望んでいなかった。

 ただ、この仲間達と平和に過ごしたかっただけなのに、何でこうなるんだ!?


 時間を戻せば、戻すほどに。

 俺の意思とは無関係に、薄情な神様が悪戯でもしてるかのように、より最悪な未来へと歯車は動いてゆく。


 それでも僅かな希望が、あるのなら。

 理想の未来を目指すなら、使うしかない。



  完全夢想の再遊戯リバイバルゼロ、発動!!!



 カウントが10秒から始まる。

 10秒だと?

 何故だろう、カウントが1秒ずつ縮まってきてる。



 これまでと違うのはカウントだけではない。

 視界の景色がブレるし、頭の神経が焼き切れそうなほどに痛い。


 身体は異常なほどに熱を帯びて、胸の底から吐き気が込み上げてくる。あまりの気持ち悪さに、草の上に倒れ込んでしまう。


 危険だ。

 身体が忠告している。

  完全夢想の再遊戯リバイバルゼロのを使うのは危険だと、身体のあちこちで信号を送っている。


 何でだ…。

 今までに気持ち悪さはあったが、ここまでの異常な身体への負担はなかった。


 連続使用が原因なのか。

 分からない、分からないことだらけだ。



「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ」



 薄目を開けると、キマイラが倒れ込んだルクスの頭を踏みつけている。

 地面にメリメリと、仰向けの頭から圧をかけられるルクス。 ルクスはぐったりとして、何とか震える手で抵抗を心見てる。



「早く…早くしろ…あと3秒!」


 より一層圧をかけられるルクス。

 ついに動きが止まる。


 2…1…0。



「っ早くしろぉおおお!」




 ーー

 ーーーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ