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14〜奈落の底へ②定められた死

 


「はぁっ…はぁっ…はぁっ」


 くそッ……当たらねえ!

 剣で突いてもダメだ!

 見た目通り、黒い霧の集合体のような姿のラプラスには剣が届かない。


  決して届かない幻を斬ってる気分だ。


 俺の怒りも空回りで虚しく、剣がヤツの身体といっていいのか分からないが、黒い霧を素通りしちまう。


 ラプラスは、その場で鬱陶しい悪魔染みた笑い声を上げてるだけだ。


 強大な力をもち、人の心を読むラプラスの悪魔。


 認めたくないが、確実に俺の手には余る相手だ。


 俺のもつカードといえば、基礎もなく覚え立ての炎の魔法とダメージ返し。それと 完全夢想の再遊戯リバイバルゼロ


 攻撃手段としては乏しい。

 ダメージ返しを使う前に、俺の体力がもたないだろう。ハルカがあれだけ手こずった、レイスを一撃で倒すラプラスだ。


 どのみち、時間は戻さなければならない。

 ハルカが死んだままの未来だなんて、俺には許せない。そんな未来は絶対に塗り替えてみせる。


(ニンゲンよ。どうやら貴様、時間を戻す珍しい能力があるようだが無駄なことだ)



 …心を読まれたか。

 チッ、本当にやっかいな能力だ。



「どういう意味だ。変えられるさ未来は」



 心を読まれたのが、腹ただしくて若干ムキになって返す。



(無駄だ。一度定められた現実は変えらはしない。一度死んだ者は別の形で、また死の道を辿る。お前達の言葉で言うと運命だ)



「…ふっざけんな! 適当なこと言いやがって! お前が封印される前に戻れば…!」




(ククク…愉快愉快、何度戻した時間を? 無駄な徒労だな、それにあの小娘は元々…)



 ラプラスの悪魔がそう言いかけたところ。

 アズシアの手が俺の肩をそっと押し出し、自ら前へと出る。



「お話しに夢中になってたようですが、周りは見えてらっしゃるかしら悪魔ラプラス」



 辺りを見渡した。

 あれだけの骸の騎士とガーゴイルが一匹も見当たらない。地獄を現世に再現したかのような、亡者の行進と夜空を穢す滑空者、この世の終わりみたいな風景だったのに。


 それを、こんな短時間にアズシアとソルトだけで、魔物を一掃したってのか!?


 本当に…俺の想像より遥かに強いんだな。

 驚かされる。


(ほう、外に出たばかりで召喚レベルの精度がまだ低いとはいえ、我が眷属を全滅させたか)


「当たり前でしょう。準備運動にもなりませんわ。もっとアズの実力を褒め称えるべきではなくて? 悪魔ラプラス」



(ククク…クワッハッハッハ! 面白い娘だな、この状況で本心からそんな言葉が出るか)



(やれやれ我の力も甘く見られたものだな。こんな小娘に低く見られるとは、少しばかり我が力を知らしめてやる必要がありそうだな)



「能書きはもういいです。かかっていらっしゃい。現にアズはお強いですわよ。魔法の腕はレゾニア王国一番と言われてますから」



(フン。いいだろう、絶望を噛みしめながら死ね)



「カナタ、皆を連れてアズから離れるように。魔法に巻き込まれますから」



「…分かった」



 俺達を気遣えるくらいに、ラプラス相手にもこの余裕。魔法に相当な自信があるのだろう。俺と比較して、実力差がアリとゾウほどあるのは分かった。


 だけど…悔しい。

 何も出来ない自分に腹がたつ。

 だけどいつか。アズシアのその小さな背中に追いついてみせる。


 アズシアが精神を集中しだした。

 息をすぅっと吸う音が聞こえる。


 すると、アズシアの真下から中心に、青色の魔方陣が浮かびあがった。いつもは魔法を使う時は魔方陣は出ていなかったはず。


 魔法陣は青色の輝きを放ちながら、その場で回転しつつ、やがて回転の律動が終わると魔法陣から薄い空気の膜のようなものが、浮かび上がってくる。



「凍れ凍れ大地よ。命ず命ず凍てつく氷の女王の名において。我が手は絶対不可侵の永昌となりて全ての活動を止めん! 凍てつきなさい! アブソリュートゼロ!」



 白い雪が空からパラパラ降ってきたと思うと、地表からは冷気をともなう煙が何層も出て、ラプラスの方へ向かっていく。


 霧のような身体のラプラスが、冷気から高速で移動しようとした。


 ーーだが

 

「逃がしません」


 アズシアがラプラスの方へ向け、虚空へ真っ直ぐ手を伸ばす。そして、開いた手の平をグッと拳の形へと閉じた。


 アズシアの動きと連動するように、冷気が急速にスピードを増した。冷気は形を変えながら、意志をもつとぐろを巻いた双蛇のようにラプラスに追いつき、そして姿を覆う。


 次の瞬間には、ピキピキっと氷の音がしたかと思うと3階立ての高さはありそうな、巨大な永久凍土のような氷壁が出来上がっていた。氷壁の向こうには、うっすら閉じ込められたラプラスの黒い霧のような姿が見える。


「さすがアズシア様! すっげええ」



 ルクスが後ろを振り返りながら感嘆する。

 確かに化け物すぎる。

 いったいどういう生き方したら、あんな魔法が使えるんだ。俺と大して年は変わらないのに。

 

「確かアブソリュートゼロって神級魔法だよ」


 リュカがボソッと呟く。


「うはぁー見たか!? さっすがアズシア様だ。将来、俺の嫁になるだけのことはあるな!」



 ルクスが何故か、自分のことのように誇りだし、さらには嫁とか言い出した。


「まだ諦めてないのか」


「ったりめーだカナタ。俺が生きてる限り可能性は1%以上あんだよ」



「ムボーなのだ」

「そうだね、プライドの高い人みたいだし、お姫様だもんね」



「うっせーよ、サーニャ! リュカ! 俺はアズシア様がいーの、アズシア様じゃなきゃダメなの!」



「将来、結婚したら子供の髪の色も、金髪だなルクス」


「やっ、…やめろよ! カナタ、こっこっ、子供とか、まだはえーよ!」



 おーおーおー。

 顔赤くして、嬉しそうに照れてる照れてる。

 恥じらい乙女かお前は。


「結婚は無理だと思うよルクス」


「てめぇえリュカ! お前の役目は頑張って! ルクスなら絶対大丈夫だよ! って励ます役目だろうがぁあ!」



「いたたっ!痛い痛い痛いってルクス!」



「こんな状況でよくやる。おバカさんなのだ」



 腕ひしぎ十字固めをルクスに決められ、半泣き状態のリュカ。いつも通りマイペースで、ツッコミを入れるサーニャ。


 ……皆に合わせてみたものの心が、鉛のように心が重たい。胸に不安がとめどなく押し寄せてきて、圧迫してくる。


 不安の種は家族やハルカのこと。

 特に一度、死んだ者は同じく死の道を辿ると言ったラプラスの言葉だ。ずっと胸の中に焼きついて離れない。



「うぇええん痛いよぉお!」


 結局泣き出したリュカをサーニャとルクスが二人でなだめている。結構、呑気だなこんな状態なのに。逞しくというか何というか。


 まっ悲痛な顔したところで、何も変わらないのは事実だ。それよりは笑顔の方がずっといい。


「そういやカナタ。ハルカ見たか?」


 俺はルクスの問いに、答えることが出来なかった。

 あのハルカの無惨な最後の顛末を…語れるはずないだろ。


 俺は無言で首を真横に振る。

 そして、なるべつ努めて明るい声で返す。


「大丈夫だろ。俺達の世代で天才って言われるハルカだ。ザコが何匹いたって負けねえよ、あいつが…負けるはずないだろ」



「まっ。そうだよな、何種類か魔法使えるもんな。ハルカに俺の火の魔法を自慢してやらねーとな、ハルカのやつ驚くだろうなぁ」



「…あぁ。きっと驚くさルクス。ルクスは魔法が使えないってずっと思い込んでたからな」


「だよなぁ! ハルカのやつーー」


 辛い…次々と自分で張り付けていく嘘を言うのが辛い。全く違う世界の出来事を、互いに語ってるみたいで心の底が冷えてくる。


 泣きたい…今すぐにでも泣き出したい。

 でも、この仲間達にこれ以上の絶望はいらない。似合わない。こいつらには笑顔がよく似合うから。


 この状況で、ハルカの最後は言えないよ、やっぱり。



「おいっ! カナタ!」


 大きな声に思考の海の中にいた俺は、ハッと顔を上げる。


 キマイラと、一ツ目の巨人サイクロプスが目の前にいる。


 魔物は、全滅したんじゃなかったのかよアズシア!

 話が違うぞ…どうする、どうする。

 考えろ、考えろ、考えろ!

一番完結まで書きたい話なんで、やっぱ続けます。

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