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13~奈落の底へ

 

 雨が止んだので、テントへ帰ろうとするアズシアを見送る。

 そこで気づいたんだ。

 空が‘やけに赤い‘と。ちょうど赤が指し示す方角には村がある、否応なしに不吉な予感が心中から沸いてくる。


 俺は走り出した。

 アズシアの何事ですか。という問いかけにも答える余裕もなく。


 森を抜けて辿り着いた先は、想像を絶する惨状が待ち構えていた。

 田舎情緒溢れる建物が、丹精込めて作った美しい畑が、全てが紅蓮の炎に包まれ音を立てて崩れていく。


 目の前の光景に、過去の緑溢れるアッテル村を重ねるが、面影などどこにもない。


「きゃぁああああああああああああああ!」

「うわあああああああああああああああああああ!」

「やっやめっ……頼む殺さないで家には家族……がぁあっ!」


 村人達の悲鳴。

 言語としては耳に入ってくるけど、現実逃避さながらの俺の脳内は凍ったように動かない。

 何が起きてるんだよ……だってルクスはずっと一緒にいたし。



 頭上の黒い天蓋に火の粉と黒煙が立ち昇り、その中を黒い翼をもつ魔物達が縦横無断に飛びまわり、村人の無防備な背中へと槍で突き満足そうに、醜悪な瞳の奥が笑たっように見えた。


「ギィギィギっ!」


 この山奥を月明りで照らしてくれる、普段見慣れたはずの月すら、村を侵略するやつらのせいで村を見下ろす、凶兆の印に見えてくる。


 地上はというと古びた剣を持つ骸の行軍と、ゴブリン共が村人や畑を破壊していってる。これが悪夢でなくてなんだってんだ!

 誰しも言葉はなかった。

 アズシアですら、呆然と目の前の地獄絵図を眺めて立ち尽くす。



 ようやくのこと口を開いたのはルクス。


「ど……どうなってんだこれさ……なあカナタ」

「……ラプラスの悪魔だ」


「ラプラスの悪魔って神話か何かの話だろ……そんなのが現実に」

「いるんだよ! そんなことも知らねえのかよ!」


 そして1回目にラプラスを解放したのは、お前だルクス。

 たかぶる感情とやり場のない怒りの矛先を、ルクスへとぶつけてしまった。


 ルクスもムッとした表情で返す。


「そんな言い方ねえだろ!」

「分かるんだよ俺には!」



「およしなさい。今ここですべきことは、言い争いをすることはないわ。分かったらその振り上げた拳は下げなさい、冷静になること、ねっ?」


 アズシアに諭され俺とルクスは殴り合い寸前の、拳を下ろす。

 まったくその通りだ。



「ソルト、貴方は逃げ遅れた村人の救出とザコの排除。私は空中のガーゴイルを一掃します、それとサーニャ、リュカ、決してアズの傍を離れないように」


「了解です。アズ様」

「は、はいっ!」

「わかったーでも……ひめさま。まもののかずがおおすぎる」


「ソルトは剣を構え、雄叫びを上げて闇の中へ溶けこでいった」


 彼もまた実力者なのだろうか。

 見た目は背も低いし、すごく弱そうなのだが専属騎士になるぐらいなのだから、力はあるのだろう。



「アズならこの程度の雑兵。城に生えている雑草を摘むより簡単なことです」


 普段は鬱陶しいだけのワガママ王女の、ナルシズムっぷりが、こんな状況ではやけに頼もしく感じる。一人だけヤケに冷静だ。


「さて、始めましょうか。トリニティボルト! 連射!」



 アズシアが詠唱すると、ガーゴイルの頭上から雷が落ちて、1匹、2匹、3匹と……正確にそして連続で落としていく。何事が起きたのかと、さすがに異変に気づいたガーゴイルが空へ視線を向ける。


 そこへ、また容赦のない雷の洗礼。

 すごい……あれだけ動いてるヤツの頭上へ正確に当てては、次々と撃ち落としていく。当の本人は魔法を連発しても、涼しい顔をしている。

 これほどの実力なら村の魔物を撃退できるかも。




「お……おいっ本当にやりやがった」

「俺……俺……冗談で言ったのに」



 後からトッズとモッズの声がした。

 2人ともやけに怯えた表情。

 目の前に地獄の光景が、広がっているのだから普通はそうなる。

 ただ、彼等に近づいたルクスにも、尋常ではない悲鳴と後ずさりして逃げようとした。何か咎められることを恐れているような……。


 まさか……お前らが、封印を解いたのかラプラスの悪魔の。


「おい! 何か知ってるのかモッズ、トッズ!」


 彼等は目を背けるようにその場でうずくまり、頭を抱えうつむいてしまう。


「答えなさい何をしたの?」


 厳粛な声のアズシアの問いかけ。


「冗談で言ったんだよ……お前らなんか死ねばいいって、それと……それと」


「それと何? 早く!」


「――こんな村滅べばいいって」


 トッズが弁明するように付け加える。


「で……でもアイツ。大金持ちにしてくれって言ったら大量の金貨降らしたんだ! ほっ、ほらっ!すげえ量だろ!? 持ちきれないから袋を取りに来たら、村がっ村っが……! おっ、俺達のせいじゃねえ!」


「なるほど……己の欲望と引き換えに村を、救えない話ね。」



 そういえばハルカは?

 ハルカは無事なのか?

 それに家の家族もだ!


「クソッ……!」



 凍った心が現実に縫いなおされて、活動を始める。

 それと同時に走り出す!

 まただ! 2度目だぞ2度目!

 未来を知ってた、俺がなんとかしなきゃいけなかったのに!

 愚かな自分自信に悪態をつきながら、目の前をうようよ徘徊する骸骨剣士の中へつっこむ。


「待ちなさいカナタ!」


 後から叫ぶアズシアの声にも、反応することもなく。


 急に向かってきた骸骨剣士が、俺に気づいて剣を振り下ろしてくる。


「どけええぇええええ!」


 降り下ろされた剣をジャンプして避ける。

 骸骨剣士の肩へと足を乗せて、空いた片足で後頭部への蹴り!


 骸骨剣士へ前に倒れ込み、ガランと音を立て地面に零れた剣を拾い、そのまま突っ走る。


「邪魔だぁああああ!」


 囲いこむようにやってきた骸骨剣士を1匹ずつ、剣でなぎ倒す。



 家は家は……ぁああああああああああああ!

 遅かった……遅すぎた、家が燃えてる!


 クソッ……クソッ! 

 クソぉおおおおおおおおおおお!


 待て……もしかしたら親父も母さんも妹シャムも、上手く逃げたのかもしれない。

 そう願いながら俺はハルカの家へと進む。

 ハルカは? じゃあハルカは無事なのか!



 結論から言おう。

 ハルカは確かに、そこにいた。


 黒い集合意識体の霧みたいな、ラプラスの悪魔とともに。


 黒いロープを思わせる霧がヤツから伸びて、ハルカの身体と足へ絡みつき、不自然に宙吊りにされている。

 そして、体がゼンマイのようにあらぬ方向へ、ゆっくりとねじ曲がる。


「ハルカっ!」

「カナタ……良かった、に……にげて」


 やめろっ……これ以上体を捻じ曲げたら、骨が折れるだろ……。

 ハルカがハルカが死んでしまうだろ。


「やめろラプラス! 頼むやめてくれ!」


 ラプラスの悪魔は俺の問いかけに答えない。


 クソッ! 今助け出してやるぞハルカ!

 俺がハルカの傍へ近づくと、ラプラスから伸びた黒い霧に顔を打たれた。


 いつのまにっ……!

 そして吹っ飛ばされる、ただの霧みたいなにに……いてぇええええ!

 巨大なムチで思いっきり叩かれたような感覚。

 ……体が動かせないっ!



 ぎぎ……ぎぎ……っ雑巾をゆっくり絞るかのような、糸のついたマリオネットが壊れてゆくかのような悪趣味な殺戮ショーは……俺のこの目の前でっ! 未だ繰り広げられている!


「カナタ……最後だから言うよ……私は貴方の……ことがっ……」




 最後の言葉は紡がれることなかった。

 ハルカの身体がボキボキボキっと、人の身体が曲がってはいけない方向へと曲がってしまっている。


 そして子供がオモチャ遊びに飽きたかのように、ラプラスの動きが制止すると、ボトっという音を残して見るにも無残な体が地面に落ちた。


 姿を見るのも、はばかられる無残な死体。

 上半身と下半身が超常的圧力で無理な方向へと曲げられ、真っ二つになり、地面は臓物と血に塗れグチャグチャとなっている。もうハルカは動きもしない、喋りもしない二度と。




(ニンゲンよ。我は約束を守っただけだ、どうやらこの娘、お前のことを好いていたようだな。甘美なる心の叫びと絶望。美しいハーモニーであったぞ……だがロクに悲鳴を上げなかったことはマイナスだ。他の者は命乞いをしたというのに)



「ラプラス……殺してやるっ! 貴様、殺してやるっ!」


 這いつくばりながら、地面の土を強く掻き毟る。

 こいつに一太刀浴びせる力をくれっハルカ!


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 必死の力を振り絞り、俺は立ち上がりラプラスの悪魔を見据える。

この話の反響次第で次第で打ち切ります

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