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12~アズシア様の洗礼

 


「うぇええええええええええん!」


 外からリュカの泣き声がして、現実へと縫い付けられるように意識を戻す。

 予想通り、リュカが泣きながら入ってきた。


「どうしたリュカ? 腹でも痛いのか? それとも転んだのか?」


 ルクスが心配そうに駆け寄った。


「モッズとトッズにいじめられて、追われて逃げてきた……ぐすっ……ぐすっ」


「あいつらかっ!」


 モッズとトッズは、いわばこの村の悪ガキ。

 外から越してきた兄弟で、村の子供達からお菓子をとりあげたり、農作物を盗んだり、気にいらない子供を見ればケンカをふっかけたりしてて、村の人達からの評判はよくない。



「男の子が泣くものじゃないわ。さっ、ハンカチ貸してあげるから、まず拭きなさい」


 意外だ。

 アズシアがイスから立ち上がって、ハンカチをリュカに差し出した。

 よしよしと、リュカの頭を優しそうに撫でている。


「ぐすっ……ぐすっ、ありがとう綺麗なお姉ちゃん」


 天元を突き抜けるワガママを発揮したかと思えば、たまに見せる慈愛に満ちた優しい女の子のような一面も見せるアズシア。やれやれ……俺達はこの奇想天外な王女に振り回されっぱなしだ。こういう意外な一面にルクスは惚れたんだろう。


 突如、基地のドアが乱暴に開かれる。


 モッズとトッズが入ってきた。

 丸々としたデブ体型がモッズ。

 ひょろ長くて筋肉質なのがトッズ。


 睨めつけるように基地内を見渡し、リュカを発見すると乱暴な口調で言う。


「リュカ、てめええ。こんなところまで追わせやがって!」


「この建物、お前らが作ったのか?」


 トッズの言葉に、敵意剥き出しでルクスが答える。


「そうだよ出て行けよ、お呼びじゃねえんだよテメーラ!」


「お前さー確か貧乏冒険者のとこの息子だろ。ハッ……家がボロいからこっちに住んでるのか? 食う物にも困ってるらしいな」


 初めて知った。

 ルクスの家はそんなに困窮してたのか、母親が亡くなって療養中の親父さんと一緒に住んでるのは知ってたけど。


 トッズはテーブル上の料理を一瞥して言う。


「食い物も恵んで貰ってたんだろ、へっ! 服も毎日ほぼ同じだもんなあ」


 ここまで来ると人格否定だ。

 俺もだんだん頭に血が上ってきた。

 水が100℃を越え沸騰するように、怒りが上昇していく。


「てめぇええええ!」


「お待ちなさいルクス」


 今にも掴みかかろうとするルクスを、アズシアが静止させた。


「おっ! すげえ可愛い子じゃん。村の子じゃねえよな、こんな奴等ほっといてよぉ、俺達と遊ぼうぜ」


 礼儀の欠片もない、モッズの言葉など気にしないような素振りで、例のごとく流暢な動作で扇子を口元へ当てるアズシア。


「――見苦しい」


「あん?」


「見苦しいと言ったのよ。その耳は飾りかしら? 知性の欠片もなく造形もイマイチで矮小な存在が、ちっぽけな力で暴力を振う、その様が見苦しい。アズはそう仰ったのです」


「兄貴? この子、何言ってるかよく分からねえんだけど」


 トッズが兄のモッズへ疑問形で投げかける。


「わかんねーけどバカにしてる気がするなぁ。どうなんだ?」


「アズの言ってる意味が理解できませんでしたか。目障りだから、今すぐ消えて頂戴な、10秒あげるわ」


「この女、ちょっと可愛いと思って調子に乗りやがって!」


「ちょっと? 冗談を仰いなさい、アズの魅力に世界中の花や、草木、動物、山や海に至るまで、そして赤子から老人まで、全ての男性が憧れを抱いておりますのよ、もっと褒め称えるできではなくて?」


 さすがのトッズとモッズも困惑したように、顔を見合わせる。

 この女……どこかおかしい、そんな表情で握りしめた拳が力をゆっくり解けていく。

 何せ当の本人はそれが素で、世界の常識、当たり前のこと、と本気で思いこんでいるのだから。


「こいつ、おかしいんじゃねーか……ちょっとなあ兄貴」

「お……おうっ」


「ふぅ……早く消えて頂戴な。何度言わせるのですか? 何度も同じことを言わせる人は嫌いよ」



「こ、この女舐めやがって!」

「少し痛い目見せてやるよ!」


 顔を怒りで歪め、同時に殴りかかろうとするトッズとモッズ。


 右、左からの同時に来る、男女無用の容赦ない顔面めがけてのパンチ!


 ――だが。


 扇子を持った左手は動かさず。

 空いた手右に水玉を瞬時に浮かべ、それを放つ。


「ぐぇええ!」

「うわぁああ!」


 トッズとモッズは顔面に喰らい倒れ込む。

 驚いた表情でアズシアを見上げ、後ずさりする。


「もっと喰らいたいかしら? もっともアズが本気で今のを放つと、その醜悪な顔面が砕け散るわよ」


「クっ……くそおおおおお! 覚えてやがれ!」

「テメーラ全員死んじまえ! バカ野郎!」


 2人は逃げるように秘密基地を去って行った。


「何でああいう輩は、捨てゼリフを吐いて去ってゆくのかしら。そんな無意味な言葉では、現実は何も変わらないというのに」


「ほぉー。かっちょいーひめさま、まほうがつかえるんだ」

「さすがアズシア様だ。スカっとしたぜ!」


 次々とアズシアを褒め称えるサーニャとルクス。


「でも……秘密基地の場所、ばれちゃったよどうしよう」


 リュカが不安気に、奴等が去って行ったドアを眺め言うのだ。


「へっ! 次に来たら俺が火の魔法で追い返してやるよ!」

「今のルクスの魔法じゃ、火の粉を見せて終わりでしょう、ビックリショー程度のものよ。まあ精進することね」



「ありゃっ。あめがふってきたのだ」



「仕方ありませんわね。雨が止むまで、ここで待機しましょうかソルト」


 俺は木の窓を開け外を眺める。

 風も徐々に強くなってくる。


 基地を揺らし叩き付けるような雨風は、嫌がおうにも不安を駆り立てられる。

 胸に去来する一つの不安。


 きっと大丈夫だ。

 ここにハルカを除いて皆いるし、ラプラスの悪魔が解放されることはない。

 外の風景を見ながら、俺はそう願わずにはいられなかった。


次話で大きく話が動きます。


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