ある転生者のスキル名
自分の前世の記憶があるというのは、すごいアドバンテージだと思う。何たって人生を一度過ごしているんだ、努力は大切なことだとわかっているし、勉強だって大事なことだとわかっている。こういったことは若いときはわからならくて、そして後から言うのだ、若い頃こうしておけば良かったなぁ……と後悔先に立たずの文字通り、悔やむことは後からしか出来ないのだから、だから僕ノイン・ヴァッシュは頑張るのだ後悔をしない為に。
僕の前世を一言で表すなら社畜である。三流の大学を卒業し、なんとか就職した会社で朝も早くから、夜遅くまで働いていたのだ。その疲れが溜まっていたのだろう、信号待ちをしている時に突っ込んでくるトラックに気づかなかったのは。そしてこの世界に転生した。
転生した世界は魔法ありスキルあり魔物あり冒険者ありのファンタジーの世界だった。レベルなんて物はなかったがゲームのように鍛えていけば強くなっていくそんな世界だったのだ。
僕は喜んだ。子供の頃から鍛えれば強くなることが出来る。
この世界では強いことはステイタスだ。魔物を狩って大金を手に入れる事もできるしなによりも女性にもてるらしい。
村にいる男の人でバラクさんと言う人が居るのだが、その人は元冒険者でかなり強かったらしい、贅沢しなければ一生を過ごせるほどの金を稼いで結婚をしこの村に来た人だ。そして……奥さんが超美人だ! バラクさんはブサメンなのに! オークに間違われたこともあるくせに!! 巨乳で美人の奥さんもらってんじゃねぇ!!!
……すこし興奮した、ごめんなさい。
これはバラクさんに限ったことでは無く強い冒険者の男はほとんど美人の恋人がいるらしい。
この話を聞いた時、僕が冒険者を目指したのは言うまでもないだろう。
冒険者志望の子供は少なくない、しかし冒険者という職業は死亡率が高い職業である、そこで僕はバラクさんに鍛えてくれるように頼み込んだ。バラクさんは危険と言うことで最初は渋っていたが、何日も頼み込んで何とか了承してもらった。何でも、勝手に魔物に突っ込んで行きそうな印象を受けたとのことだ。
バラクさんに指導を受けるようになった。でも一人じゃなかった、バラクさんの二人の子供、アリアとイリアの双子の女の子も一緒である。この二人は僕は同い年であり幼なじみでよく遊んでいる中だ。二人はバラクさんでは無く奥さんに似てとてもかわいい、将来はとても綺麗になるだろう。二人は僕に良くなついてくれており、特に頭を撫でてあげると顔を赤くして照れてくれる。とてもかわいい子達だ。
二人はいつも遊んでいる僕が修行をするから遊べなくなる言うと、自分たちも一緒にすると言って譲らなかった、とうとうバラクさんも折れ一緒に修行をすることになったのだ。
修行は基礎的なことがほとんどでとてもきつかった。バラクさんも厳しかったが社畜時代の事を思い出したら結構耐えることが出来た。
アリアとイリヤはバラクさんの才能を受け継いでいるのか、とても力が強いバラクさん曰く、豪力のスキルをもっているのではないかということだ。スキルは十歳までに誰でも一つ発現するらしくどこの地域でも十歳になると冒険者組合で鑑定してもらうらしい。鑑定料が結構高いらしく、十歳になるまではしないらしい。僕のスキルは何だろうか、……楽しみだ。
ある時にバラクさんが冒険者学校に行くように言ってきた。
「冒険者学校ですか?」
「ああ、俺は身体の鍛え方や基本的な事は教えてやれるが、魔法なんかは教えることができないからな、武器だっていろいろあるからな。冒険者学校でその辺教えて貰え」
「えっと……お金ってかかりますよね?」
「ああ、でもお前に修行をつけると決めたときにお前の親父には話を通しているから用意してくれてるはずだ」
「え!……本当ですか?」
「本当だ、まぁ一度でも修行に音をあげていたらこの話は無かったことになっていたがな……」
「アリアとイリアの二人もいくんですか?」
バラクさんは僕の言葉を聞いて表情が暗く陰った。
「冒険者は危険な職業だ。出来ることならやらせたくないんだがなぁ……二人ともお前と一緒に行くと言って聞かないんだ」
そう言うと、バラクさんは僕の頭に手を乗せると笑いながら言う。
「二人を悲しませたら……、わかってるよなぁ……」
その顔は笑顔だったが目だけが恐ろしく怖かった。そして頭に乗せられた手に少しずつ力が加わってくるのがわかって、僕は激しく首を縦に振ったのだ。
バラクさん……あなたの力でアイアンクローされたら、僕の頭はつぶれたトマトみたいになるんでやめてください。しかも顔がオークみたいで怖いのであまり近づけないでください、おねがいします。
スキルの鑑定まで後一ヶ月ほどとなった時には、僕は結構強くなっていた、弱い魔物だったら一人で倒せるぐらいになっていた、しかし一緒に修行していた二人は既に中級クラスの魔物を倒せるようになっていた。ちょっと二人ともおかしいんじゃないかな? バラクさんも顔ひきつってるよ……
「バラクさん僕、成長遅いですか?」
「いや、お前は才能あると思うぞ……、その年で最下級といえ魔物を倒せるんだからな。……
あの二人がちょっとどうかしてるんだ気にするな」
比較対象が二人しかいないのでどうしても比べてしまうのだが……
魔物を倒し終えた二人は笑顔でこちらに手を振っている。
でも先ずは顔についた返り血拭おうか?血を付けたままの顔すごい怖いから……
そんなことを思っていると、二人はこちらに向かって走り寄ってくる。
「ねぇ私すごかったかな? えらいかな?」
「私すごかったですか? えらいですか?」
一人は元気よく、一人は丁寧な言葉で同じ内容の事を聞いてくる。元気な方がアリアで丁寧な言葉遣いがイリアだ。
「うん、二人とも凄かったよ」
ほんとにな! ……ただ返り血を拭ってくれませんか?その顔で満面の笑顔……怖いんです。
「ホント! じゃあ、ほめて!」
「ほんとですか! じゃあ、ほめてください」
二人はそう言ってぐいぐいと頭を突き出してくる。これは頭をなでろとの事だ。二人は頭を撫でられることがとてもすきだ。
「ふ、二人ともお父さんも撫でてやろう。さ、さあこっちへおいで……」
二人を撫でていると隣から引きつったような声が聞こえてくる。
「ん~? いい!」
「いりません……」
撫でられて赤くした顔のままバラクさんの言葉を二人の言葉の刃で一瞬にして切り落とす……後に残るのは崩れ落ちたバラクさんだけだ。
……僕、悪くないよな?
「わたし、イリアよりすごかったよね? だからイリアよりいっぱいなでて」
「なにを言っているんですかアリアはとどめを指したのは私ですしノインはわたしをなでてくれますよね?」
二人は互いの言葉に反応し臨戦態勢に入ると、お互いのおでこをゴリゴリとくっつけあいながら、けんかを始める。
「え~と二人とも凄かったから、二人とももっと撫でるよ?」
だからケンカしないでくださいます? 二人とも豪力のスキルを持っているのは確実らしく、二人がケンカしたら周囲の被害がヒドイ事になるから……
そんな僕の思いもむなしく二人ともゴガン! とかドゴン! とかおよそ肉弾戦しているとは思えない音をさせながらケンカしている。バラクさんいつまでも落ち込んでないで止めてください。45歳独身のノックさんの家が巻き込まれて潰れそうですよ……
時が過ぎ、スキル鑑定も無事終え、三人とも冒険者学校の入学式を迎えた。今僕たち三人は校門の前で校舎を見上げている。正直アリアとイリアはもう通わなくても良いんじゃないかと思わなくもないけど一緒に通うらしい。
「ねぇねぇ! 今からこの学校に通うんだよね! 楽しそうだね!」
と僕の左腕に抱きついているアリアが言う。
「今日からわたしとノインの楽しい学校生活が始まるんですね」
同じように右腕に抱きついているイリアが言う。
「何言ってるのイリヤ? わたしとノインの学校生活の間違いでしょ?」
「……アリアみたいなお子様が、ノインに好きになってもらえるわけないじゃないですか。何たって胸無いですし」
「あはっ! もうイリアここで死にたいの? 」
「なんですか? 殺る気ですか?いいですよ? 」
二人はそう言って戦闘態勢に入る。アリアは身の丈ほどの大剣を構え、イリヤは身の丈を遙かに超えるハルバードを構える。
最近二人は僕の取り合いでよくケンカする。最初は若干、ヤンデレ風味な二人に引いていたが、何が二人にそうさせていたかその原因はスキル鑑定でわかった。僕以外の人はそのスキルの事をまるで知らなかったが僕はそのスキルを知っていた。二人をヤンデレ一歩手前まで惚れさせたのは間違いなくこのスキルが原因なはずだ。僕はこのスキルを最近ヤンデレ製造器を呼んでいる。だから二人に対しても僕は責任を取らなければいけないと思う。
「二人ともこんな所で暴れたら駄目だよ……、ほら、撫でてあげるからこっちにおいで」
そう言うと二人はすぐに構えを解いて笑顔で駆け寄ってくる。
僕のスキル名は”ナデポ”、撫でることで好意を抱かせ、撫で続けることでその好意を増大させていくスキル、そしてできあがるのはヤンデレだ……