霜田 雪の過去 後編
その後、家に戻った俺は医者から説明を受けるため、橘総合病院へ行った。
俺の症状は過去に例がないらしく、まだ名前はついていなかったが、橘先生は『制御欠如症』という名前で呼んでいた。
簡単に言うと、俺の症状は常に火事場の馬鹿力が出ている状態なのだという。人間は普段、本来の力の20%程度の力しか出せていない。だが、何らかの理由で脳のリミッターが外れるとフルに力を発揮出来るようになるのだ。だが、これは人間の身体の限界を超えた力が出てしまうため、普段は制限されているのだという。
俺は、事故とその後の友達の葬儀を経験したショックによって制御している部分が破壊され、常に火事場の馬鹿力が出ている状態だという。
先生は、
「今の雪君の精神の状態は不安定です。それに、今は自らの身体をも破壊しかねない状態に陥っています。入院という形をとられてはどうでしょうか?」
と言い、両親もそうさせたかったのだろうが、俺は
「なんで俺が入院なんかしなきゃいけないんだよ!」
そう言うと、そのまま病室を飛び出してしまった。
―――数週間後―――
クラスの友達からの視線に耐え切れずに、俺は不登校になっていった。
そんな俺を救ってくれたのは隣の県に住む伯母さんだった。
伯母さんは常に優しく、その家族も俺のことを手厚く歓迎してくれ、俺の新生活が始まった。
そのはずだった。
「なあなあ、お前、友達殺したんだって?」
「なんかこう、車で引かれた友達をぼこぼこに殴ったらしいぜ」
「それで葬式行ったってよ」
「誰?」
「見て分かんねえか?6年生の青木ってんだけどよ、お前ちょっとこっちこいや」
そういわれるがままに俺は体育館の裏に連れて行かれそうになった。
俺は、父親から武術を習っていたので、それにしたがってつかみかかる6年生の腕を手刀で少し強く叩いた。
『ボキッ』
そう鈍い音がして、6年生が悶えはじめた。
俺は何が起きたのかわからなかったが、医者に受けた説明を思い出して一人で納得していた。
だが、6年生の方は納得しなかったようで、次々と俺に襲い掛かる。
俺は、
"なんか怖いなぁ"
そう思いながら、近くにあった教卓を力任せに振り回した。
「うがっ」
「がはっ」
そんなうめき声をあげながら、6年生たちは文字通り『吹き飛んで』いく。
「お、おい…こいつヤバいぞ…」
「に、逃げろおおお!!!」
そう言うと、6年生たちは一目散に逃げ出した。
それと入れ替わりにやってきたのは騒ぎを聞きつけた担任の先生だった。
先生は、少し驚いたような顔をした後、すぐに怯えた顔になった。
俺は先生にすら見捨てられたのだ。
次回投稿は12日か13日になるかと思われます