奥の手/漆黒の龍
永らく間が空いてしまい申し訳ありませんm(_ _)m
さて報告をいくつか。
先ず第一に、最近【勇者side】の語りべとして活躍している『煌璃』という少女の名前を『灯里』に変更しました。これは本来前話で報告すべきことでしたが、忘れておりました。申し訳ないm(_ _)m
第二に、一日のスマホ使用時間が一時間に限定されました(泣き
これは単純に使いすぎていた私のせいなのですが……一時間でどうやって小説を書けとぉ゜・(ノД`)・゜
ま、まあ頑張ります。
それと最後に、すいません。
深夜の出番は次回になりそうです。次回こそ出します!必ず!
ですからこの度は平にご容赦をm(_ _)m
長くなりましたねσ(^_^;)
ではでは、本編へどうぞ〜♪
【勇者side】
勇者達と渡り竜らの戦いは苛烈を極めていた。魔術が得意な者達が竜を撃ち落とし、魔法を避け接近してきた個体を近接戦が得意な者達が切り伏せる。この戦法によって短時間で数多の竜を屠ってきた勇者達の表情はしかし、皆一様に曇っていた。
何故なら、彼彼女らは分かっているのだ。
________この状況が、長くは続かないことを________
いくら五ヶ月間一心に鍛錬したとしても、勇者達の体力は所詮子供のそれである。それに相手が如何に竜――――知能を持たない龍の劣化種だとしても、今の彼らの実力では、その一匹一匹に全力を注がなければならないのだ。
これで相手が十数匹程度なら、話は変わったかもしれない。しかしこの場合、少なく見積もっても千は下らない渡り竜を全て相手取るには、彼等は余りにも――――未熟すぎた。
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【一人称:side灯里】
(どうするっどうするっ!? このままじゃ皆ガス欠になる!!)
また一匹、新たに竜を撃ち落としながら、私は焦っていた。さっきは余裕ぶって開戦の合図なんか出してエラそうなこと言ったけど、正直あんなものは空元気だった。ああでも言わないと、あの不意を突かれた状態からの反撃など無理だと思ったからだ。
でもこの決死の反撃も、もう長くは持たない。皆の疲労度が目に見えて蓄積しているのが分かる。
特に近接戦で頑張っている風巻君や香取君、詩織の消耗が激しい。
そして実際、私も結構ピンチだ。実はもう魔力量が、本来の五分の一を切っている。
(もって…あと三十分くらい……!!)
その三十分で全ての竜を殲滅できるか……答えは"無理"だ。その三十分の間に今のままのポテンシャルを維持出来る訳がないし、第一敵の数が多すぎる。
その絶望的な事実に、私は思わず奥歯を噛み締めた――――その時。
竜の攻撃が、止んだ。
今まで執拗に、片時も此方に休みを与えまいと繰り返されてきた攻撃が、だ。
「……え?」
私は思わず声を漏らした。それは唐突に完成しつつある、頭上の光景を目撃したからだ。
乱れ飛んでいた渡り竜達が、上空へと集っていく。そして彼らは、空中のある一点を起点にゆっくりと、旋回しだした。
……ヴン……ヴン……ヴン……
ゆっくりと羽撃たく竜達の翼音が重なり合い、一つの音となって周囲に響く。
それは宛ら、空に浮かぶ――――漆黒の竜巻の様だった。
「なに、あれ……何をしようとしてるの? ……っ!」
黒の竜巻の異様さと発せられる一体となった翼音に気圧されていた私は、そこで――――気付く。
今この瞬間が、この攻防戦を制する、千載一遇のチャンスだということに。
乱れ飛んでいた竜達が一箇所に固まっている今こそ、まとめて殲滅できる可能性があることに。
(……怯えてる時間はない、か……)
私も、覚悟を決めよう。
「詩織っ、夏狩ちゃんっ! ちょっとこっち来てっ!!」
私は今この時を逃さない為に、必要となる二人の友達の名を呼んだ。
二人は突然の呼び出しに怪訝な顔をするも、私の真剣な声音に気付いたのか素早く寄ってきてくれる。
「どうしたの、灯里?」
こてん、と効果音が付きそうな動作と共に首を傾げる夏狩ちゃんは、後方支援型の魔術師だ。私のように魔力が特別多い訳じゃないけれど、それを補えるだけの"魔法の発動効率"がある。
魔法の発動効率と言うのは文字通り、魔法を発動させる際の魔力の使い方のことを指す。夏狩ちゃんの場合はこれが通常の人間よりも大幅に高い。数値に例えるならば、中級クラスの魔法あたりまでなら、魔力消費が『1』で済むようなものだ。
要は少ない魔力でも大量の魔法が発動できる、そういう能力なのだ。
「二人共、手短に話すから聴いてね?」
そう前置きしてから、私は話し出した。竜達が固まっている今が好機なこと、この状況を打開できる魔法があること、それを放つにはしばらくの間静かに集中しなければいけないこと。凡そ今からやろうとしていることを、出来るだけまとめて。
「つまりは……今からあの竜達を一斉に殺せるだけの魔法を放つ準備をするから、それまで灯里を外敵から守ればいいの?」
「っ――――うん…!」
一瞬『殺せる』という夏狩ちゃんのストレートな物言いに言葉に詰まってしまったが、私は肯定の意を込めて、こくんと頷く。
「分かった」
「頑張ってね灯里ちゃん!」
「ありがと――――絶対に成功させる……!」
少し離れた位置で頭上の竜達を警戒し始めた二人に、心の中でもう一度お礼を言った。
そして同時に思う。
あそこまで言い切ったなら――――もう失敗は出来ないな、と。
(……まあ、するつもりも無いけど)
二人の目には未だ光があった。勝つことを諦めていない、闘争心を宿している、そういう目だった。だから私は二人を信じ、二人も私を信じてくれた。
でもそれは皆じゃない。クラスメイトや兵士達の中には、既に瞳に光彩を欠いている者だっているのだ。
(その目にもう一度、生への執着を宿らせる為にも――――)
「ふぅ…………」
目を、瞑る。
これから使う魔法は、王書庫の文献から見つけたものだ。生半可な魔力量では発動不可能なその魔法には、今の私の魔力残量では到底足りない筈だ。
だから魔力を練る。体中の魔力を両腕に集め、その存在を粒子一つ残さず明確に意識する様に。
限界まで高めた魔力で最高のパフォーマンスを掴み取る様に。
それでも魔力は足りないだろうが、それによって引き起こされる昏睡くらいならいくらでも引き受けてやる。
ある種やけくそのような心情で、私は魔力を高め続けた。
(大丈夫、魔力は安定してる。別に呪文もなにもいらないんだ。いるのは只ひたすらにイメージすること――――大丈夫、絶対に成功する)
そう自身に暗示をかけながら魔力を高めて、暫く経った頃。
突如、周りの空気が変わった。
辺りが水を打ったように静まりかえり、
……ヴン……ヴン……ヴン……
未だ渦巻き続ける黒い竜巻から、翼音だけが響く状態へと周りが巻き戻る。
(? 一体なに、が……)
そしてその状況を深く考えるよりも早く、突如――――暴虐的なまでの『恐怖』の感情が私を襲った。
「――――っ!!」
霧散しそうになった魔力を慌てて押し留める。
それでも尚、私の心は悲鳴を上げていた。
――――ここから立ち去りたい
――――周囲と壁を作りたい
――――どこかに閉じこもりたい
負の感情がひたすらに湧き上がる。
(目を開けちゃ駄目だ。そしたら私は――――きっと壊れる。
大丈夫だ。皆がもう少し持ちこたえてくれれば、この状況を打開できるんだから)
だがそんな私の希望は虚しくも、
「う、うわあぁぁぁぁぁ!!!」
クラスメイトの一人が上げた、悲鳴によって打ち砕かれた。
叫んだ男子が後方へと逃げていくのが、足音で分かる。そしてそれに便乗するように多数の悲鳴や足音が、後方へと遠ざかって行く。
(陣型が崩れたっ!?)
目を開けたい。
(でも駄目だ。もう少しで万全になるんだから)
私も逃げたい。この重圧から解放されたい。
(あと少し。あとちょっとだから……!!)
その時焦る私の耳に、
「灯里、竜の親玉みたいのが出てきた。竜巻が崩れる――――!!」
「頑張って、灯里ちゃんっ!」
私を守ると約束してくれた二人の友達、詩織と夏狩ちゃんの声が聴こえた。
それに私は言葉には出さず、首を縦に振ることで了解を示す。
「大丈夫、私達は絶対逃げない。灯里を守るよ?」
その夏狩ちゃんの声と一緒に、頭の上にぽふっと手が乗せられるのが分かった。小さくも温かいその手は、私の頭を二、三度撫でてからゆっくりと離れていく。
つい目頭が熱くなった。今鏡で自分を見たら、私の口元はだらしなくにやけているに違いない。
多分、夏狩ちゃんは私が不安げなのに感づいたんだろう。心がどうしようもなく不安定で、いつ壊れても可笑しくなかった私の心情を、見透かされてたんだ。
だから落ち着かせようと、安心させようと話しかけてくれたんだ…………。
(つくづく、良い友達を持ったなぁ……)
二人の心遣いに胸の内が熱を持つ。
いつの間にか、不安は消えていた。
そして、
(大体、準備は整ったかな……?)
私はゆっくりと目を開けた。
周囲の光景は、目を瞑る前より幾分かひどい状態だった。
元からあった討ち取られた竜達の亡骸に加え、逃げた者たちの剣やら防具やらが散乱している状態は、この場が『戦場』であるとはっきりと意識させる。
「灯里、あれ……」
「ん? ……っ!」
夏狩ちゃんの指を辿った先に居た者に、思わず息を飲んだ。
再び足が震えそうになるのを必死に堪える。心が拒絶反応を示し、顔から血の気が失せはじめる。
そんな時、
ぎゅう……
「えっ、夏狩ちゃん、詩織……」
左右から握られた手の平から、もう一度体全体へと温かみが行き渡っていった。
二人の顔を交互に眺める。彼女達は自分達も青ざめながらも、こちらを労る様な視線を向けてきていた。
そんな二人の優しさを噛み締めながら、私は握られている手に一層力を込めた。
「ありがと……もう大丈夫」
恐怖心は未だあるけれども、逃げたいという気は、もう――――起きない。
私は、目の前の敵を改めて見つめ直す。
(あれが親玉……確かに、逃げたくなるのも頷ける、かな……)
それは黒い龍だった。鮮血を流し込んだ様な深紅の双眸に、アーマーを彷彿とさせる黒い鱗。そして極めつけは、悪魔の如き黒き二対の翼。
本当に、『狂いそうなほど恐ろしい』、そんな表現がぴったりだ。
親玉は動かない。
自分から動く気がないんだろうか?
まあ、好都合だ…………。
「詩織、夏狩ちゃん……今から彼奴ら、まとめて吹き飛ばすから…!」
叫ぶように宣言し、両手を前に突き出す。
そっちが来ないなら此方から、先手必勝、そんな言葉を脳裏に思い浮かべながら――――私は想像する。
――――天を貫き現れる二筋の巨光
――――神の天罰を思わせる、巫山戯た威力の双雷
________神級雷系魔法________
「《裁きの双雷》ッ!! 消し飛べっ!!!」
唱えた瞬間、体から力がガクンと抜けた気がした。いい知れぬ倦怠感に、凄まじい睡魔が襲って来る。
(うわっ……今すぐ倒れ伏したい……)
頭の中で弱音を吐く。だがその思いとは対照的に、私の顔は明るかった。
何故ならこの状態は、魔力を無理矢理引き出したことによる魔力枯渇が原因だから。
そしてこの状況での魔力枯渇は、そのまま目標の達成――――つまり、
突如、空が閃いた。
雲を割って現れた二筋の落雷は文字通り――――神の裁きの如く、前方より此方を睥睨する竜の群れへと、降り注いだ。
________ズドォォォォォォオオオオン――――!!!
『グアッ________!!!』
魂を震えあがらせる雷鳴に周りの音が飛んだ。一時的に目の前が真っ白になる。
でも、それでもいい。今回の双雷は敵を指定して放ったものだから、味方に与える影響はいずれ治まる。
それよりも今は、
(どうだ、どうだ、どうだっ! これで終わった……これでやっと――――重圧から解放される……!!)
心の底から安堵が浮かんだ。成功するかどうか自信がなかった。小規模になるんじゃないかと不安だった。
でももう大丈夫だ。
あの規模の魔法を受けたら、如何にあの竜の大群だって木っ端微塵になるだろう。
そう、思ってた。
――――視力が回復していく。
でも現実は非情。
――――音が戻ってくる。
そんな私の安堵を嘲笑うかの様に、
――――舞い上がった砂煙の中から、
憎悪に歪められた、深紅の双眸が覗いた。
________戦いは未だ、終わってはいなかった________
如何だったでせう?
今回はクオリティ重視で書いてみました(出来ているかは別として……)
何か伝達の際は活動報告に乗せておりますので、ページをスクロールさせて下にある『作者マイページ』からどうぞ!