開戦の狼煙を、
皆様こんにちは、鹿米夕ヰです!
この度感想が60件に到達しました!O(≧∇≦)O
本当にありがとうございます、これからもじゃんじゃん待ってます!
「まったく、酷いよリュウさん……。
この五ヶ月間ずっと俺のこと女だと思ってたなんて……」
『む、むぅ……すまぬシンよ、全く気が付かなかった』
「カハッ!?」
しょげる深夜に、リュウさんの無自覚な精神攻撃が突き刺さった。今や目尻に涙まで溜めている彼は、それでもめげずにリュウさんを問い詰める。
「だ、第一、普通女性なら自分のこと"俺"なんて言わないよね?」
『ふむ、確かにそうだが……主の世界では違うのかと思っていたのだ』
「は、反論できない……!! そ、それじゃあっ――――なんで体拭いてくれた時に気付かなかったの?」
『我は《蔓の腕》を使って主の上半身と手足しか拭いてない。それに上半身を拭く時も、なるべく顔を背けておったからな』
「だからかっ! 体を拭いてもらった後から俺の胸を憐憫と慈愛の目で見てくるようになったのはだからかっ!!」
(疑問に思ってたことが解消されても全然嬉しくない!)
「それに今思ったんだけど……五ヶ月で髪が腰までって、伸びすぎじゃない? 普通そこまで伸びないよね?」
『あぁ、それなら多分、我が採ってきた薬草の中にその様な効果のものが入っておったのだろう』
「結局種撒いたのもリュウさんだったっ!?」
『まあ落ち着け、シンよ。先程から蚊帳の外の最高神が拗ねておるぞ?』
その唐突な振りに、深夜の背後でリュウさんの子供と戯れていた女神様は「なっ!?」と驚く。
あわあわと深夜へ振り返る彼女の瞳は、水を得た魚の如く泳ぎまくっていた。
「べ、別に拗ねてなんかいませんよっ!
私はただずっと話し込んでいるリュウさんの代わりに彼の子供と遊んでいただけで、別にもうちょっと気にかけて欲しいだとか、少しは話に混ぜて欲しいだとか、そういうことは一切考えていませんよっ!」
『別に考えていた内容を告白しろとはいってないのだが……』
「あ…………」
ぼんっ、と音の出そうな勢いで女神様の顔が一瞬で朱色へと染まった。彼女は「〜〜〜〜!!」と声にならない悲鳴を漏らしながら、深夜の胸をぽかすかと叩く。
「な、なに? どうしたの女神様!?」
「……わ……さい……」
「わ、なんだって……?」
「忘れなさいっ! 今の会話、全て! 速急に!!」
「はぁ? め、女神様一旦落ち着いてっ!」
「ウガーッ! 私は十分落ち着いてます! 正常です!」
「め、女神様の可憐で淑やかなキャラが崩れて…………」
唐突に……
________......ゾワ......________
「________っ!?」
「________む?」
『________ぬぅ』
背中をひと撫でされるような悪寒に深夜は振り返る。女神様とリュウさんも同じく感じた様で、眉を顰めて深夜と同方向を向いていた。
「女神様……今のは?」
「……恐らく、瞬間的に放たれた莫大な神気の波でしょう……」
彼女は少しの間思案した後、自分の見解を口にした。
「神気の、波? じゃあ今のをやったのは……」
「私達と同じく――――神。それしか考えられません」
神がわざわざ神気を放出させて何をやろうとしたのか、深夜がそれを女神様に問う――――否、問おうとした時、
『シン、ルークスキアの上空に黒雲が渦巻いておる……あれは、なんだ……?』
言われて、深夜と女神様はルークスキアのある方向に目を向けた。
果たして、
「黒雲? ……いや、違う……! あれは雲なんかじゃないよ、リュウさん」
人の限界を超えて強化された視力は、彼の国の上空に渦巻くものの正体を正確に捉えていた。
それは、
________何千と犇めく、渡り竜の群れだった________
「あれは――――あれは全部渡り竜だ」
『っ莫迦な! 何故あのような数の竜どもに今まで気付けなかったのだっ!?』
「恐らく、先の神気の波を使って大規模な転移を行ったのでしょう」
驚愕するリュウさんに、女神様は冷静に告げる。その姿に、先程までの恋する乙女のような雰囲気は一切残っていなかった。
「神気とは、神が最強たる所以。神気はその持ち主の意思によって自在にその能力を変化させます。先の戦闘を見ていましたが、敵の竜の火球を花弁へと変えたのも、深夜の神気の力。
恐らくあの神気の持ち主は、自らの神気に転移という効果を持たせて、予め集めておいた大勢の渡り竜達を先の"波"によって国の上空へと転移させたのでしょう。そして恐らくその理由は……」
『________まだ未熟であろう、勇者一行の殲滅か……』
深夜は唇を噛む。
黒雲のようだった竜の群れは、今や竜巻のように地に接している。既に、戦闘は始まっているのだ。
(先手を打たれたか……! だがどうする? 相手方にも神がいる以上、助けに行っても返り討ちにあう可能性もある…………)
________本人は一切意識していないが、深夜は独り言や思案する時、心を許していない人間と話す際に限っては、その子供のような言葉遣いが抜け落ちる。それは逆に、心を許した人間には限りなく無防備になってしまうという事なのだが、彼も周りもそんなことを気にしてはいなかった________
そんな深夜の葛藤を感じとった女神様は、彼の背中を押すべく声をかけた。
「シンヤ、行って来て下さい。
大丈夫です、恐らく先の"波"を使ったことで、敵の神は今一時的に神気をかなりすり減らしている状態のはずです。神との戦闘にはならないでしょう」
「……そうなの?」
「はい……この局面、今の深夜なら無傷で生還することも可能です」
『……ふむ、ならば我も行くとしよう。 先程の借りをシンへ返さねばな......』
何処か急かしているような女神様の言葉に困惑する深夜だが、リュウさんの言葉で気持ちを切り替える。
(そうだ、今は考えてる場合じゃない。誰一人死なせる訳にはいかないんだ…………!!)
深夜は黒に飲み込まれつつあるルークスキアへと目を向けた。先程から頻繁に地上から放たれる雷や炎が、戦闘の苛烈さを伝えていた。
と、その時、突如黒雲が二つに割れた。
そして、即興で空に出来上がった竜達の道からやおら降下していくモノの存在を――――深夜は見た。
________漆黒の鋭鱗に、深紅の双眸、更には背に生える"二対の"黒翼。
圧倒的な存在感を纏うそれはやがて、王都の都市壁に遮られて見えなくなる。
「…………っ!」
その存在が見えなくなってようやく、深夜は自分の膝が震えていたことに気付いた。
神へと成って、格段に向上した精神力。その精神を持ってしても、気圧されたことを知る。実戦闘では下せる相手かもしれない。だが、本能的な部分で、人間の感性を引きずっている部分で、自身があの黒龍へと恐れを抱いたのを、深夜は感じた。
「は、はは……」と空笑いをして、彼は改めて彼の国を見据える。
(なんだよ、あの殺気は…………あんなのに、あんなのに今の彼奴らが勝てる訳がない…………!!)
「皆が……ヤバイッ!!」
「____待ってください、シンヤ」
焦燥に駆られ、神気を使い転移しようとした深夜を女神様は呼び止めた。そのまま、諭すように語り出す。
「今ここで神気を使えば、敵側の男神に気取られる恐れがあります」
相手の神の神気がいくらすり減っていても、何らかの撃退工作を受ける可能性はある。そう語る女神様に、しかし深夜の焦燥は収まらなかった。
ならどうやって向かへと?
俺は何をすればいい?
どうすれば級友達を助けられる?
深夜を落ち着かせようとする意図の言葉が反対に彼を焦りの土壺へと落としていった。友を思う彼の気持ちが、普段ならば絶対に考えない『どうせ他人事だろ』などという邪推までを呼び寄せる。
ふと、胸の辺りに暖かみを感じた。深夜が首を傾けると、そこには彼の胸元に両手を触れさせる女神様がいた。彼女は深夜を見上げ、
「焦りで己を見失ってはだめです。極端化した思考は疑心暗鬼を招きかねない」
その温もりで彼の焦りを溶かすように、彼女は続ける。
「貴方の大切な人達とて、貴方が思っているほどひ弱では無いのですよ? 私が授けた加護もありますし、何より一人、最も可能性に溢れていた少年には少々特別な加護を授けています。安心して……とは言いませんが、時間稼ぎにはなるはずです」
女神様はそう言って笑った。
気がつけば、先ほどより視界が広がっているように思えた。頭が幾分か冷え、正常な思考が働く。自らを諭してくれた女神様に感謝の念を抱きつつ、考える。
(神気を使うのは不味い、と。となれば走るしかなくなるんだけど、それでもだいぶ遠いんだけどなぁ)
今ここからでも見える都市壁は、地平線の彼方とは言わないがだいぶ離れて見える。神の体だということを引いても、走ったら10分はかかりそうだ。
(走る以外で最速の手段か……)
ふと、思い浮かんだある考えに背後を見上げる。するとそこには、既に背を低く保った龍さんがいた。呆れたように、彼の龍は息を吐く。
『ふむ、この場の移動手段で言えば我が最速であろうな』
「龍さん……」
『_____乗れ、深夜。我ならば5分で着ける』
そう言い切る龍さんに、深夜は大きく目を見張り、やはり大きく頷いた。その巨躯の元へと歩み寄り、差し出された脚を使って器用に緑龍の背中へとまたがった深夜は、そこで女神様に目を向けた。龍さんが背を立てたことによって、普段より何倍も高くなった位置から、彼女を見つめる。見上げる彼の女神は、少年を送り出すようにそっと――――頷いた。
「……行こう、龍さん」
『うむ』
その一言とともに龍さんが翼を広げる。翡翠色の表面に裏面の薄い肌色の翼膜。一つの芸術としても洗練されたその大翼を羽撃たかせて、深夜達は宙へと浮かび上がった。
眼下では尋常じゃない突風が吹き荒れているが、女神様は何食わぬ顔でそれをうけ、彼女のその金糸と身につける衣服だけがバタバタとなびいていた。巣から転がり落ちないようにと抱き止められた幼龍が、煩わしそうに体を震わせている。
「女神様ぁ!」
「なんですかぁ!」
高度が徐々に上がり、だんだんと彼女たちが遠くなっていく。深夜は眼下を見下ろしながらそう叫んだ。そして返事を返した女神様に向かって、一言。
「_________ありがとう」
「ぁ…………」
彼女がなにか返す前に、十分に高度を上げた龍さん達は王都へと飛び去っていく。
小さくなっていく彼らの姿を見つめながら、女神様は。「ご武運を」…と呟いた。
後に残ったのは、金糸の髪を持つ華奢な体の少女と、彼女の腕のなかで風から逃れようと身をよじる、翡翠色の幼龍だけだった。
そして金糸の君――――女神様はぽつりと呟く。
「さてこちらも――――開戦の狼煙を、上げに行きましょうか…………」
今、この世界史上最も苛烈を極めた、人と魔の者、女神達と男神達との世界戦争が、始まろうとしていた。
如何だったでせうか?
今回はさりげなく説明がいくつか……!!
次回は謎の一人称+勇者sideです!
ではではっ!