第一話・異世界召喚
質問文:英雄の定義って何だと思いますか?どういう人が英雄になれると思いますか?
20〇〇/6/15/15:30
回答1:やっぱり、悪い奴をやっつけるヤツなんじゃない?警察みたいに犯罪者を捕まえていたらなれると思うよ!!
20〇〇/6/15/20:41
回答2:どんな理由であろうと命を奪うものが英雄であるはずなどありえません!!人の命を救う人こそが真の英雄です!!ですから、医者を目指すべきです!!
20〇〇/6/16/03:02
回答3:英雄の定義など時代により変化する物だからその質問は無意味なのでは?
20〇〇/6/16/07:22
回答4:一口に英雄と言っても英雄には様々な種類があります。戦争で武勇や知略を以て多くの敵を倒す者、災害や病で消えゆく命を救う者、発明や発見で不可能を可能にする者、平時に民衆を導く為政者も英雄と言っても差し支えありませんし、歴史の表に出ずにあえて後ろ暗いことを引き受けることで結果として人々を救うダークヒーローのような英雄も存在します。それ以外にも本人に英雄としての資質はなくとも英雄同士の縁をつないだり、後の英雄を育て上げる人もまた英雄と言っても良いのではないかと思います。言いかえれば、誰もが英雄としての資質を持っているとも言え、もちろん、誰でも英雄になれるわけではありませんが、誰が英雄になってもまったく不思議ではないものだと自分は思います。
20〇〇/6/18/15:47
回答5:英雄なんぞこの世にいるはずないだろう。
20〇〇/6/20/17:54
回答6:現実が見えていないのですね。早く厨二病は卒業してちゃんとした職業に就職できるように努力しないと後悔するのは自分ですよ?
20〇〇/6/21/21:39
「とりあえず、回答4にベストアンサー入れておくか・・・」
都内にある公立の高校の教室で中条速人はスマホを操作しながら、ネットの質問サイトを眺めていた。
別に本気で英雄なんぞになりたいわけでもないが、ネット住民たちがどんな反応するのか見てみたくて質問を投稿してみたが、予想以上の結果(勿論悪い意味で)に『やらなきゃよかった』と後悔しているところである。
「まあいいや。部活に行こう」
速人は家で修理するために持って帰っていた竹刀袋を担ぎ、体育館の一階にある道場へと向かった。
胴着に着替えて道場に着くと、すでに後輩たちが雑巾がけを終えていたところであった。
「悪い悪い。ちょっと遅くなったみたいだな・・・」
「「「「「「「主将!!お疲れ様です!!」」」」」」」
「お疲れ!!それじゃあ準備体操するから全員集合!!」
速人の掛け声に全員が竹刀を持って道場に広がり、竹刀を床に置いて準備体操を始めた。
準備体操と素振りが終わり、防具をつけて二人一組での基本技の練習や体力づくりのために道場の端から端まで連続技を繰り出す稽古を終え、一端休憩の為に防具を外して水分補給をしていた。
胴着は熱が籠りやすいため、道場の端に設置されている業務用扇風機の前で袴の内側に風を送って冷やしている者もいる。
「それじゃあ、そろそろ時間だから休憩はここまで!!」
15分の休憩が終わると、再び防具を着け、今度は試合と言うより模擬戦に近い形式でそれぞれ相手を作って行う地稽古を行っている。
「ちょっと待て!!」
「はい!!」
「竹刀の握りが外側に開いているぞ!!雑巾を握り込むように内側に握らないと素早く振れないから気を付けろよ!!」
「分かりました!!」
速人は構えている後輩の女生徒の動きを止めて指導していく。
こういう稽古では、同級生同士で試合に近い勝負を行うのもいいが、不文律として下級生は上級生に積極的に挑んで悪いところを指導してもらうように心がけている。
まあ、三年生は速人一人しかいないため、基本的に彼はこの稽古では後輩を指導することが殆である。
ちなみにこの学校の剣道部は珍しく女子の数が男子よりも多く、二年生は男子4人に女子4人、一年生は男子3人に女子7人である。
地稽古の後は互いに防御なしでひたすら15秒間打ちあう掛かり稽古を行って毎日二時間行われる部活動は終了した。
シャワーで汗を流し、更衣室で制服に着替えた速人は帰宅しようとしていた。
しかし・・・・。
「先輩!!」
後輩の女生徒の呼ぶ声に速人は振り返る。
「どうしたんだ?」
「先輩!!どういうことですか!?」
「だから何がだい?」
「今年の総体、どうしてメンバーに先輩の名前がないのですか!?」
総体とは正式名称を全国高等学校総合体育大会と呼ばれ、一般的にはインターハイと呼ばれる夏に始まる一年で最も規模の大きい大会である。
速人は今年で三年生であるため、これが最後の大会であるのはずなのだが・・・・。
「監督とも相談して決めたことだ。ここ数年負け続きで予算も削られている。これ以上黒星が続けば来年には下手をすれば廃部の危機にもなりかねないからね。だけど、君たちに二年生も今年入ってきた一年生もみんな才能に溢れた逸材ばかりだ。今年は本気で狙えば全国を狙える可能性だってある。今年俺が大会に参加して来年以降の可能性を潰すより、確実に今年は勝って来年再来年も盤石の態勢で挑んでほしいんだよ」
速人が通う高校は文武両道の校風を掲げており、特に部活動に力を入れているため、非常に多くの部活動が存在する。
しかし、それは同時に実績のある部活は優遇されるが実績のない部活は激しく冷遇される実績合戦の激しいことを意味していた。
元々、都内の狭い土地でいくつもの部活動が場所の取り合いをしている状態であり、三階建ての体育館の一階の道場を剣道部や卓球部、フェンシング部などとシェアしていたり、建物の屋上にテニスコートやプールなどがあるところからも、日常的に場所取り合戦が繰り広げられていることも想像に容易いだろう。
速人の所属する剣道部は速人の代は他にも何人かいたが全員やめてしまい、今は速人しか残っていない。
しかし、この速人に少し問題があった。
別に練習をさぼっているわけではない。
彼は部員全員で見ても、あるいは歴代でも1、2位を争うほどの部活動出席率を誇り、非常にまじめに練習していることでも評判である。
だからと言って授業をさぼっているわけでも、素行に問題があるわけでもない。
彼を一言で行ってしまえば、『弱い』のだ。
誰よりも真面目に練習しているにも関わらず、実力が低く、ここぞと言う時でいつも勝てない。
別に体格で劣っているわけでも(剣道において体格の不利は大して意味はない)、頭が鈍いわけでも(学校の成績は中の上レベル)、ましてや剣道において致命的な癖があるわけでもないが、何故かいつも負けてばかりなのである。
運動部、特に個人種目の競技の主将は一番強い者が務める不文律があり、特に剣道の団体戦では主将が大将(5番目)を務めることが多いが、彼が主将なのは最上級生が他にいないからであり、試合はいつも次鋒(2番目)を務めている。
ちなみに、剣道の団体戦においてのセオリーではチームの士気を高める先鋒(1番目)、確実に勝ち数を稼ぐ中堅(3番目)、最後の最後で勝負を決める大将(5番目)の三つは特に負けられない役割であり、その次に重要なのが勝てば大将を待たずに勝負が決まることの多い副将(4番目)である。
要するに彼の勝負はいつも捨てられているのである。
上級生が卒業していくと団体戦の場合、人数の関係(正規5人と補欠2人の計7人)で同級生がいなければ彼が試合に出る機会は自然と増えてしまう。
そして、ここぞと言う場面で彼が負けることにより、自然と初戦や二回戦での敗退が増えていったのである。
敗退があまりにも続いたため、剣道部に支給される予算も削られ続け、遂には廃部一歩手前まで来てしまったのだ。
そこで、彼は最後の総体も早々に諦め、夏を待たずして高校剣道を引退し、後輩に託すつもりなのである。
「そんな!!私たちがこうして剣道ができるのは先輩の指導のおかげなんですよ!!なのに最後の大会に出られないなんてそんなのあんまりですよ!!」
実は今の監督は速人たちの世代に新しく赴任してきた人で剣道経験は学校の授業くらいで後輩の指導は実質速人一人で行っていたのである。
「やっぱり私は納得できません!!監督にもう一度直談判してきます!!」
「あ、おい!!」
そのまま踵を返した女生徒は速人の言葉も聞かずに走り出してしまった。
「・・・ったく・・・まいったな~」
「こんなところで何しているのよ?」
「美香・・・」
道の角から、同じクラスの柏木美香が顔を出してきた。
どうやら所属している生徒会の帰りらしい。
「聞いてたのか?」
「あんな大声だと聞こえない方が不思議だって」
「それもそうか・・・」
「今年の総体出ないの?最後なのに・・・」
「まあ仕方ないさ」
そう言って速人は女生徒が去った方向を見つめる。
「・・・随分と慕われてるみたいね」
何故か不機嫌そうな美香が速人に尋ねる。
「まあ、彼女が入学したころから一生懸命指導してたからな。始めは竹刀の持ち方すら知らなかったのに、この間の個人戦では準優勝してたんだぜ」
「まあ、あんたは前々から人に教えるのは異常に上手かったからね」
「いや、彼女の才能と努力の結果だよ」
そう言って歩く二人は校門に差し掛かると人影を目撃する。
ここは高校の校舎であるにも関わらず、その人物の身長は異常に低く、その背中には赤いランドセルを背負っていた。
「史夏ちゃん?」
「あ、お兄ちゃん!!」
その人物に心当たりがあった速人が呼びかけると、満面の笑みを浮かべた史夏は速人の元に駆け足でやってくる。
「速人?この娘は?」
何故かまた不機嫌そうに速人を見る美香。
「彼女は芹沢史夏。彼女の母親と俺の母親が昔からの親友らしくて、小さい頃から彼女の面倒を見てたんだ。今は週に一回くらいで彼女の家庭教師のバイトを引き受けてるんだよ」
「えへへ、史夏です。富陽学園初等部三年生です。よろしくお願いします」
「速人のクラスメイトの柏木美香よ。よろしくね、フミちゃん」
「はい、ミカお姉ちゃん・・・あ、そうだ!!見て見て、お兄ちゃん!!」
そう言って史夏はランドセルの中から一枚の用紙を取り出して速人に見せる。
「史夏ね!!この間のテストで20位に入ったんだよ!!」
「おお!!凄いな史夏は!!」
史夏が速人に見せたのは全国統一小学生テストの模試の結果である。
「凄いじゃない、フミちゃん!!」
「頑張ったな、史夏!!」
そう言って速人は史夏の頭を撫でてやる。
史夏は速人に頭を撫でてもらうのがお気に入りで、彼女へのご褒美として、速人はよく彼女の頭を撫でてあげているのだ。
「えへへ~~~お兄ちゃんが手とり足とり教えてくれたおかげです!!」
史夏は速人の手を、頬を赤らめながら幸せそうに受け入れていた。
「速人?あまりそんなこと続けていると怪しい人にしか見えないよ?」
美香の言葉にハッとする速人。
気が付けば周りの人から怪しげな視線を向けられていた。
よく耳を澄ますと『手とり足とり?』『まさかあんな小さな娘に?』『ロリコン家庭教師が!!』といった言葉が聞こえてくる。
「そ、そろそろ行こうか史夏!!今日は算数を教える約束だったろ?」
「はい!!」
そう言って史夏の手を握りながら歩き出す。
「じゃあ、私の家はこっちだから。また明日」
「またな」
「バイバイです!!」
しばらく歩き、分かれ道に差し掛かったところで美香は二人から別れる。
それが今生の別れともなると知らずに。
美香と別れた後、二人は家路に向かって歩き出していた。
「それで、その剛君が虐めっ子をやっつけちゃったんです!!」
「へー。そうなんだ」
二人はいつものようにお互いの学校で起こった出来事を話しながら通学路を帰っていく。
しかし、少し歩いたところで・・・。
「なっ!?」
「何、お兄ちゃん!?」
速人と史夏の二人それぞれの足元に魔法陣のようなものが出現した。
「お兄ちゃん!!」
「史夏!!」
二人はまるで磁石が反発しあうかのように引き離され、魔法陣の中心に立たされる。
魔法陣は激しい光を放ち、光に包まれた速人はあまりのまぶしさに何も見ることができなかった。
そして気が付くと。
「どこだよ・・・ここ?」
速人は今まで見たこともないような深い森の中に立っていた。