第四話 初体験
俺の家は広い。
まぁ他の家に行ったことがないので比べることはできないが少なくとも前の世界の家よりは広い。
そんな広い家の中の一室である鍛練場に俺は来ていた。……レインと一緒に。
本当なら教えるのが上手そうなクラウディアから教えてもらいたかったが、クラウディアは俺に呪文を教える気はさらさらないように見えたので教えてくれる可能性のあるレインにクラウディアに内緒で教えてくれるようお願いしたのだが……
「クラウディアに内緒……だと……? いいな! それ超いいな! なんか父と子の秘密ってそれっぽくてスゲーいいな! よし早速やるぞ我が息子よ! 」
と、物凄い勢いでテンションの上がったレインに連れてこられてしまった。
一応息子が危ないことをしようとしているのだがいいのだろうか?
俺としては修行ができるので全く問題無いが。
「危ないって? そんな訳ないだろ! お前は俺とクラウディアの子供だ! 天才二人の子なんだぜ? エネルギーのコントロールぐらいできないわけがない! 」
どうやらなんの根拠もないが大丈夫だと思っているらしい。
まぁいいか。それでは教えてもらうとしよう、呪文を、待ちわびた強さを。
「んじゃ教えていくが……呪文なんて教えてもらって覚えるなんて大層なもんじゃねー。すべてイメージによって発動するもんなんだ」
イメージ……火を想像すれば火が出るのだろうか?
「大体そんなもんだ、だがイメージだけで呪文が発動したらそれこそ危険だ。喉が渇いて水を飲みたいと思ったら大量の水が発生したらそこらじゅう水浸しになっちまう」
そこで呪文か。
「その通り! ……お前がまだ三歳なのが信じらんねーな。流石我が子! 呪文によってエネルギーを形にして発動するんだ。このように便利な呪文だがもちろん危険なところもある」
前に言っていたエネルギーの暴発だろう?
「勿論それもあるがそれだけじゃない、呪文を唱えるときエネルギーを使う、このエネルギーっつのは、まぁ簡単に言えば人間の生きようとする力なんだ」
生きようとする力……?
「この力を使って呪文を唱える、だから絶体絶命の危機に陥った時は生きたいという思いが強まり普段では使えない呪文やありえない威力が発揮される。じゃあもしもこのエネルギーを使い切ったらどうなるのか?」
それは……
「当然死ぬ。体が生きようとしてくれなくなるんだ。だからこそ呪文使いは自分の限界をちゃんと知っておかないといけないんだ」
なるほど……いやそしたら今から行う修行なんてもってのほかじゃないか? 限界どころか何ができるのかさえ分かってないぞ?
「誰もが最初はそんな感じさ! それにもし俺が教えてやらないって言ったらお前、一人で呪文の修行をしようとしたろ。俺にはおみとーしだぜ! 」
痛いところを突かれた、確かにその通りだ。呪文という存在があることを知ってそれを習得しないわけにはいかない。たとえ一人でもやっていただろう……前の世界の時と同じように。
「だったら最初から俺がついて教えてやった方がいいだろう? クラウディアだってそんなことは分かっていただろうさ。だからこそ教えてやる。お前が初めて感情を表してくれた呪文を! 」
そうか……俺をそんなに大事に思っていてくれたのか……。
今まで誰からも気味悪がられてたこの俺を……。
喜びがこみ上げてきた、こんなにも誰かに大事に思われたことはなかったのだ。
思わず泣けてくるぐらい笑える……ダメだ半笑い程度にしかならない。一体どうなってるんだ俺の顔は。
「すまねぇな、父と子の秘密は最初から母にバレちまってたんだ。また今度違う秘密を……お前、もしかして笑ってるのか? 」
どうやらそんな表情の自分でもレインは分かってくれるらしい。
なんて良い父親なんだ。感動した。
「……ヒャッホー!! ついにやったぜ! クラウディアより先にルイを笑わせることができた! こいつぁ祝わなきゃいけねーな! 祝賀祭だ! 今日この日を笑顔の日と名付けよう! よっしゃ、ちょっとクラウディアに自慢してくるわ! 」
バタン! と大きな音を立てながらドアを閉め奇声を上げながらレインはクラウディアの所へ走っていった。
……あれ? 呪文は? 教えてくれるんじゃなかったの? あれ?
そんな疑問を抱きつつ俺はレインの断末魔を聞いていた。
◇
レインの奇声が聞こえてきた。何かいいことでもあったのかしら?
あの子が呪文にあんなに関心を持つなんて予想外だったけどある意味当然のことだったのかもしれないわね。
なんせあのレインの子なんだもの、そりゃ関心を持つに決まってるわ。
だけどなんで私じゃなくレインに指導をお願いしたのかしら? 私なら危険なのを十分に理解させてから教えてあげられるのに……。
呪文で怪我をしないように、呪文で悪事をしないように、そして……呪文で幸せに暮らせるように私が指導してやれるというのに……。
そんなことを考えてるうちにドタドタと音をたてながらレインがドアを蹴破る勢いで部屋に入ってきた。
もっと落ち着いてくれたらな、と思ったがが落ち着いているレインを想像すると気持ち悪くなってきたのでそのままでいいや考えることを放棄した。
「やったぜクラウディア! 俺の勝ちだ! 完勝だ! パーフェクトだ! 」
「……いきなり何を言ってるのあなたは? 」
というかルイはどこに行ったのよ? まさか置いていったの?
「ルイが笑った! 俺の前で笑ったんだ! 」
「……私、嘘は嫌いだわ」
「嘘じゃねーって! 事実だよ! にっこり笑ったんだ! 」
そんな馬鹿な……ルイが笑うなんて、しかも初めて笑ったのが私の前じゃなくてレインの前でだなんて……
「いやー悪いねクラウディア! 先に見させてもらっちゃってさ! 超かわいかったぜ! まだちっこいからかわいいって感じだけどありゃ絶対超格好良くなるね! 俺に似て! 今の俺やばいわ、あの笑顔をもう一度見るために生きたいっていう力が溢れてるわ……今なら最上級呪文もいける気がするわ……」
「……あり……い……」
「ん? どーしたクラウディ……アさん落ち着いてください。振り上げた拳をゆっくりおろしてください。なんでですか? なんで俺こんなにやばいって思ってるんすか? また生きようと思う力が上がってきてるよ? まさか絶体絶命の大ピンチなの俺? 」
「こんなことありえないわ! なんであなたが一番最初なのよ! 許せないわ! しかもなんであなたに頼って私に頼ってこないのよ! あなたの仕業ねレイン! 」
「いや、理不尽す……」
結局レインは最後まで言葉を発せられず断末魔が響き渡った。