第三話 危険性
泣き疲れてそのまま寝てしまった俺は朝になるとすぐにレインに呪文を教えてくれるようお願いした。
……なぜか布団にくるまって動かないレインに。
「……ふ、ふふ」
なんだか気持ち悪い笑い声が聞こえたが気にせずお願いした。
「ついにきたか……父親として息子に教えるという家族のふれあい&息子に尊敬されるというイベントが……よし! なんでも教えてやるぞ息子よ! 」
「馬鹿なこと言わないで」
と気づいたら後ろからクラウディアの声が聞こえた。
「馬鹿とはなんだクラウディア! 俺は呪文学院を主席で……」
「主席だったのは実技だけでしょ、学科試験ではあなた最下位じゃない。本当、よく卒業できたわね」
「あれは学院長が仕掛けた罠だ! 試験内容が俺だけ違ったんだ! 」
「はいはい言い訳はいいから本題に入るわよ」
呪文学院……なんて心躍る言葉だ。俺は絶対にそこに入学すると心に誓った。
というかなぜ呪文を教わるのはダメなのだろうか?
「……そんな落ち込まないでルイ、ちゃんと説明してあげるから」
いや落ち込んでるんじゃなくただ疑問に思ってただけだが……まあいいや。
それからクラウディアの呪文に関する授業を受けた。
まずなぜ今呪文を教えてくれないのか。
呪文は血液中のエネルギーを凝縮し、たまりきったエネルギーを呪文で方向性を整えて発動するらしい。
このエネルギーというものが俺の世界でいう魔力等にあたるものなのだろう。
整えて発動という部分が難しいらしく、上手くやらないと血液中で整えきれなかったエネルギーが爆発、下手したら死んでしまうらしい。
どうやら子供はまだエネルギーが安定していないらしく呪文で整えることはとても難しく、危険らしい。
自分も呪文を使ったらエネルギーが暴発してしまうかもしれない、確かに危険だろう。
しかし考えてみてほしい。
強さを得るためだけに一生を使い果たした自分がコントロールできない訳があるだろうか?
体は子供だが今までこの時のために蓄え続けた知識も、それをやりたいという思いも誰にも負ける気はしないのだ。
そんな自分が失敗? そんなことはありえない。あってはいけない。
それに今のうちに呪文の修行を積んでいけば自分の追い求めた強さが手に入るかもしれない。
だったらやるしかない、とことんまで修行して強さを手に入れるしかない。
次に呪文とはなにか。
呪文には種類があり‘最下級呪文’‘下級呪文’‘中級呪文’‘上級呪文’‘最上級呪文’の五つがあるらしい。
最も上級や最上級などを扱える人など滅多にいないらしく中級を使えれば一流の呪文使いといえる。
さらに呪文には属性があり‘風’‘火’‘水’‘土’の四つ、俺の世界の四大元素というものだろう。
風の最下級呪文ならばウィンドボール、火ならファイアボール、水ならウォータボール、土ならマッドボールといった感じになる。
「という訳でまだルイに教えるのは早すぎるのよ。十五歳くらいになったらエネルギーも安定しだすからそれまでは我慢して、それから呪文学院に入学して学べばいいわ」
「俺の子供なんだからエネルギーのコントロールなんて余裕だと思うんだけどな……」
「余計なことを言わないで」
クラウディアからぶん殴られているレインを無視して俺はこれからどうするか考えていた。
◇
いやー、しかし驚いたなまさかルイが泣くなんてな。
俺ことレイン・サニーはそう考えていた。
ルイは赤ん坊のころから夜泣きなどせず静かであり、立ち歩けるようになってからはなぜかランニングをしていたりした 。
……いや、そりゃ変だと思ったさ! 普通ならまだお父様ーとか言って甘えてくるべき息子が無表情でランニングしたり腕立てしたりしてさ!
でも俺が何やっても笑ってくれず嫌われてるのかと思ったらなんか感謝の日――日頃世話になってる人や友人に贈り物を渡す日だ。当然俺もクラウディアに送ったさ! 等身大レインver.ルビーをな! なぜか渡した途端ぶん殴られたけどさ……――に手袋をくれるし……
もちろん嬉しいよ! もらったその日は浮かれすぎて一日中手袋を見て過ごしたぐらい嬉しかったさ!
けど普段は無表情、おまけに無口だ。全く、少しは俺に似て欲しいもんだぜ。
ということで俺はルイに呪文を見せ喜んでもらおうと思った……ついでにお父様の超格好いい姿もな!
んで見せた結果泣かれた……なぜだ!?
怖かったのか? 今まで泣いたことのないルイがあんなに泣いてしまうなんて……
慌てた俺がどうしようかと考えているうちにクラウディアがルイを連れて家の中へ戻って行ってしまった。
おかしい……今日はルイに「キャー! お父様超素敵! マジ尊敬するっす! 」ぐらいは言われる予定だったのにどうしてこんなことになってしまったんだ?
その後俺は自室に戻りルイからもらった手袋を抱きながら不貞寝した。
不貞寝は翌日ルイからお願いされるまで続いた。