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何故神様は

 幸は悩んでいた。

今更、と言う感じもするが、福与が産まれた後の自分の口調についてだ。

若葉には楽にさせてくれとは言っているものの、お母さんが俺とか言っていたら子供はどう思うか。

そんなわけで居間で買い揃えたベビーグッズの整理をしている母に相談してみたのだが。


「あんた気にしすぎ。私のお祖母ちゃん、あんたの曾婆ちゃんね、は自分のことオラとか言ってた見たいだけど、私の母さんは気になんてしてなかったわよ」


「うーん。そんなもんなのかなぁ」


「幸成あんた、お腹おっきくなってから逆にちっちゃいこと気にするようになったわね」


 母の言葉に大きなお腹を抱えながら首を傾げる幸。


「そうかな……?」


「そうよ。まぁ子供がそろそろだっていう不安からなんだろうけど、今のあんたは気にしすぎ」


「でも、気になっちゃうんだよ」


「んー……じゃあ私はあんまりお勧めしないけど、若葉さんの精神操作で落ち着かない気持ちを静めてもらって考えてみたら?」


 その提案にうむむ、と考え込む幸。

そんな様子を見て母は別のことが気になったのか、幸の思考を遮るように話を振った。


「それにしても幸成、あんた女の子になる事自体はそんなに抵抗なかったみたいよね」


「ん、んー。なんかそこらへん俺もよくわかんないんだよね」


「わかんないの?」


「いやさ、雑誌で特集してるような男と女の違いとか大変さってのはなんとなく頭に入ってるんだけど……それを理解してるかなーっていうと、微妙な気がする」


「でも女の子になりたい、とか思った事あるわけじゃないんでしょ?」


「そうだけど……俺的には俺が俺っぽくいられればどっちでも良かったのかも」


「幸成が幸成らしく、ねぇ」


「うん。男でも女でも変わらない根っこみたいな、そういうのが変わらなければいいかなって」


 幸の言葉に整理の手を止めて母は頷いた。


「解った。そういうところがあんたが選ばれた理由の一端だよ」


「そっかな。……あー、話してて唐突に思ったけど俺散々お腹の中の福与に俺とか言ってるの聞かせてるんだよなぁ。今更かなー」


「そーね。かなり今更だよ。今更悩んでも仕方ないんじゃない」


「んでもさぁ、良くドラマとかで赤ちゃんが生まれたら私がママよ的なシーンあるじゃん?ちょっとそういうのは憧れるっていうか……」


「いいんじゃないの、俺がママだぞでも。赤ちゃんを愛するって言う根っこが同じならね」


「ふーむ。なるほど……お袋の言う事にも一理ある」


 ひとしきり神妙な顔をして見せてから、幸は自分のお腹に向かって話しかけた。


「福与ー。お母さんが俺って言うのが嫌なら二回蹴って。気にしないなら三回蹴って」


「そこで子供頼りってあんた……将来子離れできるんだろうね」


「わかんね。あ、一回蹴った……二回……来るか?……来た、三回!福与は賢いなぁ!」


 お腹の中からの反応に嬉しくなったのか、子供が出来てから憂い顔になった回数の何倍も見せている笑顔になってお腹を撫でる幸。


「そっかー、福与は俺は俺でいいと思うかー。じゃあ俺このままいっちゃおうかな。福与がいうんじゃ仕方ないよなー」


 でれでれとにやつく幸を見て、母はため息をつきながらベビーグッズの整理に戻った。


「本当にこの子は……浮かれすぎだよねぇ」


「その通りです引田恵。引田幸にはもう少し落ち着いてもらわなければいけません」


「あんた一体どうやってここにきたんだい」


「ふふ、引田幸の居る所私ありですよ」


 若葉と母の会話は聞いているだけだと何がなんだか解らないが、電源がつけられ垂れ流し状態だった昼のニュースを聞けばなんとなくどういうことか想像は出来る。

なぜなら画面の中で水晶エネルギー発見者が記者会見中に消失したという騒ぎが起こっていたからだ。


「若葉さん、あんたこんな派手な帰り方してどうするの。無駄に目立つんじゃないの」


「まぁこれから先TVの生放送中に起きた怪異現象として話の種にはなるでしょうが、大勢のそんな事あるわけが無いという意見の元、理屈はわからないがなんらかのトリックという扱いになるでしょう」


「いやでも若葉さん衆人環視の中から一瞬でここに戻ってくるなんてやったらさすがに……」


「マスコミを通して人々に見せるべき分は見せた、と言う事ですよ。顔も変えていましたし、テレビの中の政府お抱えの研究員若葉と、引田幸の面倒を見ている大きなお姉さん若葉を繋げる物は何もありません」


 若葉のこの言葉に、母は驚いた顔をして振り向いた。


「聞き覚えのある声で若葉って出たし、若葉さんが用事で出掛けるって言ってたから若葉さんだと思ってたけど、顔変えてたのかい?」


「ええ、そうですよ。こんな風に」


 母の驚きをよそに、のっぺらぼうが正体を現すときのように顔を上から下へ撫でると、そこには卵のようにつるつるな、凹凸の無いのっぺらぼうの顔が現れた。

これには母もさすがに腰を抜かして、ぺたんと床に座り込む。

幸はまだ浮かれていてソレを見ていない、そして見られる前に再び顔を撫でて顔を戻すと若葉は言った。


「本当は私は放っておくつもりだったのですが。ゴッドテレパシーで一応の開発者にされて人生が狂うに人間が居てはならないと命令されましたので、急遽私自ら顔を出してきました」


「ああ、アレだけの効果のある技術誰が見つけたって話になるわよねぇ。でも顔を変えて会見って、架空の人物だってすぐばれるんじゃないの?」


「実在した人間が開発者だが、見つけられない。それでいいのですよ。政府にはあの顔の私の経歴を作るように言っておきました」


「なんだかとんちのような話だねぇ。後で架空の存在だったとばれて問題にならないのかい」


 母の疑問を若葉はざっくばらんに切り捨てる。


「さあ。それがばれるような頃には関係者は存在せず、この時代に生まれた謎のエネルギー革命は出所が不明な不確かな物だったと、既に居ない人間を批判する動きはでるでしょうね。ですがそれでも直接的な被害をこうむる人間が居なければ神はどうでもよいのです」


「なんかお前と神様って適当だよなぁ」


 いつの間にか正気に戻っていた幸が会話に加わると、若葉は答えた。


「適当さは世界の持つ余裕でもありますよ引田幸。全てを完璧に調和させようとする意思は、逆に歪みを生み調和を乱します。だからこそ神は干渉を最低限に、世界を変える準備を行ったのです」


「そういえばさ、神様は福与に世界の生き物の声を集めさせて世界を改変するっていうけど、たとえばどんな風に変えるんだ?」


「それはこの世界に生きるものが決める事です。神は絵図を描く為の画用紙とクレヨンは用意しましたが、描くのはあくまでこの世界の生き物達。もしかしたらその過程で人間と言う生物は淘汰されるかもしれませんね」


「マジかよ……」


 さすがに事の重大さに幸は引いた。

しかしその腕は胎内の子を守るように腹に廻される。

それを見て幸の緊張を解すように微笑みながら若葉が語る。


「まぁ、人間を意図的に排除するような思考レベルの生物は存在していないと思いますが。それに神も全ての声を世界の改変に取り入れるわけでは有りませんしね。改変者がある程度希望について是非を考えて神に改変の提案をしますから」


「……じゃあいきなり人間以外の生き物の希望で人類が追い詰められて、福与が悪者にされる事はないんだな」


「ええ。ですから引田幸、貴女はのびのびと改変者を出産してください」


 さりげなく幸の膨らんだ腹を撫でながら紡がれた若葉の言葉に、幸は大きく肩をさげ安堵のため息をつく。


「あ、後気になる事があるんだけどさ。福与が生物の声を聞くって、どうするの?」


「神に全ての生物の声を聞くことが出来ると言う法則を付加していただきます。それが改変者としての第一歩ですね」


「神様にそういうことが出来るようにしてもらうのか?それなら神様が自分で聞けばいいような」


 幸の疑問に若葉はさらりと答える。


「何時も耳元でざわざわと騒がしくされるのは嫌でしょう、引田幸。貴女が嫌な事は神も嫌なんですよ」


 しかしその答えは幸の気分を害するのに充分なものだった。

眉をひそめ、拳を握り締めて幸は言った。


「じゃあその嫌な事をさせられる福与はなんなんだよ」


 幸の睨みつける視線を受け流し若葉は言う。


「礎です。その身を沈め世界を支える、他の誰にも出来ない重要な役割です」


「俺じゃ代わりにはならないのかな……」


「不可能です。引田幸、貴女の脳では情報を処理し切れません。一瞬で情報に飲まれて脳が破壊されますよ」


「そっか、そういうことが出来るように生まれてくるのが福与なんだな……」


「そうです。そんな改変者が休みたい時、安らげる場所になってください」


「うん、解った……」


 当初の、生まれてくる福与の前での一人称などというちっぽけな悩みは消え去り、幸には大きな重圧を受けるだろう福与をいかに助けていくかの悩みが残るのだった。

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