四翔 美女ト野獣ト竜
さて、迦楼羅と別れて空を舞う俺。行く先は高エネルギの光線が通り過ぎていった後の、砂埃が舞う森へ向かう。
迦楼羅に命じられていたのでアルバスの力を使い直していく。別に言われてなくても罪悪感があるから直すけどな。
始めの内は飛びながら直すけど難しいね、地上に降りて直すことにする。
アルバスは創造を司るけどこれは修復なのか?あ、森に生えてる植物と生み出される植物がびみょーに違う。やっぱり創造なのか。しかも俺の真新しい知識の中に生まれてくる植物はない。つまり一からの創造ってことだ。この森の生態を壊さないといいが。
ふと、破壊された大地のほうを見てみる。目算幅三メートル、深さ一メートルほどの巨大な溝がある。しかもその溝の周りには何もない。きっと風の魔法も入っていたから吹き飛んでいったんだろうな。所々木が生えていたであろう大小様々の穴が開いていて、切り株さえもない。うわあ、我ながら恐ろしい。でも、歩いたあとには土はもとに戻り、草木は生えてくる。よし、このまま直していくぞーと思うと、
「キャアアアーーーーーッ!!!」
! なんだ!?女性の叫び声だ。ま、こういうときは見に行ってくるべきだよね。別に心配はしない。だって俺は捕食者側だから。竜だし。そんなことを思いながら走り出す。暫くすればへし折れた木と、ベコベコになった鎧を纏っている肉塊。一瞬迷ったがお腹が減っていたので一口でパクリ。意外に旨いよ人肉。鎧は魔法銀ーーミスリル製だった。コレ、腹の中で精製して爪とかに纏わせることが出来るみたいだ。実際、鋭かった爪は透きとおるような水色の鉱石で覆われていた。メッチャイカす!もっと落ちてないかなミスリルの人塊・・・って、目的違う。声のもとへいかねば。でも、別にいいか?俺に得がない。まあ、探すのは一応いつでもできるし、今は声の元に行ってみよう。とまた走り出す。(木も直したぞ)
道中またいくつか肉塊が落ちていたので喰らいながら走っていく。ドラゴンの脚だからか一瞬でたどり着いた。木々の間を縫って超高速で走るって難しいんだよ?成功したけど。さて、声のもとにいくと、一体の3メートルもある巨人に襲われる一人の麗しき美人さん。しかも気絶してる。その巨人は高々とこん棒を振り上げ、今まさに降り下ろそうとしていた。そこに俺が口から炎を繰り出す。はい、これで巨人は真っ黒焦げ。でも美味しそう。改めて回りを見渡せば、ミスリルの人塊がゴロゴロと転がっているではないか。
「~~♪ ~~~♫ ~~~~♪」
トリプル〇の『ドラゴンファイア』を口ずさみながらどんどん口の中へほうりこんでいく。因みに今はディアボロスだ。アルバスじゃあ腹一杯のときは人間は喰えない。正義だからね。唯、生きるために喰らうことだけはいいみたいだ。というわけで、どんどん放り込んでいく。
と、思っている間になくなってしまった。うう、もっと欲しかったな。さて目の前には焦げた巨人、ゴリアテがいる。喰いたいと思うが、抑え込みなぜ現れたかを考える。えーとやっぱり、俺が悪いんじゃないか?確かゴリアテはこの森の頂点に君臨する魔物だ。Aランクの魔物がこんな森の入り口近くにいる訳がない。魔物のランクは下から
F、E、D、C、B、A、S、SSS、X
となる。
Xに関してはもう人間では勝てない位の魔物や神獣が当てはまる。つまり俺のことね。で、FEDは初心者、CBは中級者、ASは上級者向けだ。SSSは上級者がたくさん集まって 漸く討伐できる魔物。SSSとXには越えられない大きな壁があるのだ。Xランクが暴れだしたらもう誰にも止められない。世界は滅びるよ。唯これからは俺がそれを許さないし、勇者とかいう人外が現れることもあったりするけど。でも勇者にやられるのはXランクの中でも最下級の魔物のみだけどね。勿論俺は最上級だよ?俺より上はもう迦楼羅しかいません。
っと、ゴリアテの話だったな。まあ、Aだから結構強い。普通はこんな一瞬で燃えないよ。『ドラゴンファイア』だから仕方がないんだよ。地面も丸く焦げている。流石に手加減したよ。もう二の足は踏まないさ。
推測だけどこうなった理由は俺が森を破壊して、ゴリアテが怒り、近くにいた人間を襲ったというところかな。いやー悪いことしたなー(棒)。ま、そこの女性は高価な恰好をしているので恩を売っても損はしないだろう、と助けた証拠のゴリアテは残しておく。・・・じゅるっ。
まだ目を覚まさなそうなので、今のうちに俺が破壊してしまった森の残りの修復をせねば。とアルバスに姿を変え、空を舞う。
小一時間もすれば修復も終わり女性の元に戻っていく。直っていくうちにドラゴンの入るスペースがなくなったので、今は人型だが。こんなにも時間が掛かったのは意外に射程が長かったから。何十kmていう次元じゃないか?
さて相変わらず、焦げたゴリアテに倒れている美人さんが転がっている。こんなにも時間が経っているけど怪我がないか確認し、楽な姿勢に変えてあげる。今更だね、だけど怪我はなかったよ。そのころには空が暗くなってきたので、魔法で焚火を作り上げて暖をとる。またしばらく待つが、一向に目覚める気配がない。そろそろ苛ついてきたので起床魔法を使うことにした。魔法とは絶対的に便利だな。女性の頭の周りに白い光がうまれ、中に入っていく。すると
「・・・うっ。・・・っは!ゴ、ゴリアテッ!逃げなければ!」
「へー。どこに?逃げても安全なところなんてないよ」
「た、確かにそうね・・・って、あ、あなたいつからいたの!?」
「え?いつからって・・・。襲われた瞬間からだけど。それは問題じゃなくない?確か今の君の中では命の危機ー的な状況じゃないの?」
「それはそうね。逃げられないしどうすれば・・・。そういえばあなたはどうしてそんなにも落ち着いておられるの。あなたも危ないでしょうから何らかの対策を講じないと」
「それこそなんで?確かに君にとっては危機かもしれないけど、俺にとってはどうでもいいことだ。危機なんてどこにも存在しないからね」
俺は意味深に笑って見せる。
「なにを言っておられるの?あなたも狙われる可能性があ・・・る・・・」
美人さんは俺の後ろにある黒い巨体に気づいたようだ。口をパクパクしていて面白いぜ。
「ま、まさかあなたはそのゴリアテを倒したというのですか!?」
「そのまさかだよ。危機を倒しちゃったんだから、お訪れるわけがない。だから今のところは安心していい」
倒したのは竜だけどな。しかも手抜きで。まあ、本気はXランクの中でも位が近いヤツぐらいにしか出せないしな。受け止めてくれないと、世界が吹っ飛ぶ。
「俺はこれでもめっちゃ強いからね。旅の途中で君を助けられたのは運がよかったよ」
原因は俺だけどな!などとは決して口に出さない。
それを聞いた美人さんは居住まいを正す。
「そ、そうでしたか。お助けいただき有難うございます。あなたのようなお強い魔術師出会えなければここに私はいなかったでしょう。ああ、アルバス様感謝いたします。そういえば急で悪いのですが、お一つ依頼を出しても宜しいでしょうか。私たちは少々地方のほうまで視察に行こうとしていたのですが、ご覧の通りこの様です。守護騎士たちは全滅のようですし、宜しければすぐそこですが首都まで護衛をしていただけませんか?勿論助けていただいた分も含め報酬はお出しします。いかがでしょうか」
・・・アルバスは俺なんだけどなぁ。まあ、確かに助けたのはアルバス自身だからドンピシャなんだけどね。依頼自体は楽だから受けてもいいかな。報酬の部分に目が眩んでるよ。
「分かった。首都につくまで君を護衛させてもらう。騎士たちに関してはお悔やみ申し上げるよ。残念だったね。俺がもっと早く着いたら助けられたかもしれないのに」
これは以外にも本音。確かにミスリルは良かったけど、別に人間まではいらなかったしね。ついでに俺は優しい系のキャラを目指している。別にいい印象を与えようとしている訳ではないぞ。報酬のためだ。
「いえ、あなたは何一つ悪くはないです。こうして私を助けて死んでいくのが彼らの仕事ですから・・・。そういえばあなたのお名前を聞いても宜しいでしょうか」
「名前ねぇ・・・」
困ったなあ。迦楼羅にはやったのに自分のがない。別に前の名前でもいいんだが、それじゃあつまらない。ああそういえば、昔それっぽい名前を考えていたな。もうそれでいいや。
「・・・ハル。俺はハル・ニーズニルです。君は?」
「私はカルメシーア・アルキュオネです。シーアとお呼びください」
シーアね。苗字もなんかカッコイイし、どっかとてもいい家系なんだろうな。査察なんかもやっているぐらいだし。因みにこの王国はケユクスというのだ。パッとしないな。
「じゃあ、短い間だけど宜しくな。シーアさん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。ハルさん」
こうして互いの自己紹介が終わった。この後は他愛のない雑談に花を咲かせる。前は友達とでもこんなには話さなかったから、とても楽しかった。いつの間にか夜空に瞬く星々はすっかり場所を変え、焚火の炎は小さくなっていた。名残惜しかったが流石に寝なければと思い、睡眠を促す。俺は周囲に結界を張り、安全を確かめる。二人は比較的柔らかいところに寝そべり夜空を眺めた。めっちゃ美しいわぁ。
俺はそんなことを考えるがふと、思いついたことがあった。
「で、今更だけどこのゴリアテ、どうする?こんなところに置いて行っていいものなのか?」
「あ」
こうして何か締まらない一日が終わりを迎える。
ゴリアテは素材を剥ぎ取り、残りの部分は魔獣にくれてやったとさ。高ランク魔獣だから、中々喰われないとは思うがな。
・・・そこらの魔獣にくれてやるよりは俺が食べたかったなあ。
ハル君の由来は報告のほうで