三翔 肉体・能力使用方法指南
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……いや、いくら死んだからってこれはないと思うよ?
俺は死んだ。これは紛れもない事実だってことは分かってる。そしてまたあのギラギラ悪趣味な部屋に帰っていた。そこまでは予想通りだ。
でもな、下を見れば俺の足がなくなって、手の平を見れば半分透けていて、極め付けには周りに火の玉が浮いているんだぞ! これはもう完璧に幽霊じゃねえか!
「いやー、肉体がなくなっちゃったからさー、魂だけの存在ってわけよ。だから幽霊みたいになってるんだよね。なに、転生すれば新しい体は手に入るから。幽霊体験をできるというのは今だけだから結構レアだよー。よかったねぇ」
何とも暢気そうに答える神様。確かにそうだがこんなレアほしくもないなあ。第一こんな魂むき出しの体になったことがいいことだとしても、驚かせる人なんてこの場にいはいないし、何一つ得がない。
「じゃあ、ちょっと誰か驚かしてくる?」
「いや、そんなことしている暇なんてないんだろ。さっさと転生させてくれないかな」
それじゃ俺の覚悟が無為になってしまうと、神様の茶目っ気たっぷりな提案を蹴る。
「つれないなぁ、まあそこがいいんだけどね。分かったよ。じゃあ、君の要望に応えるとして早速転生してもらうことにしようか」
神様は笑うと、またあの幾何学模様が描かれた部屋に案内した。俺は言われるがままに再び魔方陣の中央にふわふわと浮遊しながら乗り、転生のスタンバイが完了する。
「よーし、マナを入れたから魔方陣を起動するよ。揺れるけど気にしないでね」
神様がそういうと扉近くにあったレバーを降ろす。すると現世に戻る時とは違い、青白かった魔方陣がダーククリムゾンに色を変え、部屋中に赤が満ちる。その刹那、ゴゴゴゴという音を幻聴しそうなほど、激しい揺れが生じた。俺は急なことに対応できず倒れそうになるが、神様は涼しい顔をして平然と立って顔をこちらに向けている。あ、やばい。酔いそうだ。
そんなことを考えながらも、幽霊となってないはずの足を思わず踏ん張る。しかしその揺れも一瞬だったのかすぐに消えさり、それに伴って先ほどまで感じていた浮遊感とはまた違った、水中にいるような浮遊感に変わった。
いつの間にか閉じていた目を恐る恐る開けると、俺は何も存在しない闇にいた。何か手がかりを探そうとあたりを見回そうとするが、始めからそこにあったかのように、目の前に巨大では足りないほどの壮大な、しかし美しく豪華な白い扉があった。荘厳で眩いそれを俺は両手で開けようとする……が予想とは違って扉を体がすり抜け、その向こう側に思いっきり転ぶ。
「いたた……なんだよコレは?」
別に痛くはないが反射でいってしまう。日本人の性というものか。服の埃を払いながら立ち上がってみれば、息を呑むほどの一面の草原が眼前に広がる。それに加え、こんなにも青く澄んだ空は地球上どこ探しても見つからないだろう、そう思えるほど美しかった。
神様の言う通り、異世界に渡ったからなのか肉体はありました。幽霊体験は終わりだ。流石にすっぽんぽんということはなく、俺の体には理想の魔法使いのイメージが体現したような、厳ついがゆったりとした長いローブを着ていた。特に体に違和感はなく、軽く跳ねてみるが何ら問題はない。取りあえずペタペタと顔や体を触ってみるが、生前? と全く同じ顔立ちのようだ。いや、別にいいんだけどね? できたらもっとかっこよく……なんてもう遅いか。というか神様この後どうするんだよ。何もなしに旅をしろってか? そんなことを思っているとあの声が頭に直接響く。
<おっ、ということはちゃんと向こうへ着いたということだね。よかったよかった。じゃあ改めて、ゴドレックへようこそ! 晴れて君もこの世界の一員だよ。というか神様なんだけどね。あ、とは言っても僕は創造神で君は管理者だからやっぱ地位には差が出るけども、こればかりは勘弁してよね。よし、漸く神の体を手に入れたわけだし、チュートリアルを始めようか。流石に僕は見知らぬ地にそのまま放り出すほど薄情ものじゃあないよ>
そう聞き俺はほっとする。無知のまま旅する必要はなさそうだ。というか、おい。転生ってあんな軽くやっていいものなのか? 転んで転生するだなんて、ムードもへったくれもないな。
<う、そういうなよ。確かに説明不足だった僕が悪かったけどさ。あの世界を渡る扉は物質で出来てるから、魂のような概念のようなものは透過するんだよね。まあ、僕からしたらあの呆けた顔は面白かったからいいんだけど>
「なんだよ、勝手に人の顔見て面白がって。まあ、それが俺の仕事なんだろうけどな。で、チュートリアルってなんだ?」
<よしきた! 耳の穴かっぽじってよく聞いてね。じゃあ、チュートリアルそのいち、~神になろう編~。ということでまずはドラゴンになってみましょー。どっちからでもいいけどまずは白竜アルバスから……とは言ってもすでに君はアルバスなんだから、方法っていう方法っぽいのは特にないし……。普通にアルバスのイメージとドラゴンのことさえ考えていれば十分じゃないかな?>
何とも適当な説明に、本当に大丈夫なのかといぶかしみながらも、とりあえずやってみないと分からないと、その声の通りに従い目をつむって俺の中にある竜のイメージを体中に広げていく。俺は……白い竜……白い竜……。
するとイメージは現実へと移ろい、体中がそのイメージに応えるように内側から外側へと何か、自分の根元を成す物が溢れ、動きだす。しかしそれには不快感は欠片もなく、逆に温かい安心感と高揚を覚える。言葉には形容しがたい変化が、永遠のようで一瞬の内に体の中からなくなり、今まで感じたことがない感覚に支配されていた俺は、ようやく恐る恐る目を開けてみる。
すると目の前を掠るように、純白の羽が舞い落ちていく。視界も普段ではありえないほど高く広くなり、今までなかった背の翼の感覚に戸惑う。しかし、この感覚を昔から知っていたかのように一瞬で順応する。ましてや懐かしくも感じる。これが俺の本来の姿だと思えるほどに、竜の体が俺の魂と馴染んで溶け合っていた。
<うんうん、やっぱりいいね。僕が君の美しさを伝えるより、自分で見た方が手っ取り早い。さあ、君が得た新たな身を、自分の姿をその目で確認してご覧。これが君自身で、君の魂に対する対価だ>
空から大きな音を立てて、この竜の姿より大きな鏡が降ってくる。目の前に落ちたそれは、自分の意志には関係なく自身の姿を映した。そして突然目に入ってきたそれに映る己の姿を見て驚愕する。
体に纏うその純白の鱗は、太陽の光を優しく反射し、美しく輝いている。唯見つめているだけで、正に神にふさわしい神々しい雰囲気を醸し出していた。スラリと柔らかい曲線を描くその翼は純白の羽に覆われており、その雄々しさには如何なる神鳥であろうとも勝ることはないであろう。そして、その瞳は相手の全てを見通すように澄み渡っていて、薄い青の色彩が深みを与えている。頭の頂点にそびえる二つの角は思わず撫でてしまいたいほどに滑らかで、象牙などとは比べるのもおこがましいほどくすみなく美しく、天を貫かんばかりに生えていた。
小山ほどの大きさを持つこの肉体はこの世全ての完璧なる美を体現しているようで、俺は何一つ意識していないのというのに、目の前にいる竜は唯々悠然とたたずんでいた。
……うん、自分で自分を褒めちゃったよ。でもそれだけ素晴らしいと言うことだ。この美しさをすべて語り切ることなんて無理だけど、俺のこの軟弱な語彙力で伝わってくれればいいのだが。だがしかし、なんて俺は運がいいのだろう。そう、自分の姿に恍惚としながら鏡の前でいろいろなポーズをとっていると、呆れた声が響く。
<……別にさ、自分の姿に見とれてもいいけどね、程々にしようよ。そんなに嬉しかったの? で、さっさと次に行こうか。じゃあ、ディアボロスも同じような感じでやってみてよ>
あ、神様まだいたんだ。思い切り忘れてた。こんな幸せなことに横やりを入れられて少しムッとしたが、黒竜の方の好奇心もあったから言われたとおりにすることにした。えっと、黒い竜……黒い竜だろ……。
また蠢くような感覚が俺を襲うが、この感覚を俺はすでに受け入れていた。心なしか、さっきよりも早く変化が終わったような気がするが、そんなことはどうでもいいと、もう一度鏡を見てみる。するとそこには、確かにドラゴンではあるがアルバスとは全く趣が真逆の姿をしていた。アルバスが神や天使と表現するのならば、ディアボロスは悪魔や邪神、魔王という表現が正しいのだろう。そう思えるような姿だった。
アルバスよりも一回り大きいごつい体に、闇を固めて凝縮したかのような、気を抜けばその内に呑み込まれてしまいそうな漆黒の鱗。暗い藍色の爪は毒々しく、死神の鎌のような恐ろしさがあった。角は複雑にねじまがっていて、その切っ先は逆方向の正面を向いていた。翼は蝙蝠型で、夜空を思わせるような星が散りばめられていて、鱗とはまた違う美しい黒だった。その瞳は異様に明るい赤色に染まり、らんらんと怪しく輝いている。そしてその瞳から注がれる視線は問答無用に全てを射ぬく。口元から覗く幾本の鋭い牙は、その体には場違いなように感じるほど白かったが、先のほうだけはどす黒い血の色だった。
その形相はもう、一目見て禍々しい意外に表現のしようがないと感じられる程の姿だった。だが、逆にそれが俺の心の琴線に触れて、憧れさえも感じさせる。
白竜もいいけど黒竜も素敵だ。どっちもよすぎる。またもや自分の姿に見惚れていると、
<ハイハイもういいから、次いくよ。じゃあそうだ、『ぶーんしん!』とか言いながら……くくくく、人間を増やしてみてよ>
「いやだよ! 完全に嫌がらせだろ、笑ってるし。もうわかったから、謝るよ。で、えーとなに? 人間を増やす、か。だったら自分が増えるイメージでっ、と……」
目を瞑って想像を始めたとたんに、俺という存在がなくなるような喪失感と虚脱感が全身を襲う。だがそのあとに体の中から、二つの新しい核のような何かが覚醒して、瞬く間に存在が満ちていく。例えるとするなら第六感が目覚める感じ? 俺にはわからないけどな、目覚めたことないし。
とりあえず人と竜、それぞれの視線を動かしてもう一人の俺を見てみた。すると視界には人間の俺と、黒竜の俺が二つのテレビを同時に見るかのように映る。それぞれの視点ということだな。脳味噌が増えたから演算能力も増えたということだろう、普通ならあまりの情報量にパンクしていただろうに、今は何の負担も感じない。ましてや解放感まで感じる始末だ。分身を創ることが成功したからか、調子に乗って白竜も創りだす。片方の俺がその分身が生まれ出る様子を第三者視点で見ていると、その様子はスライムの繁殖のようで何ともシュールだった。
そして俺は分身が創れると聞いた時からやると心に決めていたことを行おうと動き始める。すべての俺は鏡の前へと移動し、人の俺と白い俺と黒い俺は鏡の前でかっこいいと思われる位置に立つ。ああ……カッコイイ……。それ以外言えねえ。うわぁ、俺ってなんて幸せもんなんだろう。転生してよかったぁ。と、自分の姿にとろけるように呆けている俺。頭の隅では自惚れやら自画自賛という文字が浮かぶが、そんなことはどうでもいい。
<…………。もう突っ込むのはやめたよ。あーあ、魔法のことも教えておこうと思ったのになー。この様子じゃいらないみたいだね。短い間だったけとありがとうね、バイバーイ>
「お、おい待て! 分かった分かったから、ちゃんとやるって。そう拗ねるなよ、なあ?」
一応励ましておく。そうしないといろいろ拗れそうだし? なんて面倒な神様なんだ、神様なんだから少しぐらい寛容でもいいじゃないか。夢のような生物が俺の目の前に存在するんだぞ? 俺のこのトキメキもわからないだなんて……。
<全部聞こえてるよ……。そんな驚いた顔するな。はあ……、魔法を覚えたいんだったら早く準備して。いい? ほら、まずは体の中を流れるマナを感じ取ってみよう。そう、体中を不安定に流れている不可思議なものだよ。それを一掴みぐらい口の中に溜めてみる。ちゃんと一体の竜でやるんだぞ。コントロールは始めは難しいけど、それでも三体同時にマナを動かさないように。君には魔力無限チートがあるからね、そのままじゃあこの草原が火の海になる。さあ、やってみよう>
うん、あんなことを言っておきながらちゃんと教えてくれる、律儀で優しい子です(笑)。そんな神様の優しさに応えるためにと、アルバスをメインに据えて、体を流れるマナを一掴み……って多すぎっ!? なんだこれ、一掴みがわからん。だってマナが海を思わせるほどにたっぷりと精神に宿っているんだもの。
とりあえず米粒ぐらいで。マナの海から四苦八苦して取り出す。チートにもこんな欠点があるだなんて思ってもなかった……。取り出したマナを口の中に溜めたら少し小さすぎたから、お団子位に増やしてみたがそれでは大きすぎた。マナの調整だけでも大変だっていうのに、気を抜くと残りの二体もマナの本流に飲み込まれて、アルバスのに釣られて口にマナを溜めだしそうだ。
うおお、結構きついぞこれは。地味に多方面に集中力を使う。いろいろ試してみて、マナは小粒の飴玉ぐらいの大きさがちょうど良かった。それでも微妙に大きいんだよね。マナの海では濃く濃縮されてたけど、体の外に出てきたことによって膨張して、人な俺の半分ぐらいの大きさになったし。他の視点からみると、光が乱反射しているのか口の中の空間が歪んでいるように見える。目には見えないけれど、それがマナだな。っておっと、維持するのが難しくて少しエネルギーが外に漏れ出ている。と、コントロールに四苦八苦していると
<おお、意外に早くできたね。失敗すると踏んでいたのに(チッ)。この状態……マナのままでも濃いから相当な威力は出るけど、やっぱり元素に変換したほうが効率がいい。ということで、あまり周囲に迷惑の掛からない(かつ面倒な)風属性にしましょう。ただし撃たないでね>
なんか舌打ちが聞こえた気がしたけど、俺にもっと負担をかけようとしている気がするけど、神様がそんなことする訳ないよな! ったぁ、うお、ちょ、そろそろ、マナが零れそうでやばい。はああぁ……風になれー風になれー。おっ、風になった! 意外と簡単に元素に変えられたけど、その代わりなのか風が口の中でのたうち回っているせいで、口の中を掻き毟りたいほどくすぐったいが。はっ、もしかしてこれが神様の目的なのか!? もしそうなら地味な嫌がらせだな、おい。神様のくせになんてしょうもないことを。
外の視点から見るとその風の魔法は黄緑色に着色された風……というか嵐が強烈に渦巻いてる。指先少しでも触れた時には全身木端微塵なんじゃないか? そう思うとなんかこえェよ。でも普通口の中って柔らかいはずだから傷つかないこの身体もこえェ。いや、頼もしいと考えりゃ……。うん、深くは考えずにいよう。別に考えることを放棄したわけではないぞ!
<ん、よし。ちゃんとできたね。あと、頭の中で一人突っ込みしてないでよ、寂しいじゃないか。という訳でじゃあ、次は残りの二体も同じ規模でマナを出してみて。人型は掌でいいから。はい、はじめ>
むぅ、またメンドクサイことを……。いったい何がしたいんだ? 俺の精神のライフはもうゼロよ。などとグチグチ言いながらもその声に従う。人の俺は片手ではマナの大きさ的に足りないので両手で集める。なんか某竜の玉を集める異星人の技みたいになった。
<よし、一体は水、もう一体は雷にして。人型のほうは少し制限があるから気を付けて>
制限という言葉に少し引っかかったけど、マナを変換する分には問題がなさそうなので無視し、ディアボロスは雷を、人型は水に変える。だが、竜のほうはすぐに失われたマナの変わりが、間髪入れずに体の中に満たされるというのに、人型は総量の10分の1ほど持ってかれた上に、少し待っても微々たる量しか回復されない。どうやら人型にはチートが効いていないようだ。おい神様どいう事だ、不具合か?
<いや、もちろん効いてるよ? この僕が失敗することなんてありえないんだから。でもそのチート、人型には適応してないから無理だよ。だって竜に合わせて作られたんだからね。それでも十分チートなんだけどね。今使っているのは本来は人には打てない超越魔法なんだから。しかも詠唱なしでだもの、詠唱すればもっと使うマナが少なくて済む。詠唱なしでも最高10発は打てると考えればほら、チートでしょ? そもそもドラゴンたちのほうが圧倒的に異常だよ。っと、説明している暇はないか。時間的に君の技量ではそれを維持するのもそろそろ辛いだろうし。
さて、これからやるのは混沌魔法。同規模で、属性の違う魔法を複数もしくは一人で繰り出す魔法だ。これは複数の属性を用いることによって複雑に絡み合い、エネルギーが累乗されていくというものだ。今は複数でやってるけど単体でもやろうとすれば、できる。でも、単体による混沌魔法は人間の一流魔術師でもごく一部しかできない、しかも初級でね。だから、人型で使用するときは十分に注意して使ってよ。本当は複数人の場合【マインドリンク】とかの魔法を使って心を合わせるんだけど、君たちは一つだからね、そこのところは問題ない。そのまま一緒にぶっ放しちゃって。編み込むようにす…… >
神様が何か説明しているが、頭に入ってこない。ああ、今にも暴発してしまいそうだ。初めて扱うエネルギーが俺の制御下から逃げ出そうとして、我慢しきれなくなってしまった俺たちは、溢れ出る力が望むがままにそのまま正面に異物を吐き出すように打ち込む。とりあえずまっすぐ進んでいったので俺の近くで暴発するということは、とりあえず免れたはいいが……。
<……ると魔法が拡さ……って、な、なにしてるんだよ!? そんな高威力な魔法をそのまま調整もせず撃ったら! ……あーあ、やっぱりね、やっちゃったか。はあ、もう面倒なことしてくれて、どうしてくれるのさ>
荒々しく互いの力を侵食しあい、のたうち回りながら緑青黄の極太の光線が進んでいく。三色の龍が通り過ぎた跡は、大地が深く抉れ死に絶えていた。しかもそれだけでは済まず、光が駆けていった先には緑が青々と茂る命溢れる場所……森があった。
「「「あっ」」」
三体の俺が同時に呻く。いっけねぇ、やっちまった。ちょっとした後悔と、多大な罪悪感を抱いた俺は神様に弁解をする。
「「「ッゴメン! 我慢が出来なくなって。ほら、初めての魔法じゃん。だから制御とか難しいんだって。しかも一番難しい魔法なんだろ。なっ、だから許してくれよ」」」
同時に言っているところから動揺していることが窺える……はずだ。だって分身のコントロールには繊細さが必要だから。いや、別に打算じゃないぞ、これは心から動揺しているぞ。
<……。まあ、仕方ないか。僕も焦らしていたわけだし。只、言い訳は感心しないね。特に心の中のヤツは。よし、これでチュートリアルは終わりだよ。なんか、ハプニングも起きたけどしっかり終えたことだし、よしとしましょうか。魔法の練習だと思って森はちゃんと直しておいてよ。さ、終了記念にこの世界の常識を教えよう。ほれっ>
「ん、何だ? ッ!! いってぇ・・・。こんな頭痛初めてだぞ。あ、こりゃあ相当な知識だな・・・。一生使わなそうな知識もあるぞ。専門的な奴が大半を占めてるがな。でも、負担は一切ないところがにくいね。とりあえずありがとうな、世界に馴染めそうだ」
<どちらかといえばねぇ、馴染まず暴れまわってくれるといいんだけど。まあ、好きにしていいよ。双竜の仕事さえしてくれれば。アルバスで希望を与え、ディアボロスで絶望を与える。それだけをね。信者の願いを叶えてもいいし、裏切るもよし。もう二体とも君自身だからね。さあ、この世界が君を待っているよ。かき回す存在として。頑張れ、僕は楽しみに待ってるよ>
「ありがとうな、俺もこの世界を楽しみ尽くすつもりだからな。幸いにも不老だ。かき回すどころかぐっちゃぐちゃにしてやるよ。そこで高みの見物でもしてな」
そういうと俺は体を人間だけに戻し、破壊した森へと向かう。そっちにこの国の首都があるからだ。・・・壊れてないよな?そんなことを考えながら歩いていると、ふと思いつく。神様に思考を読み取られるよりも早く言わねば、驚かせられないからな。
くるりと後ろを向き、神様は見えないがそれでも叫ぶ。
「神様ァー!名前ないんだろォー!俺が付けてやるよォー!」
<!!>
驚きの感情だけが流れ込んでくる。それに満足して、口角を釣り上げた。もっと大きな声で、態々竜へと姿を変えて名を叫ぶ。
「お前はァ迦楼羅だァ!どうだー気に入ったかーァ!」
<!!! いい名だな!これからの僕は迦楼羅だぁ!あははははははは! これだから君は面白いんだよ!感謝の言葉が足りないぐらいだよ!ありがとう!>
感謝の言葉を背に受けながら俺は力強く羽ばたく。俺の心はとても満ち足りていた。
※ 迦楼羅の意
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