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七話

 あのあとなんとか二人は冷静になり(時間はかかったが)話が再開した。


「コホン! いろいろ話が逸れてしまったようだが……それでは改めて逢君、夕霧君のことを頼んだよ」

「……はい」

 結局、石動は渋々だか了承した。まぁ俺としてもまったく知らない奴よりは、石動の方がやりやすくはあるけど。


「話は終わりか? それで俺はこれからどうすりゃいいんだ?」

「そうだねぇ、とりあえず本格的に仕事をしてもらうのは明日からとしよう。なので明日、学校が終わり次第逢君と一緒にまたここに来てくれ」

またここにくるのか……。面倒くせぇ……


「つーことはもう帰っていいのか?」

「そうだね、一応話は終わったことだしこの辺でお開きとしようか」

 はぁ、やっと帰れんのか。今日一日でいつもの倍以上疲れたぜ。


「逢君、君も今日は帰ってくれて構わないよ。今日の分の仕事はもうほとんど残ってないからね」

「え、でも……」

「それに、明日からはたぶん大変だろうからね……」

 そう言って彗華は意味深な笑みを俺に向けてきた。

 なんだ? 俺が迷惑でもかけると思ってるのか? まったく、どいつもこいつも失礼な奴だ。


「では申し訳ないですが、今日はお言葉に甘えさせてもらいます」

「あぁ、お疲れ様」

 そう言って俺たちは部屋を後にしようとしたが、俺は彗華に言っておくことがあった。


「おい彗華」

「なんだね?」


「監視するならもう少し上手くやるんだな。あれじゃあバレバレだ」


「おや、気づかれてたか……」

「あんなあからさまに見られてたら誰だって気づくわ」

 そう、ここに入ったときに最初に感じた違和感。それは不自然な視線と気配だ。

 たぶん二人程だろう、入口からこの部屋の前にくるまでずっと見張られていたのだ。ほとんど人がいない署内で、あからさまに気配を消そうとしてるのが逆に目立っていた。


「すまないね、悪気は無かったのだ。だが昨日の君の報告を聞いた他の者が、どうしても君を確認したいと言うものでね。私としても気になっていたので許可してしまったのだよ」

「どいつもこいつも俺を買いかぶり過ぎだ。昨日の位、そこそこできる奴なら誰だってやれたさ。ここの奴だって不良や犯罪者と相対するんだ、そんな柔な奴ばかりじゃないだろう?」

 まぁ実際どの程度の実力かはわからないが、少なくとも普通の人よりは強いだろう。


「私としては、君には期待してるんだけどね」

「はっ! 言ってろ」

 期待するのは結構だか、その期待に答えるかどうかはわからないがな。


「話は終わりだ、もういくぜ」

「あぁ、また明日」

 そう言って俺は扉の前で待っていた石動の所にいく。話の内容がいまいちわかっていない石動はしきりに首を傾げていた。


「ほら、いこうぜ」

「え、あぁ、はい……所長、ではまた」

 彗華は軽く手を振りながら俺たちを見送っていた。



 俺たち二人は並んで帰路についていた。どうやら石動の家は俺と同じ方向らしい。


「まさかこんなことになるなんて思いませんでした……」

 そう言って石動はため息をついた。ため息つきたいのはこっちだっつーの。いきなり学生警察ガードになれとか、無茶振りすぎんだろ。


「先輩、ちゃんとやっていけるんですか?」

「さぁな。まぁそこはこれからお前がしっかり俺を教えていくしかねぇな」

「なんで教えてもらうのにそんなに態度が大きいんですか、もう……」

 実際、これから石動に迷惑をかけるのは目に見えてわかっている。というよりかけまくると思う。


「それもこれも全部彗華のせいだな。あいつが変なこと言い出さなきゃ、こんなことにはならなかったんだから」

 本当に余計なことをしてくれたぜ、まったく。


「それはそうですけど、たぶん所長にもいろいろ考えがあるんですよ……。先輩には期待してたみたいですし」

「それが嫌なんだよ。俺は平凡で平穏な毎日を過ごしたいの。面倒事はしたくないんだよ」

「決まっちゃったものはしょうがないじゃないですか。それにわたしと一緒に働くんですから、先輩にはしっかりしてもらわないと困ります」

 そう言って石動が窘めてきた。


「わかってるよ、ったく。あ~クソ、彗華の奴、いつかもっぺん泣かしてやる」

 そんな決意を新たにしていると、石動がじっと俺を見ていた。


「なんだよ」

「……さっきから気になってたんですが、なんで先輩、所長のこと名前で呼んでるんですか?」

 そう表情、もとい感情の無い声で聞いてきた。なんか責められてるみたいだ……


「別に。あいつが呼ぶときは下の名前で呼べっつーからだよ。苗字は女の子っぽくないとかなんとか言って」

「ふぅん、そうなんですか。所長が……。いいですけどね、別に」

 なに拗ねてんだこいつ。わけわかんねぇ奴だな。

 ……あぁ!


「なに? お前も名前で呼んでほしいの?」

「な、ばっ!? な、なに馬鹿なことを言ってるんですか! そ、そんなこと一言も言ってないじゃないですか!!」

 聞いただけで馬鹿呼ばわりされてしまった。別にそんなに深い意味は無かったのに……


「あーまぁあれだな、俺としても名前の方が呼びやすくわあるしな。苗字だと四文字だけど名前なら二文字で済むし」

 などと適当に理由を付けてみる。ぶっちゃけどっちでもいいんだけどな。


「べ、別に先輩がその方がいいなら、わたしはいいですよ……」

「はいはい、じゃあこれからは名前で呼ぶよ」

「どうぞお好きに」

 そう言ってそっぽを向いた逢の顔が紅くなってたのは、たぶん夕陽のせいだけじゃないだろう。名前だけでなに恥ずかしがってんだこいつ。



「そういやお前ん家って何処なんだ? 俺ん家もうすぐそこなんだが……」

 俺の家は朝美駅から十五分程歩いたところにあるマンションだ。

 話ながら歩いているうちにどうやら着いてしまったらしい。


「どうせだったら送るけど……」

「大丈夫です。わたしの家ももう見えてますから。ほら、あのマンションです」

 そう言って逢が指差したマンションは、なんと俺の住むマンションの前にある大通りを挟んで、向かい側にあるマンションだった。


「近っ! めっちゃ近っ! なにこの偶然……」

 世間は思っているよりも狭いと言うが、まさかこんな近くに住んでたとは。


「でもこれなら先輩がサボったりしないようにしっかり監視できますね」

「え、えぇ……」

 そんな余計なオプションいらねぇんだけど……。

 俺の平穏な生活がどんどんおびやかされていく……。


「それじゃあ先輩。明日から頑張りましょうね」

「はい……」

「ではまた明日」

 そう言って逢は自分の家の方へと歩いていった。

 俺はそれを見送ってから、とぼとぼと家へと帰っていきました。

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