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六話

「それでは改めて。私はこの学生警察ガードで所長をしている皇彗華すめらぎすいかだ、よろしく。だが呼ぶときはできれば名字ではなく名前の方で呼んでくれ。皇というのはどうも厳つい感じがして女の子らしくないのでな」

 そう言って小さい所長、もとい彗華は自己紹介をした。どうでもいいがこいつ態度でかいな(←お前がいうな)。


「そんなことよりも、俺をここに呼び出した用件はなんだ? こっちはいきなりこんな所まで連れてこられていい迷惑だ」

「それについてはすまないと思っている。だが今日はどうしても君に頼みたいことがあって来てもらったんだ」

「頼みたいこと?」

 俺が聞き返すと、彗華は一拍置いてからこんなことを言ってきた。


「率直に言おう……君に、この学生警察(ガード)に入ってもらいたい」

「……………………………………は?」

 ちょっと待て、いまこいつなんて言った? 学生警察(ガード)に入れと言ったのか?


「おいおい、なんでそんな話になる? 意味わかんねぇぞ」

「実はいま学生警察は人手不足でね、増えていく犯罪や依頼に対処しきれなくなってきているのだよ」

「だからってなんで俺が入らなきゃいけねぇんだよ」

「昨日の報告は聞いたよ。あの犯人たちを一人で倒したそうじゃないか。それを聞いて是非君に学生警察に入ってもらいたいと思ったのだ」

「断る。そんな面倒なことは御免だ」

 まさか昨日のことがこんな面倒なことになるとは思わなかったぜ。


「だが君の力は学生たちを守るのに大いに役立つのだ。是非力を貸してほしい」

「嫌だっつてんだろーが。他当たれ」

「どうしてもか?」

「どうしてもだ。第一、さっきも石動に言ったが昨日のはたまたまだ。お前らが期待するような力は俺には無い」

「ふふ、それはどうだろうな?」

「……なにが言いたい?」

「悪いが君のことを少し調べさせてもらったよ。確か君は、前住んでいた町で、不良たちを病院送りにしたらしいね。その後君は学校中の生徒から恐がられ避けられていたと……」

 こいつ……


「確かに少しやり過ぎだとは思うが、それでも君にはそれをおこなえるだけの力がある。それに理由があったそうじゃないか。君は助けを求められたからあのようなことをしたのだろう? 君に助けを求めたのはそう、確か……」

 その瞬間、俺は一瞬で彗華との間合いを詰め、すかさず首もとに手をそえた。これ以上なにかを喋ればすぐにでも絞め上げることができるように。

 

「――――っ!?」

 多分こいつには何が起こったのかわからなかっただろう。気がついたら俺が目の前にいて、首を絞められそうになっていた、と。なにせ俺はこいつが瞬きするタイミングにあわせて移動したのだ。目を閉じて、一瞬俺の姿が視界から消えた瞬間を狙って。


「少しお喋りが過ぎるんじゃねぇか? 俺は別に温厚な人間じゃあない。気にくわない奴は女だろうが容赦はしないぞ」

 俺はもう片方の手で顔をそらせないようにしながら、威圧を込め、恐怖を植え付けるようにして彗華の目を見ながら言葉を続ける。


「あのことは俺が判断し、俺が実行したことだ。他人にとやかく言われる筋合いは無い。その結果がどうであれ後悔なんて微塵もない。俺は別に過去に執着するような人間ではないからな……」

 そこで一旦言葉をと切り、首にそえてある手に少し力を入れる。


「うぅっ!!」

「だが……だからといって、知りもしない他人に過去をほじくり返されるのは不愉快だ。それでもまだこの話を続けるってんなら容赦はしないぞ……」

 最後にそう言ってから俺は彗華を解放した。



 解放された彗華は、そのまま床に座り込み俯いてしまう。

 俺が無言で彗華の反応を待っていると、


「ふぅ……ぅ……っ!」

「あぁ?」

「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 突然この小さい所長(年上)が泣き出してしまった。

 えぇ!? ってかマジ泣きっすか!?

 見た目ほんと小学生(だが年上)みたいな奴が本気で泣いている。

 正直本物の小学生(実際は年上)を泣かしてるみたいで、なんか罪悪感が……。

 そうこうしている間も彼女は泣き続けている。


「ふっ、ふえぇぇん! ……ぅっ、ぅ、うぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

「お、おい泣くなよ……お前仮にも年上だろ?」

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 どうする、俺? いっそほっとくか? ……いやいやそれはそれで後が恐いな。逆に更なる恐怖を与えて言葉もでなくするとか? いや無いだろ。

 とりあえずなにか言うしか……


「おい泣き止めよ、俺が悪かったって。もうなんもしねぇから……」

「ふえぇぇぇぇぇん!!」

 ダメか! くそぅめんどくせぇなぁ。こっちが泣きたくなるぜ……


「なぁ、どうしたら泣き止んでくれんだよ? あれか、アイスとかお菓子とか買ってくりゃ泣き止んでくれんのか? ほら、いいぜ何でも言えよ」

「ふぇっ……ぇっ……な、なんでもぉ?」

「あ、あぁ」

「ほんとになんでも?」

「いいつってんだろ、なんでも言えよ。男に二言はねぇ」

「ひっく……じゃ、じゃあぎょうむようのあいすとかでも?」

「あぁ」

「とくだいさいずのぽてちでも?」

「あぁ」

「おっきいくまのぬいぐるみでも?」

「しつけーぞ、いいつってんだろ」

「じゃあがーどにはいって」

「いいぜ」

 ……………………ん?

 まて、俺はいま何に返事をした? こいついま『がーど』って言わなかった?


「おいちょっ……」

 俺が聞き返すより早く、彗華が言葉を発した。


「よし! 君の返事も貰えた。これで君は今日から正式な学生警察の一員だ」

 いつの間にか泣き止んでいた(いやそもそも演技だったのか?)彗華は、さっきまでのような不遜な物言いでそう言ってきた。


「ちょっと待て! いくらなんでもそりゃセコすぎんだろ!」

「だが君はさっき『なんでも言え』と言ったじゃないか」

「いやそりゃ確かに言ったが、それとこれとは話が別だろ?」

「男に二言は無いんだろ?」

「お前……」

「それでも断ると言うのならまた泣くぞ? さっき以上に泣き叫びながら外に飛び出していくぞ? そうしたら君はこれから、『小さくて可愛い女の子を泣かして、約束まで破った最低の男』だと後ろ指を指されながら生活していくことになるぞ」

「きたねぇ……」

 しかも自分で可愛いとかいってんじゃねぇよ。


「ふふふ。それで、どうするんだ?」

 ここまで脅しておいてなに言ってやがんだこいつ……

 クソ、まんまとはめられたぜ……


「っち、わかったよ! やりゃーいいんだろやりゃ!」

 俺はそう投げやりに了承した。


「良かった、そういってもらえて。ありがとう。……それとすまなかったね、君の過去のことを……」

「その話はもういい。だが次同じようなことをしたらその時はなにがあっても容赦はしないぞ」

「わかっているよ。私ももう人前で泣きたくはないからね」

「え、お前あれマジで泣いてたの? てっきり俺を騙す演技かと思ってたぜ」

「――っ!! し、しょうがないじゃないか! さっきの君はその……本当に恐かったんだから……! で、でもホントに泣いてたのは最初の方だけだぞ!!」

 それでも、ねぇ。

 いやまぁ確かに本気で脅すきでやったからな、恐怖を感じるのは当たり前かも知れないが。まさかマジだったとは……。


「こほん! で、ではこれからのことについて話をしようじゃないか」

 そう言って誤魔化しつつ話を進めていく彗華。

 はぁ……なんでこんなことになったんだ……。



 こうして俺は学生警察(ガード)に入ることになった……




「少し待っていてくれたまえ」と言って、彗華は執務机の上にある電話で誰かを呼び、五分程して現れたのは石動だった。


「それでは、これからのことについて話をしようか」

「……あの、ちょっといいですか?」

「なんだい?」

 話し始める前に石動が待ったをかけた。


「結局夕霧先輩はどうなったんですか?」

 事情をしらない石動そう質問した。


「あぁ、彼今日から学生警察ガートになったから」

「はぁ、そうなんですか…………って、えぇっ!?」

 まぁそうなるわな。でも驚きすぎじゃね?


「こ、この人が学生警察、ですか?」

「そうだ。彼の能力は学生警察には必要だと私が判断した」

「はぁ……所長がそう言うのでしたら……」

 石動はあまり納得してないようだ。俺自身納得してないけどな!


「それから逢君、彼はまだ学生警察の仕事をなにも知らない。なので当分は君と二人で行動してもらう。よろしく頼むよ」

 彗華はさらりとそんなことを言ってきた。


「ち、ちょっと待ってください! わたしが教えるんですか!?」

 言われた石動はめっちゃ動揺していた。

 てか俺こいつに教わんのかよ。年下にものを乞うとかなんかちょっとあれだな……。


「逢君、君も学生警察(ガード)に入ってそろそろ一年だ。次は君が新人を育てる番だろう。いつまでも新人じゃいられないんだぞ」

「それは、そうですけど……」

 それでも渋っている石動に、彗華は追い討ちをかけるように言った。


「それに、たぶん上手くやっていけると思うよ。ふふ、君は彼と一緒のときはいつもと違ってとても楽しそうだからね。君があんなに感情を表に出しているのは始めてみたよ」

「なっ――!?」

 彗華の言葉に石動は一瞬にして顔を紅潮させた。

 ほう、俺と一緒にいるのは楽しいのか。全然そんなふうには見えないけど……


「な、なにを言ってるんですか所長!! そんなことないですよ!」

「おや、そうかな? 普段の君はいつもクールで、坦々と仕事をこなしている感じがするのだが。それにいまだって……」

「うっ……」

 そう言われて石動は黙ってしまった。そういう反応するからからかわれるんだっつーの。

 動揺している石動を見てるのは面白いが、少し可哀想だな。

 仕方ない、そろそろ止めるか。


「おい彗華、あんま年下苛めんじゃねぇよ」

「おや? 君はあまり動じないんだね」

「こんなことで動揺するほど純心じゃねぇんだよ。それと石動のことをあれこれ言ってっけど、お前だってさっきマジ泣きしてたじゃねぇか」

 その瞬間、彗華も石動同様、さっきまで意地悪く笑っていた顔が瞬時に真っ赤になった。


「――っ!! そ、その事は言うなっ!」

 彗華が物凄い勢いで抗議してきた。人のこと散々からかってたくせに自分に移ったとたんこれかよ。


「え? 所長泣いてたんですか……?」

「逢君! 君もそれ以上の詮索は禁止だ!」

 彗華は必死になってこの話題を終わらせようとしていた。まぁ自業自得だな。人を呪わば穴二つってな。


 ちなみに俺は、どちらも高みの見物だったけどな。

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