五話
なんだかんだありつつも、俺たちは学生警察にたどり着いた。
学生警察をみた第一印象は、なんというか普通の役所って感じだ。
飾り気の無い白いコンクリート壁に窓ガラスがついた面白味もなにもない建物だ。大きさは学校の体育館位だろうか。
「なんか思ってたより普通だな」
「なにを期待してたんですか……」
「いやなんかもっとこう威圧的な感じの建物を……」
「そんなわけないじゃないですか。威圧するような建物じゃ依頼に来る人まで逃げちゃいますよ」
言われてみればそうか。でもまぁ期待外れなのは確かだな。
「それじゃあ先輩、行きましょうか」
「気は乗らねぇんだけどな」
俺は文句を言いつつ建物の中に入っていった。
入ってすぐに『それ』に気づいた。
「石動、いつもここはこんななのか?」
「こんな、とは?」
「いつもと変わりはないか?」
「たぶん変わらないと思いますけど……」
…………。
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもない」
考えていても仕方がない。とりあえず目的地にいってみた方がよさそうだ。
石動に先導してもらい、俺は目的地に向かった。
「ここです」
そういって連れてこられたのは、他の場所とは違い、やけに豪勢な木製の扉がある部屋だった。よく見てみると扉の上に『所長室』と書いてある。
「えっ、なに? 俺所長に会うの?」
「はい。わたしにもよくわからないんですが、所長室に連れてくるようにと言われました」
「ここに来てまさかの展開だな。てっきり取調室みたいなとこに行くのかと思ってたんだが」
昨日から予想外のことが起きすぎてる気がするんだが。
「先輩、くれぐれも失礼の無いようにしてくださいね」
「任せろ。紳士の鏡とは俺のことだ」
「……激しく不安です」
そう言いつつ、石動はノックしてから扉に向かって呼び掛けた。
「所長、夕霧慶介さんをお連れしました」
そう言うと扉の向こうからくぐもった声が聞こえた。
「入りたまえ」
それを聞き、石動が「失礼します」といって先に入っていく。俺も後に続くように入った。
「うぃーっす」
そう言った瞬間、もの凄い勢いで石動に睨まれた。
「――先輩っ! さっき失礼の無いようにっていったばかりじゃないですか!」
「いやいやいやいや。いまのどこに失礼な点があったよ」
「全部ですっ!」
俺の行動全否定……
「めんどくさいやつだなぁ。いいじゃねぇかよ挨拶ぐらい何でも」
「よくないですっ!」
そんなやりとりをしていると、
「ふふ、君たちは仲が良いんだね」
という女、いや少女の声が聞こえた。
「す、すみません所長!」
慌てている石動をよそに、俺は初めてその所長とやらを見た。
そして俺の抱いた第一印象は……
「え? なにこのガキ」
そこにいたのは、見た目中学生、もとい小学生でも通用しそうな感じの小柄な少女だった。腰まで届きそうなウェーブのかかった長い髪、目は大きく愛らしいという表現がぴったりだ。そして何より小さい。顔、手足、それに背も。本当にこいつが所長なのか?
俺がそんなふうに思っていると、
「な、な、な――!」
「な? なにそれ、お前の中での流行り?」
石動が『な』を連呼し始めたと思ったらいきなり、
「――なにいってるんですかこの馬鹿っ!!」
「うぉ!!」
突然石動に大声で初めての罵倒をされた。
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは。いきなり失礼な奴だな」
「失礼なのはどっちですかっ! この人は先輩のひとつ年上でこの学生警察の所長なんですよ!!」
「マジで? こいつ小学生の『一日所長』とかじゃねぇの?」
「違いますっ! 正真正銘ここの所長です!」
へぇ、こんな見た目なのに所長なのか。しかも年上。みえねぇ~。
「すみません所長! 先程から失礼なことばかり。この人ほんと馬鹿なんです!! ですからどうか許してあげてください! わたしが後でちゃんと言っておきますんで!」
「お前さっきからマジで失礼じゃね?」
昨日あったばっかの俺のなにを知ってるっていうんだまったく。
「先輩は黙っててくださいっ!」
さっきからこいつ怒ってばっかだなぁ。ここに来る前はなんかしおらしい感じだったのに。
そんなことを思いつつも、俺は言われた通り黙っていると、
「本当に仲がいいね……。別に構わないよ逢君。それよりもご苦労だったね、彼をここまでつれてきてくれて」
「い、いえ、これも仕事ですから」
そう会話をした後、小さい所長は俺に向き直った。
「夕霧君、君もすまなかったね。わざわざ来てもらって」
「まったくだ。用があるならとっとと終わらせてくれ」
「そうだな……。すまない逢君、悪いんだが少し席を外してもらえないか。彼と二人で話がしたい」
「え? 二人で、ですか?」
そう言って石動は俺の方を不満そうに見てくる。
「なんだよ」
「……先輩がまた失礼なことを言わないか心配なんです」
まるで信用してない目で俺を見てくる石動。
「心配しなくて大丈夫だよ。話はすぐに終わるから」
「所長がそう仰るのなら……」
そう言って石動はしぶしぶと部屋を出ていった。