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四話

 俺達はいったん別れてそれぞれの下駄箱で靴を履き替えてから校門の前で待ち合わせた。


「お待たせしました先輩、それでは行きましょうか」

「あっ、そうだ! 俺これから塾があるんだ。中間テストに向けて苦手な英語をリーディングからライティングまでみっちりやる予定だったんだ。いやぁすっかり忘れてた。じゃ、そういうことで」

「くだらないこと言ってないで行きますよ先輩」

「…………」

 無表情で流されてしまった。俺はすごすごと石動の後をついていった。


「そういや学生警察ガードってどこにあんだ?」

 俺は学生警察の場所を知らなかったので石動に聞いてみた。


「朝美駅の北口を少し進んだ所です」

「北口か。そっちの方は行ったことねぇなぁ」

 というより、もともと俺はそんなに行動的でもないので、普段から限られた場所にしか足を運ばないというのもある。


「確かに南口と違って娯楽施設ごらくしせつもないですし、特別用がなければ行かない場所ですね」

「できれば行かないままでいたかったけどな……」


 その後しばらく会話もなく歩いてた。昨日今日あったばかりで共通の話題など思いうかず、俺自身普段自分から進んで会話をする人間でもないので、一度会話が途切れると後には沈黙ちんもくが続くばかりだ。

 だがそんな沈黙を破るかのように突然石動が立ち止まり俺に話しかけてきた。


「先輩」

「あぁ?」

 突然の石動の行動に戸惑いつつも俺は返事を返した。


「昼休みに言ったこと覚えてますか?」

「昼休みに?」

 なんか言ってたっけ? 長々と昨日ことについて話したのは覚えてるけど……


「先輩に聞きたいことがあるって話です」

「あぁ、そういや言ってたなそんなこと。なんだ? 彼女ならいないぞ」

「それはもういいです……。わたしが聞きたいのは昨日の先輩についてです」

「昨日の俺?」

 聞き返した俺に逢は神妙そうな顔で聞いてきた。


「はい。昨日の先輩の強さは異常でした。一人であの人数を相手にして、しかも勝ってしまった。とても普通の人にあんなことできるとは思いません。だからなんで先輩があんなことをできたのか気になって……」

 あーそのことか……そういやこいつには昨日のを見られてたんだっけな。

 ……………………誤魔化すか。


「あ~正直あの時は咄嗟だったからな。俺もいまいち自分でどうしたか覚えてねぇんだよ。ほら、人間咄嗟になると思いもよらない力を発揮することがあるっていうだろ?」

「確かにそういう話もありますけど……。昔に格闘技か何かを習ったりはしてなかったんですか?」

「……生憎そういったものはやってないな」

 俺はいまこの少女に嘘をついた。

 だが本当ことを話す気はない。あったばかりの奴に話すようなことでもないしな。


「そうですか……。すみません、変なことを聞いてしまって」

 そう言った石動はまだ完全には納得しかねるといった感じだったが、それ以上追求はしてこなかった。


「それから、先輩……」

「?」

「先輩に言っておきたいことがあるんです」

 どこか緊張したような感じで、石動は改めて俺に向き直った。


「先輩、昨日は本当にすみませんでした!」

 そう言って石動はいきなり頭を下げた。


「いきなりなんだよ?」

「昨日のことです……。本当なら学生警察(ガード)であるわたしが先輩を守らなくてはいけないのに、巻き込んでしまった上に助けてもらって……。わたしは、学生警察失格でした……」

 石動は顔を伏したまま泣きそうな声で言った。

 どうやら彼女にとって昨日のことは相当堪えたみたいだ。

 守るべき人間を守れず、それどころか逆に助けられてしまったということ。もし仮に、昨日人質にされてたのが一般人だったなら犯人は逃がしてただろう。それどころか人質にされた奴が怪我をしたかもしれない。真面目そうな石動のことだ、それが本当に悔しかったんだろう。

 

「お前馬鹿だな」

「なっ――! 人が謝って反省してるのになんですかそれっ!!」

 俺はかまわずに言葉を続けた。


「人が一人でできることなんて限度があるんだよ。昨日のはそれを越えてたってだけだ。たぶんお前以外の奴でも同じような状況になってたはずだ」

「でも……じゃあどうすればよかったんですか……」

「そんなの俺が知るかよ」

「こ、ここまで言っておいて無責任過ぎじゃないですか!?」

 確かに無責任かもしれないが、それは俺が言うことじゃない。


「俺は先生でもなけりゃお前の親でもねぇんだ。それくらい自分で考えろ」

「そんなの、わからないですよ……」

 石動は小さな声でそう言った。

 しっかりしてそうに見えても所詮は十五、六の少女。まだまだしっかり自分の足で立つことは難しいようだ。


「ったく、いつまでも終わったことをぐじぐじ考えててもしょうがねぇだろ。そんなに責任を感じてんなら、もし次に同じようなことがあったときにちゃんと対応できるように考えろ。いつまでも同じ場所に立ち止まってちゃ成長なんてできねぇんだ。しっかりしろ、お前は学生警察(ガード)で、街を守らなきゃいけない。それがお前の役目だろ」

 そういって石動の頭を少し乱暴に撫でた。

 あれ? てか俺、今スゲー良いこと言ったんじゃね?


「はい……そう、ですね。わたしがしっかりしないと」

 返事をした石動はまだ少し元気はなかったが、さっきまでのように悲観的な声ではなかった。

 改めて見た石動はやっぱりまだ少女で、いま俺が言ったことは少し荷が重いと思うが、それでも彼女は頑張るのだろうと思う。なんせ根が真面目そうだからな。


「……ふふ、先輩って意外に優しいんですね」

 俺の手の下で、石動は突然笑ってそう言った。


「はぁ? なにいってんだ。別に優しくはねぇだろ。柄にもなく説教くさいこともいっちまってんだから」

「いえ、先輩は言葉は乱暴ですが言っていることはとても優しいと思います」

「いってろ……。ほら、とっとと行こうぜ。俺は早く帰りてぇんだから」

「そうですね。すみません、時間をとってしまって」

 そう言って俺たちは歩き出したのだが、


「先輩!」

 呼ばれ、振り返った俺に石動は、


「昨日は助けてくれてありがとうございましたっ! 今日はそれが言いたかったんです!」

 そう言って笑った石動の笑顔はとても眩しかった。


「……気にすんな」

 言いつつも俺はついつい視線を反らし、そのまま歩き出してしまった。


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