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三十話

「わりぃな恭さん、つーわけでリーダーの命令なんで力づくでも帰ってもらいますよ」

「龍ッ……!」

 どうやら向こうはヤル気満々みたいだな。できれば穏便に済ませたかったんだが……そうも言ってられない状況みたいだ。


「……クソッ!」

 悔しそうにそう吐き捨てながら昔の仲間と対峙する馬場。気持ちが分かるとは言わないがその心中は察せる。元は仲間だった奴に敵意を向けられるというのはそれだけで精神的にくるものがあるだろう。

 けどこうなった以上仕方がない。馬場には悪いが相手をするしかないだろう。


「……伊織」

「お側に」

 俺の呼び掛けにすぐに答えが返ってくる。

 今更だがこいつ本当に現代人かよ。さっきは面倒だから流したが今どき忍なんて本当に存在するのかよ。いやまぁ事実そうとしか考えられないような奴ではあるんだが……。

 っと、そんなこと考えてる場合じゃなかったな。俺は余計な考えを止め、手早く伊織に指示を出す。


「こっちの金髪とロン毛は俺と馬場で相手をする。お前は逢とあのでかい奴を頼む」

「御意」

「逢、お前は伊織の援護をしてくれ」

「わかりました!」

 短く返答し、すぐに行動に移る二人。

 さて、こっちもやることやんねぇとな……


「おい、そこの金髪ゴリラとロン毛」

「あぁ? それは俺のことか?」

俺の言葉に金髪の方が即座に反応してきた。


「お前ら以外に他に誰がいるだよ」

「……テメェ、死にてぇようだな」

「はぁ? 死にてぇわけねぇじゃん。さすがゴリラ、オツムもゴリラ並だな」

「――殺すッ! テメェは俺が直々に殺してやる!!」

 軽い挑発に簡単に乗ってきた金髪。コイツ自覚でもあんのか?

 でもこれで俺の相手は決まった。


「つーことだから金髪は俺が相手する。お前はそっちのロン毛を頼む。一応言っとくが、昔の仲間だからって手加減なんかすんなよ」

「わかってる」

 馬場の実力がどれ程のものかはわからないが、もともとこいつらの上に立ってたっていうなら多分大丈夫だろう。

 さて――


「テメェ、覚悟は出来てんだろうな」

「こっちのセリフだクソ野郎ッ!!」

 おお、なかなかいいツッコミの反応だ。


「しかしどうよ。最近のお笑いはあんまりネタ披露の場がなくてつまらないと思わないか? それに昔に比べてピン芸人が増えてきてノリツッコミと言うお決まりのパターンもなかなかお目にかかれなくなってきてるしな。最近のお笑いも面白いとは思うが俺はどちらかと言えば昔のようなボケとツッコミの掛け合いのが好きなんだが――」

「何わけわかねぇことほざいてんだテメェ、頭おかしいんじゃねぇのか」

「いやいや、最近のお笑い事情についてだな――」

「意味わかんねぇつってんだろうがッ!」

「うおッ!」

 俺の軽快なトークを遮った上にいきなり殴りかかってくるとは……躾のなってないゴリラだぜ。

 ……けど今のパンチ、大振りだから避けられたもののかなりの威力とスピードだった。


「ハッ! 上手く避けたじゃねぇか」

 この金髪、直ぐに俺から間合いをとってる……

 どうやらその辺の不良なんかよりはできるヤツみたいだな。


「どうした? そっちが来ないならこっちからいくぜ!」

 言うや否や金髪はすぐさま間合いを詰めて向かって来た。しかもコイツ――速いッ!?


「――シッ、シッ、シッ!!」

 近づいて来るや、さっきの大振りとは違い今度は細かい突きを連続で繰り出してくる。

 俺は避けることが出来ず、金髪の攻撃を仕方なく腕でガードする。


「くッ――!!」

 コイツ、大振りな攻撃じゃないってのに一撃が重い!

 このままじゃ攻撃を防いでる腕が持たねぇ――


「――ッ! この!!」

 俺は攻撃の隙を突いて反撃しようと腕を横に凪ぎ払うようにして振るも――


「――っと」

 見切られていたのか、()けられて直ぐに距離をとられる。ったくゴリラの癖に機敏に動きやがって。

 けどわかったことがある。コイツの動き――


「……お前、そのスタイル――もしかしてボクシングか?」

「へぇ、よくわかったな」

 やっぱりか……

 あの身のこなし、間合いのとりかた……まさしくボクシングのそれだ。道理でその辺の不良よりも強いわけだ。


「だがそれが分かったからって何も変わらねぇけどなッ!」

 またも素早く間合いを詰められる。


「オラオラどうした!! さっきから防戦一方じゃねぇか。威勢が良かったのは最初だけか!?」

 止むことなく攻撃を仕掛けてくる金髪。

 クソ、腕が――

 あまりの猛攻に俺の腕は耐えられなくなりガードが緩む。

 それを見逃さず――あるいは狙っていたのか――金髪の拳がガードを抜けてくる。

 直後――ドンッ! という音が自分の腹部から聞こえた気がした。


「が、はッ――!?」

 やッべぇ、まともに食らっちまった……。

 一瞬息が詰まり呼吸が困難になる。それと同時に内蔵を押し潰されたような痛みがやってきた。


「ぐッ――」

 胃からせりあがって来そうなものを身を折り、歯を食いしばって何とか耐えるもダメージがデカ過ぎてできたのはそこまでだ。


「おいおい、粋がってたわりにこんなもんかよ」

 頭上から金髪の嘲笑うような声がする。

 そのまま動けない俺の髪を掴み無理やり顔を上げさせられた。


「そらよッ!」

 止めとばかりに頬を殴られる。

 踏ん張ることも出来ず、勢いのまま俺は後ろに倒れた。

 あー完全に油断したな……。ただの不良と侮ってた。コイツ、俺の予想以上に強い――

 口の中でじわりと鉄のような味が広がっていく。どうやら口の中を切ったらしい……こりゃ暫くは飯を食うのに苦労しそうだな。

 なんて場違いなことを思っていたら、倒れた俺に向かって金髪の呆れたような声が聞こえた。


「は、学生警察ってのはこんなもんかよ。歯応えが無さすぎて拍子抜けだぜ」

 クソ、好き放題言いやがって。

 そもそも何で俺がこんな目に合わなきゃいけない? 何でこんなどこぞのゴリラに貶されなきゃいけない? 殴られなきゃいけない? 何でこんな所にいるんだ?

 殴られたせいか思考が定まらない。もう考えるのも面倒だ……。


 ――けど、今解ることがひとつある。


 今こうして俺が倒れているのは全部、目の前の奴のせいってことだ。

 ならやることは一つ――コイツをぶちのめす。

 そうと決まればいつまでも地べたに寝転がってるわけにはいかねぇな。

 俺は四肢に力を入れて起き上がる。多少ふらつくが問題ない。――さて、やられた分はきっちり返させてもらおうか。


「へぇ、まだ立ち上がる力が残ってたのか。少しはやるじゃねえか」

「ゴリラに誉められても毛ほども嬉しくねぇけどな」

「は、ならその減らず口ごと今度こそ終わりにしてやるよッ!」

 一撃で終わらそうとしてか大振りな攻撃。食らえば相当でかいダメージだ。

 けど――


 パシンッ!


「なッ!?」

 俺は繰り出される金髪の拳を掴んで止める。

 まさか止められるとは思っていなかったであろう金髪は驚きを隠せずにいた。


「――チッ!」

 金髪は俺の手を振り払って直ぐに距離をあける。


「ハッ! まぐれにしてもよく俺の攻撃を止めたじゃねぇか」

「そう思うんならかかってこいよ」

 俺の挑発に金髪の表情が変わる。


「……テメェ、マジでその減らず口叩けねぇようにしてやるよ」

 そう言って金髪は今まで見せなかった構えをとる。俗に言うファイティングポーズってやつだ。


「素人だと思って手加減してやってたがやめだ! テメェはマジで殺す」

「……能書きはいいからさっさと来いよ」

「調子こいてんじゃねぇぞオラァ!!」

 俺の態度も相まって本気になった金髪が迫ってくる。

 あきらかにさっきまでよりも切れのある動き。そこから繰り出される攻撃もスピード、威力どちらも素人のそれとは大違いだ。


「シッ、シッ――!」

 止まることなく繰り出される攻撃。一度でも捕まったらそのまま奴の餌食になりそうだ。

 でもそれは攻撃が当たればのだ。

 だから俺はその攻撃を全て――


「……おっと」

  躱し――


「――ッ! ――っと」

 ――()なし、反らす。

 相手が攻撃してきてから行動するのでは遅すぎる。相手から目をそらさず、身体の動き、目線の位置から次の動作を予測する。


「クソッ! 何で当たんねぇんだ!!」

 自分の攻撃が全然当たらないことに段々と苛立ち始める金髪。そうなるともうこっちのもんだ。

 人は苛立ち、焦ってくると動きも思考も雑になってくる。さっきまでは緩急をつけた攻撃を繰り出していたのに、今は焦りのせいか大振りな攻撃が増えてきている。

 大振りな攻撃が増えるとどうなるかと言うと――隙ができるわけだ。


「オラァ!!」

 今度もまた大振りな攻撃。俺の顔面目掛けた右ストレートだ。けどそんな分かりやすい軌道の攻撃、避けてくれって言ってるようなもんだ。

 俺は迫ってくる拳を体を左に反らすようにして避ける。そしてがら空きになった鳩尾に力一杯拳を叩き込む。


「かッ――!?」

 金髪の口から声にならない苦悶が聞こえ、ドサッという音と共に腹を抱えながらその場に跪く。


「これでさっきの分は返させてもらったぜ」

「……く、そがぁ……」

 絞りだすような声で悪態をつく金髪。タフな奴だな。


「いつまで座り込んでんだ? それとももう降参かよ。口ほどにもないやつだな」

「テメェ、言わせておけば……!」

 俺の挑発にフラつきながらも立ち上がる。敵とはいえなかなか根性のある奴だ。

 でもそろそろ終わりにしないとな。コイツ一人にばかりかまってはいられない。他の奴らの様子も気になるしな。


「一つお前に教えてやるよ」

「あぁ……?」

 金髪が俺の意味深なセリフに怪訝な顔をしていた。だがそれに構わず今度はこちらから攻めに入る。


「――くっ!」

 さっきまでとは全くの逆。今度はこっちが攻めるのに対してダメージの抜けていない金髪は俺の攻撃を防ぐのがやっとの状態だ。


「こ、の――!!」

「おっと」

 無理やり打ち込んできた拳をかわし少しばかり距離をとる。今の攻撃にもさっきまでの威力はない。

 向こうはそろそろ限界みたいだな。


「なぁ」

「…………ッ!!」

「確かにボクシングってのは拳で戦うスポーツだけどよ――」

 言葉を続けながら、俺は離れていた距離を一足(いっそく)で縮めて接近する。そのままガードされるのも構わず拳を叩きつけていく。


「――ッ!」

 顔を苦痛に歪めながらも必死にガードし続けていた金髪だがそれももう限界のようで、次第にガードしている腕が下がってきていた。

 そして、俺はそれを狙っていた。


「今俺たちがやってるのは喧嘩だぜ?」

 その言葉が終わると同時、ガードが下がり見えていた金髪の側頭部目掛け、刈り取らんばかりの勢いで蹴りを放った。

 

「なら当然、蹴りだってあるに決まってんだろ」

「――!?」

 意識していない場所に予想外の攻撃。

 当たり前だがそんなものを防げるはずもなく、俺の狙い道理その攻撃は見事にヒットした。

 真横に吹っ飛び倒れる金髪。そしてそのままピクリとも動かなくなった。どうやら気絶しているようだ。

 はぁ、やっと片付いたぜ。 


「いつつ……」

 そういや口の中切ってたんだっけな。

 あー予想外に手間取った。最初っから真面目にやっときゃよかったぜ。無駄に怪我しちまったよ……。

 にしてもあの金髪、ただの不良だと思ってたがなかなか強かったな。今どきの不良ってのは格闘技なんか習ってんのか。世も末だな。

 まぁ何にせよこっちの仕事は終わった。……さて、他の奴らはどうなったのか。

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