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三話

 放課後になり、それぞれが帰り支度をし始め、教室を出ていく。

 俺も遅まきながら帰る準備をしていると、大和と千里がやってきた。


「慶介、放課後どっか寄ってかない? どうせ暇でしょ」

 今日はバイトがないらしい千里が寄り道に誘ってきた。

 ちなみに千里のバイトはこの街にあるチェーン店のファミレスのホールスタッフだ。本人曰く評判がいいらしい。あくまで自称だが……。


「いこうぜ慶介、財布も戻ってきたしパーッと騒ごうぜ!」

 昼休みに財布が戻ってきたことは二人に報告済みだ。

 なので行くことはできるのだが、なにぶん財布が戻ったからといってそんなに余裕があるわけでもない。


「ん~どうすっかなぁ……」


 などと考えていると背後から声がかけられた。


「夕霧先輩」

「石動……?」

 振り返るとそこには、先ほど財布を届けてくれた張本人である石動が無表情で立っていた。


「どうしたんだ、こんなところで?」

「先輩を迎えにきました」

「迎えに? ……あ、あぁ!!」

「忘れてたんですか?」

 少し不満げな表情で石動が言ってきた。

 すっかり忘れていた……。そういえば放課後に学生警察ガードにいくとか言ってたっけな……

 正直気は進まないのだが迎えにまでこられてしまっては逃げようもない。

 仕方ない、千里たちの誘いは断るしかないな。


「悪い、俺この後用事が……」

「慶介、その()誰……?」

 俺が断りの言葉を述べようとしたら、妙に低い声で千里が聞いてきた。 


「あぁ、そういや紹介してなかったな。こいつは石動。昼に俺の財布を届けてくれたやつで……」

「ふぅん……」

 妙に千里がいぶかしんでいたので、これ以上俺が喋るよりも自分で自己紹介させた方がいいと思い、石動に目で合図を送る。それに気づいた石動が改めて自己紹介する。


「えと、はじめまして、一年の石動逢いといいます」

 少し戸惑いながらも自分の紹介をする。

 それに習い、大和と千里もそれぞれ自己紹介をした。


「あたしは神谷千里、よろしくね」

「俺、東山大和!! よろしく~! いや~それにしても逢ちゃん可愛いねぇ~噂どおりだよ!」

「いえ、あの……」

 困ったような表情で大和から距離を置こうとする石動。というか大和キモいな……

 とりあえず俺は気になったことを聞いてみた。


「なぁ? 石動って有名なのか?」

 そう俺が聞くと、大和が自慢げに喋りだした。


「そりゃあこれだけ可愛いんだ、有名にもなるよ! いつもクールで大人びてて、それに加えて運動も勉強もできてしっかり者。それに面倒見もいいと聞く。これは男子もほっとかないだろ!」

「ふぅ~ん、そうなのか」

 てかどっからくるんだその情報……。

 でも確かに石動は見た目は美人だし、運動も勉強もできて面倒見もいいなら人気も出るだろう。

 だからこそ学生警察なんてやっているのだろうか?

 そんなことを思っていると、


「ところで慶介、石動さんとはどういう関係なの?」

 どこかいぶかしむように千里が聞いてきた。


「どういうもなにも、石動には財布を拾ってもらっただけだけど」

 まぁ正確にはその上で怪しまれてるんだけど……


「ふぅん……でもじゃあなんで放課後に慶介のことを迎えにくるのよ?」

「それは……」

 その先を言おうとしたら制服のそでを石動に引っ張られた。

 振り向くと石動は小声で、


(すみませんが先輩、これから学生警察ガードにいくことと、わたしが学生警察なのは黙っていてもらえますか。変に意識されたくはないので……)

 そう申し訳なさそうに言ってきた。

 確かにそのとおりだと思ったので俺は軽くうなずいてみせた。


「なに二人でこそこそ喋ってるのよ……」

「いや別に……それよりなんで石動が来たのか、だろ。それはあれだ、財布を拾ったお礼をしようと思って約束してたんだよ……」

「ふぅん、お礼、ねぇ……」

 納得しかねるような視線で千里が俺を見ていると、それまであまり会話に入ってこなかった石動が、


「すみません神谷先輩、今日一日夕霧先輩を貸してもらえないでしょうか?」

 そういっていきなり頭を下げた。

 その行動に千里も驚いてしまったようで、


「あ、頭を上げてよ! 別にいいわよそんなことしなくて! 慶介は別にあたしのってわけじゃないいんだし……!」

 突然の石動の殊勝な態度に千里も面食らってしまっていた。

 ……というより本人の意思を無視して勝手に貸し借りしてんじゃねぇよ。


「ありがとうございます。では申し訳ないのですが先輩をお借りします」

 そう千里にお礼を言い、石動はこちらに戻ってきた。


「先輩、そろそろ行きましょう。あまり遅くなってもいけないので」

「そうだな……」

 確かに少し話し込みすぎていたようだ。教室にはもう俺たちしか残っていなかった。


「じゃあ悪いけど俺たちもういくわ」

「あんた、石動さんに変なことしたら承知しないわよ!」

「……するかよ」

 そんなに信用ねぇのかよ俺……


「あと、あたしのお願いも忘れないでよね……」

「はいはい」

 ったく、財布が戻ってきたんだから買ってもらった昼飯代受けとってくれればいいのに、なんでわざわざ「それはいいからお願いの方聞いて……」とかめんどくさいことすんだよ。まぁ昼飯代浮いたのはラッキーっちゃラッキーだけど。


「そんじゃ遊びに行くのはまた今度だな」

「なんだ大和いたのか」

「いたよ!!」

 全然会話に入ってこないから忘れてた。存在感の薄いやつめ。


「んじゃまたな」

「失礼します」

「じゃあねぇ」

「バイバーイ!」

 そう言って俺と石動は教室を後にした。

 

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