二十六話
部屋にあった椅子に男を置き、何か縛れるものはないかと辺りを探してみたが生憎そのようなものは見つからなかった。
さてどうするかと考え、俺はとりあえず聞いてみることにした。
その辺に落ちていたペットボトルを拾い上げ、素早く後ろを振り向いてそのペットボトル思いっきり部屋の隅に向かって投げた。
「あいたっ!?」
投げたペットボトルは見事、隠れていた奴に命中した。
部屋の隅から出てきたのは、逢と同じくらいの背丈で、肩までありそうな髪をポーニーテールにしている女だった。
ただ変わっているのは、そいつの服装がなんというか……まぁ所謂忍装束? みたいなものだということだ。
「いたた……はっ! あ、あれ? 何が――」
額を抑えながら忍コスの女は状況を把握しようとしてか辺りを見回し、そこで俺と目が合った。
「……あ、あのその、え~と……」
状況を把握したらしたで、今度は俺に見つかったことに動揺しているようだった。
「……えと、いつから気づいていたんですか?」
結局そこに落ち着いた。
「いつからと言われれば……まぁ最初からだが」
俺達がビルの向かいでぐだぐだやっている時にさり気なく気配を消しながらこちらに近づいて来ているのに気づいた。
最初は敵かと思ったが、普通に考えてただの不良にそんな芸当ができるはずもないし、何より何も仕掛けて来なかったの放っておいた。
「そ、そんな……! 最初からなんて……。いままで見つかったことなかったのに……」
忍コスの女は目に見えてショックを受けていた。なんか逆にこっちが悪いことをした気分になる……。
なんて思っていると、そいつは突然真面目な顔をして何ごとかを呟きながら考え始めた。
「……もしかしたらこの人なら……いやでもこんなに早く……でもでもさっきのは……う~ん、ここは試してみるしか――」
「つーかお前なにも――」
「御免――っ!!」
質問しようとした瞬間、そいつは懐から漫画などで忍者がよく使う苦無のような物を取り出し、あろうことかそれをこっちに向かって投げてきた。
「おわっ!?」
俺は思いっきり上体を左に反らして何とかギリギリで苦無を避けた。後ろで苦無が壁に刺さる音が聞こえる。
すぐに投擲者の方を向くと、相手は既に勢い良く床を蹴ってこちらに迫ってきていた。
「――ちっ!」
間近まで接近してきた女は、右手に持った苦無を体勢を崩したこちらの脇腹目掛けて突き出してくる。俺はその右腕を左手で掴んで押し出しながら突っ込んでくる方向と同じ向きに引っ張った。
予想外の力が加わったことにより体勢を崩した女を俺は右腕で相手の左腕ごと抱き込むような形で受け止める。期せずして相手を抱きしめるような形になってしまった。
「――痛っ!」
頭上に掲げる形になっていた相手の右腕を捻って苦無を手放させる。これで一応の脅威は無くなった。
「いきなり何しやがる」
俺は当然の疑問を口にした。相手の返答次第ではこのまま無事に帰すわけにはいかなくなる。
しかしその相手は……
「はわわわわわ!?」
なぜか顔を紅くして動転していた。
「おい聞いてんのか?」
「すすす、すみませんすみませんっ! もうしませんのでお離しくだしゃい!!」
噛み噛みじゃねぇか。
仕方なくそいつを離してやる。またこちらに危害を加えてくる可能性があるので警戒は怠らない。
少しして――女は落ち着いたのか居ずまいを正してこちらに向き直るとそのまま両膝を床に付き、正座するような体勢になったと思いきや――そのまま額が床に付きそうなほど頭を下げた。
次22日3時に投稿します。