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二十三話

「馬場っ!」

 振り向いた馬場は、別れたばかりの俺に再び声をかけられ驚いた表情を見せた。


「どうした? まだ俺に用か?」

「あぁ。少し確認したいことがある」

「確認したいこと?」

「あぁ」

 俺はまず、馬場に話を聞く前に逢に確認した。


「逢、『阿魏斗』のアジトはどこにあるか覚えてるか?」

「エリア1の最端にある使われていないビルです」

 打てば響くように答えが返ってきた。

 だがこれで俺の記憶違いということは無くなった。学生警察(ガード)の情報だと間違いなくアジトはエリア1となる。


「それがどうかしたんですか?」

 俺の質問の意図が分からないのか、逢は首を傾げて聞き返してきた。

 だがその質問に答えるよりも、直接聞いた方が早いだろう。


「馬場、お前は『阿魏斗』の所に行こうとしてたんだよな?」

「? ……そうだが?」

「なら聞きたいんだが……それはどこにある?」

 俺の質問の内容に、横で逢が疑問の表情を浮かべていた。ついさっき自分が答えた質問を再び俺が問うたからだろう。

 だがもし俺の推測が正しければ……


「お前らの言うエリアってのは分からないが、アイツらの居場所はこの先だ」

 そう言って馬場が指差した方向は、学生警察(ガード)の情報にある場所とは正反対の方向だった。






「それは新しくできた拠点だな」

 馬場の言う場所と学生警察(ガード)の情報にある場所との違いを指摘すると馬場はそう言った。


「新しい、とはどういうことですか?」

 すかさず逢が聞き返した。たしかにそこは気になるところだ。


「さっきの話でも少し触れたが、この街にもいくつか俺達のようなグループが存在するんだが、少し前、といっても二ヶ月ほど前だが、『阿魏斗』は別のグループと抗争していた。そのときに相手から奪ったのが、たぶんお前らの情報にある場所だ」

 なるほどな。つまり学生警察(ガード)の情報は新しすぎたのか。


「では、そこに『阿魏斗』の幹部たちは……」

「いないはずだ。いるのは下の連中だけだだろう」

「そんな……」

 馬場の返答に、逢はそれ以上言葉を続けなかった。予想してなかった事態に動揺しているのだろう。

 確かに、もし馬場の話が本当なら、今回の作戦で首謀者を逃がすという致命的なミスが生まれることになる。

 そうなると逃げた奴らがなりふり構わなくなって何をしでかすかわからない。

 問題が起きれば学生警察(ガード)の信用にも関わってくるだろう。

 そうなる前に何か手を打たなければならない。

 幸い此処で事実を知れたのは大きい。今からならまだ何とかできるはずだ。


「逢っ!」

「は、はいっ!」

 俺はいまだ動揺中だった逢を、目を覚まさせる意味も込めて強めに呼んだ。いつまでも動揺したままじゃ困るしな。


「すぐに本部に連絡して今聞いた事実を伝えろ。今ならまだ手を打てるはずだ」

「了解です!」

 そう言って逢はすぐに連絡を取り始めた。






 暫くして、連絡を終えた逢は浮かない表情をしていた。


「どうだった?」

「……現状、すぐに()ける人員がいないそうです」

「人員がいない?」

「はい……。思っていたよりも相手の人数が多いらしく、これ以上本隊から人を回すことはできないと」

 向こうもギリギリってことか。面倒なことになってきたな。


「一応予備隊に応援要請はしたんですが、到着までに時間が掛かるそうです……」

 時間を確認すると、現在十六時二十分。作戦開始までは残り四十分しかない。

 作戦が始まれば誰かしらが幹部に連絡を取るだろう。そうなると逃げられる可能性が出てくる。

 居場所がわかっている今が絶好の機会だっつーのに……

 ふと逢を見ると、連絡をとった後からずっと暗い表情のままだった。現状を自分の責任のように感じてるんだろう。

 生真面目なこいつらしい。

 俺は(おもむろ)に逢に近づき、その頭に手をのせた。


「……先輩?」

 いきなりの俺の行動に逢は疑問の表情を浮かべた。

 俺はそれを無視して、髪をおもいっきりわしゃわしゃと撫で始めた。


「わ、ちょ、先輩!?」

「…………」

「せ、先輩!? いきなりなにす……!?」

「……………………」

「ちょ、や、もうやめ………!?」

「………………………………」

「や、もうい……! いい加減にしてください!!」

ドカッ!


「ぐはっ!!」

 無言で撫で回す俺に抵抗した逢の蹴りが腹部にクリーンヒットして俺はその場に崩れ落ちた。


「あ、逢さん……蹴りは無いんじゃないっすかね……」

「はぁ、はぁ……先輩がいきなり変なことしてくるからじゃないですか!」

 荒い息を吐きながら言ってくる逢はさっきまでの暗い表情じゃなくなっていた。


「やっといつも通りになったか」

「え……?」

 手櫛で髪を整えていた逢は俺の言葉の意味がわからなかったようだ。


「お前、さっきからずっと動揺したり暗くなったりしてたからな」

「あ……」

「ったく、お前は生真面目過ぎんだよ。今回のことだって別にお前が悪いわけじゃねぇんだ。変に責任感じることはねぇよ」

「……はい」

 俺は叱られた子供のように小さくなっている逢に近づき、今度は撫でるのではなく、軽く頭をポンポンと叩いた。

 すると手のしたで逢が笑い始めた。


「ふふ……」

「なに笑ってんだよ」

「いえ……前にもこんなことがあったなと思って」

「そうだったか?」

 確かに思い出してみると出会って最初の頃に似たようなことがあったかもしれない。


「……先輩はたまに頼りがいがあるから困るんですよ」


「あぁ? なんか言ったか?」

 逢が何か言っていたが声が小さくて聞き取れなかった。


「いえ、何でもありません」

 そう言って逢はまた小さく笑った。

 まぁ何でも無いならそれでいいんだが。


「にしても、今が面倒くせぇ状況に変わりはねぇんだけどな」

「そうですね。もう時間もありませんし、救援を待つ以外で何か手を打たないと……」

 俺たちが再び現状に悩んでいると、後ろから声が掛かった。


「あー……イチャついてるとこ悪いがちょっといいか」

「あぁ?」

「べ、別にイチャついてなんかいませんっ!!」

 顔を紅くして否定している逢を無視して馬場は喋り始めた。


「お前らの話を聞く限り、人手が足りないみたいだな」

「……まぁな」

「なら俺にも手伝わせてくれないか」

「それは……まぁこっちとしては有難い申し出だが……」

 だが一般人である馬場を連れていっていいのだろうか。

 ここは俺よりも長く学生警察(ガード)いる逢に聞いてみた方がいいな。


「で、どうなんだ逢?」

「あ、はい。緊急時であれば、本人の申し出があれば民間人の協力を仰ぐことも可能です」

「なら……」

「はい。この申し出、有難く受けましょう」

 その逢の一言で馬場の同行が決定した。




「ということで三人になったわけだが……」

いずれにしろ人手が足りないのは変わりない。

さて、どうするか……


「……馬場、向こうの人数とかわかんねぇか?」

「向こうの? そうだな……確か、俺が最後に見たときは幹部が五人、それに暁斗を入れて六人だったが……。正直いまの正確な人数はわからない」

 六人か……。

 所詮はただの不良の集まり。その程度の人数ならなんとかなるか……

 俺はそう決断した後、携帯を開き電話を掛けた。


『君から連絡してくるなんて珍しいね』

電話口から聴こえてきたのは、子供のような声のわりにやたら尊大なものだった。

そう、俺が電話を掛けた相手は彗華だ。

本部の連絡役を介して伝えるより、直接本人に言った方が早いと思ったからだ。


「能書きはいい。それよりもこっちの現状は把握してるな」

『あぁ……。まさか幹部たちが別の場所に居るとは思わなかったよ』

「こういうことにアクシデントは付き物だ。今はそれをどうするかが問題だろ?」

『そうだな……。だが、先程連絡役にも伝えてもらった通り本隊から人員を割くわけにはいかない。人数もそうだが、何より相手の武装が厚くてね……』

「それについては問題ない。こっちは俺達で何とかする」

『なんとかって……。君と逢君二人でかい? それはいくらなんでも……』

「いや、それともう一人。殊勝な民間人が協力を申し出てくれたんでな。そいつと三人でことに当たる」

『民間人だと? いったい誰なんだそれは?』

「あぁ、それは――」

俺は彗華に馬場との経緯(いきさつ)を手短に話した。


『なるほど、『JOKER』の……。それで? 勝算はあるのか?』

「正直なところ分からん」

『いや分からんて……。本当に大丈夫なのか?』

「まぁなんとかなるだろ。それにいまは悠長なことをいってる暇はねぇだろ」

『確かにな。しかし君……』

 そこで彗華が一度言葉を止めた。


「……なんだよ」

『いや、いつもは何かと面倒くさがってるのに今回はやけにやる気じゃないか』

彗華の声は、電話越しでも面白がってるのが伝わってきた。


「……別にそんなんじゃねぇよ。ただ、今元凶を逃がすとまた捜査だ何だと面倒そうだからな。ここでかたをつけとけば後々面倒じゃなくなるからやるだけだ」

今回の件で警備強化やら何やらでこっちの負担が増えてしょうがない。ここでけりをつけとけばその負担からも解放されるだろう。


「俺は楽をするためなら全力を注ぐ(たち)だからな」

面倒なことはさっさと終わらせるのが俺のポリシーだ。

まぁ面倒なことはしないのが一番なんだがな。最近はそれを許してくれないヤツがいるし……。

俺はちらりと逢を見たあとに小さくため息をついた。


「何ですかいきなり。人の顔を見てため息つくなんて失礼ですよ」

「はいはい」

いちいち細かいヤツだな。


『あー……なるほどね、そういう理由か。納得だよ』

電話越しに彗華が苦笑するのが分かった。


『なんにせよ、そちらのことは君達に任せる。十分注意してことに当たってくれ』

「あぁ。そっちもな」

『分かってるさ。では』

彗華との会話を終えた俺は、二人の方を向いて言った。


「そんじゃいくか」

「おう!」

「はい!」

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