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十五話

「それではこれから模擬戦を始める。ルールは先に相手を地面に倒した方を勝者とする。尚武器の使用、及び倒れた相手への過剰な追撃は禁止とする」

 俺達が頷くのをみて、彗華は離れた。


「悪いが僕は手加減しないぞ。お前みたいなどこの誰とも知れない奴を学生警察で働かせたくはないからな」

 回りに人がいなくなったところで山寺がそう言ってきた。

 やっこさんヤル気満々すよ……

 俺が返事に迷っているうちに試合開始の合図がかかった。


「――ふっ!」

 開始直後に山寺から先制攻撃があった。

 顔面に向けての素早い突き。俺は慌てそれを避け……たと思ったら今度は左からの上段蹴り。俺はそれを右腕と左腕を交差さする感じて受け止めた。


「――っ! ってーなぁ、ちょっとは手加減してくれよ……」


 俺はすでに距離をとっている山寺に愚痴を漏らした。


「ハッ――! フッ!」

 だが俺の言葉にお構い無しに山寺は次々と攻撃を仕掛けてくる。

 俺はそれをギリギリでかわし続けた……






「本当に彼は面白いな」

 私は試合を見ながらつい言葉を漏らした。


「所長にもわかるんすか?」

 右隣で一緒に観戦していた大迫君が私の言葉に反応した。


「あぁ。でも私達以外、何人が『あれ』に気づいているんだろうね」

 少なくとも私の左で心配そうに彼の試合を見つめている少女は気づいてないだろう。


「こんなことなら俺がやればよかったっすよ。俺もあいつと戦ってみたい……」

 そう言って大迫君は悔しそうにしながら試合を観ていた。

 さてこの試合、決着はどうなるか……




「いつまで避けてるつもりだ? 少しは反撃してみせろ」

 そう言いながら、なおも攻撃の手を弛めずに山寺は攻めてきた。

 時々カウンターを狙ってみるもの、それを察知してかその都度距離をとられた。


「そろそろ終わりにしよう」

 そう言ったかと思うと山寺はさっきよりも手数を多く出してきた。

 俺はなんとかそれをかわしていたが、ついにかわしきれなくなり、相手の左からの攻撃を右腕で弾いた。

 だがそのせいでがら空きになった俺の胸元を、山寺の右手が掴んだ。

 そしてそのまま体を滑り込ませ、俺は意図も簡単に投げられた。


「うぉっ!」

 一瞬体が浮いたかと思うと、次の瞬間には俺は地面に叩きつけられていた。


「勝負ありっ! 勝者、山寺貴司!」

 審判の声を聞き、観ていた観客は一斉に声を上げた。

 勝ち誇った顔で倒れている俺を一瞥して舞台から去っていく山寺。

 それと入れ違いに、逢が俺の側に駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか先輩!?」

「まぁ、なんとか……な。ちゃんと受け身とったし」

 心配そうな逢に俺は笑ってそう答えた。


「負けちゃいましたね……」

「そうだな。まぁこれで学生警察に入れなかったら、それはそれでいいんだけどな……ん? でもそうすっとお前これから一人でやることになるのか?」

「……別にわたしはもともと一人でやってたので先輩がいなくても問題ないですよ……」

 俺の言葉に、逢は不機嫌そうな、それでいて少し寂しそうにそう言った。

 

「あっ、でもこれでお前の朝飯が食えなくなるのは惜しいな。お前の飯美味かったし」

 おどけたようにそう言った俺に対して、逢は顔を横に反らしながら、


「……別に朝食位作りに行ってあげますよ」

 紅くなってる顔を隠すように、反らした顔を俯けてそう言った。


「それに朝もちゃんと起こしに行ってあげます。家も近いし、どうせ同じ学校なんですから。先輩はほっとくとすぐだらしなくなりそうですし……」

「はは、そいつはありがてぇな。できれば起こしに来る時間をもう少し遅くしてもらえるともっと有り難いが」

 俺は冗談ぽくそう答えた。




 試合を終えた山寺君はそのまま私の所にきた。


「所長、やはり彼は使えないですよ。僕に一撃も与えることができなかった。それどころか殆ど防戦一方だ」

 彼は呆れたように私にそう言った。


「これじゃあいざってときに何もできないでやられてしまうのが落ちですよ」

 肩を竦めて笑っている山寺君に対し、言葉を返したのは私ではなかった。


「お前、本当にそう思ってるのか……?」

「真治、お前も観てただろう? 彼は僕の攻撃をかわすだけで、殆ど反撃もできなかったんだぞ?」

 諭すように言った山寺君に対し、大迫君は真面目な口調で言った。


「そこだよ、そこ。あいつはお前の攻撃を殆どかわして(・・・・)たんだぞ? 防ぐんじゃなくかわす……一体どんだけの動体視力だよ。それに防いでたのだって最小限かわしきれなかった攻撃だけだ」

「だからなんだって言うんだ? 偶々動体視力が良くて、僕の攻撃をかわせていただけじゃないか。結果的には僕に投げられて負けたじゃないか」

 そう苛立ったように言った山寺君に対して、大迫君が決定的なことを口にするのを、私は黙って聞いていた。 


「お前は気づいてないかもしれないが、あいつは試合が始まってからお前に投げられるまで、その場を一歩も動いて・・・・・・無かったんだぞ?」

「――――!?」

 それを聞いて、流石に山寺君も驚きで言葉を発せなかった。

 そう、彼は試合が始まってからずっと、その場を動かずに山寺君の攻撃をかわしていたのだ。


「これでもまだ彼が入るのに反対か?」

 私の問いに山寺君は何も答えなかった。ただ振り向いて、さっきまで自分と戦っていた男を見つめていた。

 私もそれ以上は何も言わず、同じように彼がいる方を見た。

 そこには冗談を言って逢君に怒られている彼がいた……


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