十四話
午後の授業も終わり、放課後になった。
何事も無く学校が終わり……いや、何事も無くは無かったな。
休み時間などに廊下を歩く度に吉岡を始め、幾人かの男子生徒に敵意がこもった視線を向けられたり、舌打ちされたりした。
恐らく、逢に少なからず好意を寄せている奴らだろう。
特に実質的な危害を加えられたわけではないが、正直ウザい。
だがいちいち相手にするのも面倒だ。まぁほっときゃその内おさまるだろ。
俺はそう前向きに思うことにした。
校門の前に行くと、すでに逢の姿があった。今日は昨日と違いスムーズに合流することができた。
だが会っていきなり逢に確認をとられた。
「先輩、忘れ物は?」
「ない」
「トイレは?」
「済ませた」
「では行きましょう」
昨日の事があるので今日は絶対に遅刻しまいと思っているのだろう。
遠足の日に家を出る前の小学生に聞くような確認をされてから俺達は学生警察に向かった。
逢が心配するような事態は起きず、俺達は遅刻せずに学生警察に着いた。
ついてすぐに俺達は会議室のような場所に行かされた。
部屋を覗くと、そこには彗華と真治の姿が見えた。そして二人の他にも十数人の人間がこの部屋に集まっていた。
部屋を覗いていると俺達が来たのに彗華が気づいた。
「今日は遅刻せずに来たようだね」
そう言って彗華が近づいてきた。
「まぁな」
「お疲れ様です所長」
それぞれ言葉を交わした所で俺は彗華に質問した。
「それで? なんだってこんな所に集まってんだ?」
しかもこんなに大人数。いまから何かやるのか?
「実はこれから、昨日できなかった君の紹介をしようと思ってね」
あ~そういやそんな話もあったな。俺達が遅刻してできなかったんだっけな。
彗華に促されるまま、俺達は皆の集まる場所に連れていかれた。
「よう、昨日ぶり」
「あぁ」
皆の前に来たところで、ほとんどが初対面の中で唯一俺のことを知っている真治が真っ先に話しかけてきた。
「君達は知り合いだったのかい?」
俺と真治のやり取りをみて彗華が少し驚いたように聞いてきた。
「昨日報告に来たときに偶々ここで会ったんすよ」
真治の答えに「そうだったのか」と納得して、彗華は改めて皆に向き直り、俺の紹介を始めた。
「知っている者も要るかも知れないが、彼が新しくこの学生警察に入ることになった夕霧慶介君だ。これから君達と一緒に働いてもらうこともあるかと思う。そのときは色々と教えてやってくれ」
そう言って彗華が続きを俺に促そうとしたときに所員の一人が「待った」をかけた。
「なんだい山寺君?」
「失礼ですが所長、本当に彼に学生警察の仕事が勤まるんですか?」
そう言って彗華に質問をしたのは、見るからに生真面目そうな感じの男だった。
着ている制服は、確か朝美市内でも上位の学力を誇る名門高のものだ。
そんな奴も学生警察で働いてるのかと俺が感心している間も話は進んでいた。
「僕にはどうもそうは思えないのですが?」
山寺と呼ばれた男はチラリと俺の方をみて小馬鹿にしたようにそう言った。
なんだこいつ失礼な奴だな。
「君の心配もわかるが、私は彼なら大丈夫だと思っている」
そう言って彗華は何ら根拠の無い信頼をよせてきた。
だがそんな言葉では納得できないといった感じの山寺は、とても面倒臭いことを言ってきた。
「でしたら所長。彼と少し手合わせしてみてもいいですか? せめて彼がどの程度できるのかを確かめてみたい」
それに対して彗華は――
「ふむ、まだ少し時間はあるか……よし、いいだろう、面白そうだから許可する」
俺に確認もなく勝手に許可をだした。
「おい、勝手に決めんなよ」
しかも面白そうて……やる本人からしてみたら全然面白くねぇよ。
「まぁそういうな。彼は少し真面目すぎるところがあってね。試験も無しにいきなり入ってきた君に納得できないものがあるんだろう」
「別に俺としてはここに入らなくてもいいんだけどな……」
入りたくて入ったわけじゃねぇし。
「それは困るね、私は君に期待してるんだから」
彗華は笑いながらそう言った。
「それに、君がいなくなると寂しがってしまいそうな子もいるしね」
そう言って彗華は意味深な笑みを浮かべて逢を見た。
「? なんですか?」
話に参加していなかった逢は、突然向けられた視線に意味がわからないといった表情を返した。
俺達は学生警察内にあるトレーニングルームに移動した。
部屋には様々なトレーニング器具があり、部屋の中央には試合用のスペースまである。まるで何処かのスポーツジムみたいだ。
「なんだってこんなことしなきゃなんねぇんだよ……」
俺はフェイスガードを付けながら不満を漏らした。
「気をつけてください。山寺さんは学生警察内でも相当の実力者です。なんでも柔道、空手、剣道の経験者らしいです」
確かに見た目にもひ弱そうという感じではなかったが、まさかあいつも格闘技経験者だったのか。
頭も良くて、おまけに格闘技もやってるとか何もんだよ。
「彼はとある資産家の息子でね、護身術の一環として格闘技を習わされてたみたいだよ」
俺の心の疑問に答えたのは彗華だった。
「中でも柔道の腕は相当のものだ。中学生の頃住んでいた県の大会で準優勝をしているほどにね」
「そいつは凄いな」
そしてそんな奴の相手をするのはやっぱり面倒臭い……
「先輩、本当に気をつけてくださいね……」
心配そうに見てくる逢に俺は笑いながら言った。
「そんな心配すんな。ま、適当にやってくるわ」
「……先輩、少しくらい緊張感を持ってください」
逢の心配が呆れに変わったところで彗華からお呼びがかかった。