十二話
次の日。現在午前七時である。なんでこんな朝早くに起きてるかって?
そんなのこいつに聞いてくれ!
「なに、なんなの!? なんか俺に恨みでもあるわけ?」
俺は玄関先に立つ逢に向かって想いのたけをぶつけていた。
「てか昨日よりはえぇし! ただでさえ昨日は早かったのに、今日は更に三十分も早いんですけど! なにお前、もしかして「早起きは三文の徳」とかマジで信じてんの? あんなの迷信ですから! 早起きしたところで徳とかねぇから! もしたとえそれが本当だとしても三文とか現在の貨幣価値で80円分にしかならないから! 80円(笑)てなんだよ、パンも買えねぇよ! 朝飯にすらならねぇよ!」
俺は息切れを起こしながら、それでも言いたいことを全て伝えきった。
この俺の熱い思いを受けとった逢は果たしてどんな返答をしてくるのか……
「上がっていいですか?」
「……………………」
「……………………」
「…………どうぞ」
………………………………………………。
「それで? 結局お前何しにきたわけ?」
俺は不機嫌さを隠すことなく、改めて逢に質問した。どうせまた遅刻がどうとか言う話だろう。
そう思っていたが、逢の返答は全くの予想外なものだった。
「今日は朝食を作りにきました」
…………はい? 朝食?
「なんでまた急に?」
「昨日は先輩、朝食を食べていかなかったので。だから今日はしっかり食べていってもらおうと思いまして。朝食は大事ですからね」
確かに昨日は食う時間無かったけど。
「あとついでなのでわたしの分もここで作って食べてしまおうと思って。どうせならまとめて作った方が早いので」
こいつ何気にちゃっかりしてるな……。
でも作ってくれると言うなら喜んで頂こう。あえて拒否する理由も無いしな。
「あ~まぁ、そういうことならよろしく頼む」
「わかりました。では私は朝食の準備をするんで先輩はその間に支度を済ませてください」
そう言って逢はキッチンへ行き、持っていた手提げ袋からエプロンと材料を取りだして準備を始めた。少し様子を見ていたがなかなか手慣れているようなので、これなら変なものは出てこないだろう。
その姿を見て後は任せても大丈夫だろうと思い、俺は自分の準備を始めた。
俺が支度を終えるのと逢の料理が完成したのはほぼ同時だった。
机の上には逢が作った料理が並んでいる。白米(これは昨日炊いてあったもの)、ベーコンエッグ、わかめと豆腐の味噌汁、ほうれん草の和え物、レタスとトマトのサラダ、そしてデザートにヨーグルトが置いてある。
朝食としては充分に豪勢だ。
「簡単なものしか作れませんでしたが……」
「いやいや充分。この街に来てからこんな朝食食ったことねぇよ」
朝はいつもコンビニのパンとかだからな。
「因みに俺には主人公習性(不味いものを美味いと言って食べたりするアレ)は入ってないからな。感想は正直に言うぞ」
「なんでそこで偉そうなんですか。でも多分味の方も大丈夫だと思いますよ。味見はしましたから」
逢は自信を持ってそう言ってきた。
まぁぶっちゃけ俺は大抵のもんは食えるけどな。
昔は野草はもちろん、蛙や蛇、虫なんかも食っていたことがある。 そうしなければ生きていけなかったからだ。
っとまぁ、いまはそんなことはどうでもいいか。折角作ってもらったんだ、冷める前に頂くとしよう。
「じゃあ早速頂くか」
俺は机に並べられた朝食に手をつけた。
自信満々に言っていた逢ではあるが、それでもどこか緊張した感じが漂ってる。
そんな中、俺は一口目を食べた……
「……どう、ですか?」
そう聞いてきた逢に俺は……
「…………………美味い」
「えっ?」
「普通に美味いよこれ!」
そう言って俺は次々に食べていった。
ベーコンエッグは固すぎず柔らかすぎず、しかも黄身の部分は半熟で俺好み。味噌汁も薄すぎず濃すぎずの絶妙なもの。ほうれん草の和え物には梅干しが入っていて今まで食べたことのない味。サラダも特製のドレッシングがかかっているらしくサッパリしていてとても美味い。
「いやマジで美味いなこれ!」
「そうですか、喜んでもらえてよかったです」
逢はそう嬉しそうに言って、自分の分の朝食を食べ始めた。
朝起こされたのはアレだったが、こんな美味いものを食べれたんなら起こされるのも悪くないな。三文以上の徳をした気分だ。