十一話
俺達が学生警察に着いたのは学校が終わってから一時間が経っていた。
「やぁ、遅かったじゃないか」
昨日と同じく所長室に通された俺達を待っていたのは、こちらも昨日と同じく偉そうな小さい所長が待っていた。
「なにかトラブルでもあったのかい?」
何気ない彗華の質問に逢いは申し訳なさそうに答えた。
「いえ、その……トラブルとかじゃなくてですね、えーとその、来る途中に夕霧先輩がトイレに行きたいと言い出して……」
「トイレ?」
予想外の答えだったのか彗華はわけがわからないといった感じで聞き返してきた。
「いや~あん時はマジでヤバかったわ。急に便意が襲ってきたのに加えて回りにコンビニとか公衆便所がないっていう最高に危険な状況でさぁ。さすがに俺も『不味い!』と思って、こうなりゃその辺でしちまうかっていう決断を下そうかと思ったら逢が近くの民家に掛け合ってくれて、まぁ一命をとり遂げたっていう大冒険があったんだよ」
あと三分遅かったら確実に漏らしてたな。若干「コンニチハ」してたし……
「あ~それは……大変だったみたいだね……」
「はい……」
一番大変だったの俺だけどねっ!
………………。
「それでは夕霧くん、今日から仕事に入ってもらう。今日やってもらうのは街の見回りだ。といっても難しいことはなにもない。放課後になると学校から解放された学生たちが羽目を外し過ぎてしまうことなどがある。そういう人達を注意して回るのが今回の仕事だ」
「具体的にはどんなのだ?」
「そうだね……例えば公共の場で大人数でたむろしていたり騒いだりしている者、強引なナンパをしてる者、遅くまで遊んでいる者、あとは一昨日君が会ったような不良集団などもたまに出てくるのでそういった者の補導等だな」
うぇ~意外に多いな……
「それを俺達二人だけで見て回るのか?」
俺の問いに答えたのは彗華ではなく逢だった。
「いえ、二人で見て回るにはこの街は広すぎます。他の所員とエリアを分担して見て回るんです」
「なるほどね」
朝美市は東京都と埼玉県の境にある街をいくつか合併させた街だ。とてもじゃないが二人でなんて回れないだろう。
「本部のあるこの地区は四つのエリアに分担されています。他の地区にもそれぞれ学生警察の支部があり、地区ごとにエリアを分担して見回りをおこなっているんです。時々そっちの方にも臨時で行く場合もあります」
「学生警察ってここだけじゃなかったのか」
始めて知ったな、一年も住んでるのに……
「それで今日君たちに担当してもらうのはエリア2、朝美駅から南朝美駅方面の範囲だ。見回るルートは君たちで決めてくれ」
「わかりました」
「そういや他のエリアの担当の奴らはいないのか?」
ここにいるのは俺と逢だけ。他のエリアの担当の奴らの姿はいない。
「他の者はすでに見回りに行っているよ。本当は君の紹介もしたかったんだが……」
「先輩がトイレに行ってたせいで遅れたんじゃないですか……」
あ~そういやそうだったな。
てかその前に吉岡とのこともあったしな。
「まぁ紹介は後日改めてするとしよう。それじゃあ二人とも、よろしく頼むよ」
「了解です」
「へ~い」
そういって俺達は初仕事に向かった。あ、初は俺だけか……
「なぁ、どの辺を見て回ればいいんだ?」
「そうですね……基本的には駅前やコンビニ、ゲームセンター等の娯楽施設。後は公園等人が多く集まる場所を見て、その後他の場所を見て回ります。見回りはこれの往復です」
「えっ? 往復すんの?」
「はい。一度見た所でもその後に問題が発生する場合もあるので、時間内はずっと往復です」
ちょっ――最高にダルいんですけど……
安請け合いするんじゃなかったな……
その後俺達は、朝美駅から南朝美周辺、その他を見て回り、そこを幾度も往復した。
特に問題らしい問題も起きず、正直俺は飽きていた。
「アアァァアァァァアアァァァァァァア……」
「…………」
「アアァァアァアッアァァァァァアッアァアアァァ……」
「…………」
「アッアァァァァァアア゛ッゲホッゲホッ! あー……」
むせちゃった……
「もう先輩! さっきからあーあーあーあーうるさいですよ!」
「だってよぅ~ひまなんだよぅ~」
「なんですかその気持ち悪いしゃべり方……もう、ちゃんとやってください」
そう言って逢はまた歩き出してしまった。そのあとを俺は足取り重くついていく。
冷たい奴だなぁ。
「そろそろ休憩にしましょう」
何度目かの往復で再び朝美駅まで戻ってきたところで逢がそう言った。
「終わりじゃなくて休憩なのか……」
かれこれ三時間以上歩き回っている。いい加減帰りたいんだが……
そんな俺の苦悩を知ってか知らずか――知ってても無視しただろうけど――休憩場所に向かっていった。
俺達が向かったのは駅前のファーストフード店(ハンバーガー)だ。
俺はハンバーガーとチーズバーガーとテリヤキバーガーにアップルパイとドリンクにコーラを頼んだ。因みに逢はチーズバーガーのセットを頼のんでいた。
二人で店の奥のボックス席に座り、俺はすぐに包みを開けて食べ出した。
「先輩頼みすぎじゃないですか……」
「そりゃこんだけ歩き回れば腹も空くに決まってんだろ」
「それはそうですけど……でもそんなにカロリーの高いもの食べると太りますよ?」
「大丈夫大丈夫、俺太りにく体質だから」
そう言った俺に逢はジトっとした目を向けてきた。
「……先輩は女性の敵ですね」
「はぁ?」
「女の子は色々努力してるってことです」
努力、ねぇ……そういや前に千里もダイエットとか言って一時期野菜ばっか食ってた時期があったな。
「じゃあお前もダイエットとかしてんの?」
「わたしは食が細い方なのであまりそういうのはしませんけど、それでも気を抜いて甘いもの等を食べるとやっぱりちょっと……」
「ふぅん。そんなもんか、ご苦労なこって」
食いもんにまでいちいち気を使わなきゃなんねぇなんて、女ってのは色々面倒だな。
その後しばらく二人無言で食事を取っていたが、ずっと無言というのも味気ないので俺は何か適当に話題を振ってみた。
「そういやお前はいつからこの街にいるんだ? その上学生警察になんかも入って」
「いきなりですね……」
「暇だったんでな」
「暇つぶしですか……まぁ別にいいですけど。特に面白くもないですよ?」
「構わない。聞かせてくれ」
俺がそう言うと、逢は昔を思い出すように少し考えたあと、「少し長くなりますが」と言ってから自分のことについて話し始めた。
「わたしは中学生の頃からこの街に住んでいます。わたしがこの街に来たのは親の転勤が理由でした」
「親の転勤が?」
「はい。わたしが小学六年生のときに急に父の転勤が決まったんです。それが日本国内での転勤ならよかったんですが、父の仕事の関係上海外に行かなければならなかったんです」
「それはまた急だな」
「母と、あと一人、ひとつ下の妹がいるのですが、その二人は父の転勤に特に異論はなかったんです。むしろ妹は海外ということにとても喜んでいました」
「それはまたアグレッシブな妹で」
「わたしも妹にはいつも振り回されていました。ですがそんな妹とは反対に、わたしは外国というのにとても抵抗がありました。いままで暮らしていた場所とはまるで違う、親しい友達もいない、言葉も通じない場所……多分怖かったんだと思います」
確かに、いきなりそんな場所に行けと言われればそう思うのも普通だろう。ましてはまだ小学生。逆にそれで喜んでいた妹が凄いと思う。
「なのでわたしは、両親に日本に残らせて欲しいと頼みました。自分ひとりの我侭だとは分かっていましたが、そのときのわたしはどうしても外国というものへの恐怖を捨てられませんでした。ですが当然両親は反対しました。親として、娘一人を残しておくことはできないと。わたしも両親が心配しているというのは分かっていました。そこでわたしはここ、朝美市のことを両親に話しました。ここなら周りはほとんど同年代の人たちばかりで、かつ寮や学生マンションもあるので何も心配は要らないと。その話をした後も両親はしばらく渋りましたが、わたしがどうしてもと頼み込んだ末に、寮で暮らすことを前提にやっと許可してくれました」
「ん? でもお前、今は寮じゃないよな?」
「それは中学から高校に上がる際に両親に言って移ったんです。この歳にもなれば大抵のことはひとりでできるようになるので」
まぁ確かにな。それにこいつはその辺のやつよりしっかりしてそうだし。
「話を戻しますが、そんなわけでわたしは日本に残ることになりました。わたしが卒業して寮に入るまでまでまだ二ヶ月ほど残っていたので、海外へは父と妹だけが先に行くことになり、母はわたしのためにもうしばらく日本に残ることになりました。妹は海外にいく最後の日までわたしも一緒にと言っていましたが、なんとかそれをなだめて納得してもらいました。そのあとは何事もなく、無事に小学校を卒業してわたしはこの街に来ました。始めのうちは寮での生活に戸惑うこともありましたが、それでも海外へいくことに比べたら全然ましでした。周りもみんな同い年の子ばかりでしたし。それからは何の問題もなくこの街での生活を送りました」
まぁ寮暮らしなんてある意味修学旅行の延長線上みたいな感じだしな、不安もあれど楽しさもあるだろう。
「……ですが、二年生の後半頃です。この時期になると、みんな自分の目指す進路が明確になってきて、それに向かって色々と準備を始めていきました。ですがわたしには、その目指すべき進路が分からなかったんです。周りのほとんどは、何か目標があってこの街に来ている人たちばかりでした。でもわたしにはそんなものはありませんでした。海外に行きたくない……ただそれだけの理由でわたしはこの街に来ました。そんなわたしには、始めから目標なんてなかったんです……。でも、そんな時でした……友人の一人から、近々学生警察の採用試験があるというのを聞いたんです。学生警察については当時から知っていました。その採用試験が難しいというのも。ですが目標の無かったわたしはそれを受けてみようと思いました。学生警察に入れば、わたしの探しているものが見つかるかもしれないと、そう思ったんです」
「ひとつ聞きたいんだが、学生警察に入るための試験ってのはどんなのなんだ? 」
よく難しいというのは聞くが、それがどれほどのものか俺は知らない。
「そういえば先輩は試験は受けてないんでしたね。えーとですね、学生警察の試験は学校で行うような学力を見るような試験ではありません。なんと言いますか……そうですね、所謂心理テストやIQテスト?みたいなものなんです。なので事前に対策をとるということもできません。それ故に学生警察の採用試験は難しいと言われているんです」
なるほどね。要は内面の適性検査みたいなものか。確かにある意味難しいといえるな。
「試しに俺も受けてみてぇな、その試験。それで基準値を下回る結果だったら辞められそうだし」
「入ってそうそう何を言ってるんですか。学生警察に入りたいっていう人は多いんですよ? そんなこと言ってるとその人たちに恨まれますよ」
俺は入りたくて入ったんじゃねぇんよ……
「それに先輩の場合は所長が直々に選んだ人なので、そう簡単には辞められないと思いますよ」
「…………」
その時の俺の表情はまさに、『絶望』という表現がぴったりだっただろう。
「……あの、先輩? 大丈夫ですか?」
「…………構わない。話を続けてくれ」
「はぁ……。 ――その後、わたしはすぐに試験を受けました。結果はご覧の通りです。わたしは無事試験に受かり、学生警察として活動することになりました。学生警察としての仕事は充実していました。いままでなんとなく過ごしていた日々とは考えられないくらいに。確かに、この街を守る学生警察の仕事は大変なことや辛いこともたくさんありますが、それ以上にこの仕事にやりがいを感じています」
「そりゃよかったじゃねぇか。それで? いまはもうその目標ってやつは見つかったのか?」
俺がそう聞くと、「いえ……」と言って逢は少し悲しそうな顔で俯いた。
「確かに学生警察の仕事にはやりがいを感じています。ですが、それでもまだわたしには、目標――目指すべき道ははっきりとは見つかっていません。いまは――そうですね、目標を見つけるのが目標、といった感じですね」
苦笑しつつ逢はそう言った。
「まぁそういうのは焦って探すようなもんでもないしな。ゆっくり見つけていけばいいんじゃないか?」
「そうですね、わたしもそうしていこうと思っています」
そこまで話した後にふと時計を確認すると、ずいぶんと時間が経っていた。
大分長く話していたみたいだ。
「ずいぶんと長く話してしまいましたね。すみません、わたしの話を長々と……」
「いや、もともと話してくれと頼んだのは俺だからな。それになかなかいい話を聞けたよ」
「そうですか、ですがやっぱり自分の話と言うのは恥ずかしいですね」
そう言った逢は今更になって恥ずかしくなったのか少し顔を赤らめていた。
「先輩、そろそろ休憩終わりですし、見回りの続きに行きましょうか」
「あ~また延々と歩き回るのか……」
「ほら、文句言ってないでさっさと行きますよ」
俺は逢に背中を押されながら店の外に出た。
外はもうすっかり夜の帳が降りていた……。
歩き出してすぐ、逢が振り向いて俺に聞いてきた。
「さっきの話の続きと言うわけではありませんが、先輩には何か目標みたいなものはありますか?」
「俺か? 俺は――」
立ち止まり、俺は考えてみた。
目標、か。確かに昔はあったかもしれない。でも、それもあの時――
「先輩……?」
突然黙り込んでしまった俺を不振に思ったのか、逢が声をかけてきた。
「あぁ、わりぃ。なんでもねぇよ。……そうだな、俺もいまはまだ目標みたいのはないな」
ただ日々を怠惰に過ごしている。何も考えず、何も行動しないで……
いつかそれも変わる日が来るのだろうか?
「先輩もそうですか……なら、わたしと一緒にさがしませんか?」
「お前と一緒に?」
いきなりの申し出に、俺は思わず聞き返してしまった。
「はい。こうして先輩と出会って一緒に仕事をすることになったのも何かの縁です。なら、そういうのも良いと思いませんか?」
こいつと一緒に、か。まぁそれも悪くない提案かもしれないな。
「それに、先輩はだらしないところが多いのでわたしがちゃんと引っ張っていってあげますよ」
「――はは」
俺は逢の言葉に思わず笑ってしまった。
「? わたし、何かおかしなこと言いましたか?」
「いや、別にそういうわけじゃないんだが……」
俺は込み上げてくる笑いを押さえつつ言った。
「なんかちょっと告白みたいだなと思ってな」
しかも逢が男側での、だ。
「なっ――!? べ、別にそういう意味で言ったんじゃありません! 変なふうに捉えないでください!!」
俺の言葉に、逢は顔赤くして怒りながら反論した。
ちょっとからかっただけなんだがな……
「悪い悪い、冗談だよ」
「まったく先輩は……やっぱりわたしがしっかりと面倒見ないといけないみたいですね」
逢がそう決意を新たにしていた。
後輩に面倒を見られる先輩ってのもどうなんだろうな。
……普通に情けないな。
けど、それもまぁいいか。
このしっかりした後輩がいれば、変わる日が来るのもそう遠くないかもしれないな。
「先輩! いつまでも立ち止まってないでいきますよ!」
こんな感じで止まるの許してくれないしな。
「あーはいはい。いまいきますよ……」
でもやっぱり面倒くせぇな……
あの後俺達は、また同じように見回りを続けた。
現在午後九時過ぎ。
逢いわく、この時間帯が一番重要らしい。遅くまで出歩いてる学生を注意して回るのは勿論、柄のよくない連中が活発になるのもこの時間らしい。
確かに俺が遭遇したのもこのくらいの時間だった。
だが幸い、今日はそういった奴らの姿は見かけず、俺達は遅くまで遊んでいる学生に注意するだけで終わった。
学生警察に戻ってきたのは十時半を回った頃だった。
「あ~つかれたぁ~」
学生警察の入り口にある待ち合い用の椅子に座り俺はそう口にした。
肉体的にはそんなに疲れてはいなかったがなんとなくそう言っときたかった。
仕事をした後はその日の活動報告をしなくてはならないらしいが、それはすでに報告済みだ(逢が)。
「お疲れ様です先輩」
報告を終えて戻ってきた逢がそう言って冷えた缶のお茶を差し出してきた。
「悪いな」
差し出された缶を受け取り、プルタブを開けた一口飲んだ。
逢も俺の隣に座り同じようにお茶を飲んでいた。
一息ついたところで逢が話しかけてきた。
「今日は何事もなくて良かったですね」
「ん? あぁ、まぁな」
結局殆ど街を歩き回っただけになっちまったけど。
「でも無きゃ無いでそれはまた暇だったな」
「街が平和なのは良いことだとじゃないですか」
「まぁな……」
でもこれだったら俺、要らないと思うんだが。
「それでも毎日が今日みたいに平和なわけじゃないですからね」
「そりゃそうだろ。人と人とが共に生きていくなかでは色んな感情が混じり合うからな。そこには必ずしも良心や好意だけがあるわけじゃない。同じように怒りや悲しみ、恨みや妬みといった悪意も存在する。そんな感情を持つ人間が大勢集まれば、やっぱりそこには色んな問題が起きるんだろうさ」
俺は特に変なことを言ったつもりはなかったのだが、話を聞いていた逢は驚いた顔をして目を瞬かせていた。
「なんだよ」
「先輩が難しいことを言ってるのが意外で……」
……………………。
「……お前俺のこと馬鹿にし過ぎじゃね」
「いえそんなつもりじゃ――!」
「はぁ……別にいいけどな」
そんな話をしていると入口の自動扉が開いた。
入ってきたのは知らない短髪の男子学生だった。
だが逢の方はその男を知っているらしく、立ち上がって挨拶していた。
「お疲れ様です大迫さん」
「おぉ石動か~お疲れさん!」
いつも通りの平坦な逢に対し、こちらはやけにフランクな対応だった。
とそこで、大迫と呼ばれた奴が逢の隣で座っている俺に気づいた。
「あれ? もしかしてそいつが新しく入った奴?」
「あ、そうです。先輩、こちらは学生警察で一緒に働いている大迫真治さんです。大迫さん、こっちが新しく入った夕霧慶介さんです」
逢の紹介を受けた真治は俺の前までやってきた。
「大迫真治だよろしく頼むぜ」
そう言って右手を差し出してきた。
「あぁ、こっちこそ」
俺も立ち上がり真治と握手を交わした。
「慶介だっけ? この間の不良倒したのってお前なんだろう? なかなかやるじゃねぇか」
「あれはたまたまだ」
「またまた謙遜しちゃって。一応俺は荒事担当なんだ。腕には自身がある、是非一度手合わせ願いたいな」
そう言われて改めて真治を見てみると、確かに大柄ではないが引き締まった体つきをしていて、動きにも目立つ隙は見当たらない。多分何か格闘技をやっているんだろう。
「遠慮しとく。痛いのは御免だ」
そう言って俺は肩を竦めてみせた。
「はは、まぁ仲良くしようぜ」
真治の方も特に気を悪くしたふうもなく、快活に笑った。
「そういや今日はなんか事件あったか?」
「俺達の方は特に無いな。そっちは」
真治も今日は見回りで、俺達とは別のエリア1、丁度俺達とは逆の朝美駅から北のエリアだったらしい。
「俺の方は、路上で喧嘩してる学生を止めに入ったのが一件あるくらいだ」
喧嘩の仲裁か。そんなのも学生警察の仕事なのか。
「んじゃ俺はそろそろ事務に今日の報告してくるわ。またな二人とも」
「あぁ」
「お疲れ様でした」
そう言って真治は中に行ってしまった。
悪い奴じゃなかったな。まぁちょっと好戦的ではあったが。
真治もいなくなり、ロビーにはまた俺たち二人にだけになった。
「……俺達も帰るか」
「そうですね」
そう言葉を交わし俺達は帰路についた。