九話
現国、数学、生物と授業を終え、昼休みまで残すところ後一現。四現目は体育だった。
「次の体育ってなにやんだ?」
「確か短距離のタイム測定じゃなかったか?」
そんなことをクラスメイトが話していた。
「慶介、タイム測定だってよ! 腕、もとい脚がなるな!」
大和は以外に脚が速い。確か去年は学年五位以内に入っていたはずだ。特に部活などをやっているわけではないらしいが。まぁこんな奴でも一つくらい取り柄があるもんだな。
ちなみに俺はいつも中盤くらいの順位だ。全力でやれば大和には負けないと思うが、面倒なのでこういうときはいつも適度に手を抜いている。それに走るのって疲れるじゃん?
「早くいこうぜ慶介!」
「あぁ」
俺たちはジャージに着替えてグラウンドに出た。
体育の授業は二クラス合同でやる。測定はそれぞれのクラスから出席番号順に一名ずつ走ってタイムを測る。俺の名字は『ゆ』なので当分先だ。その間はグラウンドでサッカーをするらしい。
といってもボールを追いかけているのはサッカー部か、やる気のある生徒だけで、大半はその場に立って談笑したりしているだけだ。
俺もその大半と同じく、端の方でボールを目で追っていた。(大和は張りきってボールを追っている)
時折こっちに転がってくるボールを適当に蹴り返したりしている内に、俺の測定の番がきた。
一緒に走る奴は、短髪の爽やか系で、美形ではないが傍目にはカッコいい部類に入るだろう(俺のがカッコいいけど)奴で、いかにもスポーツしてますって感じの印象だ。でも隣のクラスなので正直よく知らない。
だが向こうは何故か俺のことを睨んでいた。
「おいお前!」
睨んでいた生徒、えーと名前は……吉岡(ジャージに書いてあった)が話しかけてきた。
「あぁ?」
「お前、今朝石動逢と一緒に歩いていた奴だな?」
「ん? あぁ」
「お前には絶対負けない!!」
「…………」
…………………………………………………………………………さいですか。
まぁ結果、俺は案の定負けました。もともと勝負する気もなかったけど。
走り終わった後、吉岡がメッチャ勝ち誇った顔でこっちを見ていたので、俺もお返しに満面の笑みを返してあげた。
あとで大和に聞いたら、なんでも吉岡は野球部のエースらしく、女子にも結構人気がある奴らしい。そんな奴が逢にねぇ。面倒な奴に絡まれたもんだ。
全員の測定を終え、時間も頃合いになったところで授業が終わった。
「とっとと着替えて一緒に飯買いにいこうぜ!」
今回もなかなかのタイムだったらしい大和は上機嫌だ。
「俺チキンカツサンドと玉子サンドに烏龍茶な」
「一緒にって言ってんじゃん!!」
上機嫌だった(過去形)。
今日の昼は大和と二人で食べていた。千里は他の女子と食べている。千里は交友関係が広いので、こういうことは多々ある。
「にしても、男二人で向き合って飯食うとかすっげー虚しいよな……」
どうやら大和は不服なようだ。まぁ確かに花がないのは確かだ。
「じゃあ女でも誘ってこいよ」
「誘えるような子がいたら、お前とこうして飯なんか食ってねぇよ!」
「おぉう……」
大和の剣幕に若干引いてしまった。
「なぁ慶介~逢ちゃん誘ってこいよ」
「めんどいからやだ。それにあいつだって教室で友達と食ってんだろ」
「それもそうだなぁ~」
大和は希望を無くして項垂れてしまった。
そんなとき、昨日と同じようにまたもクラスメイトに呼ばれた。
「夕霧~また後輩来てるぞ~!」
その声に大和は勢いよく起き上がった。
「逢ちゃんか? また逢ちゃんなのか!?」
大和は嫉妬と羨望の混じった目でこっちを見て言ってくる。
「さぁな。とりあえずいってくる」
俺は声をかけてくれた奴に軽く礼を言ってから廊下にでた。
案の定そこにいたのは逢だった。
「あ、先輩」
「なんか用事か?」
「はい、今日のことで」
今日? あ~そういや今日も学生警察に行くんだっけな。めんど……
「それで放課後のことなんですが、一緒に行こうと思いまして」
「デートの誘いか」
「違います」
有無を言わせない鋭い視線で返されました。冗談の通じない奴だ。
「それで? どこで待ってればいいんだ?」
「そうですね……じゃあ校門の前でお願いします」
話はそれだけだっようで、「では」と言って去っていこうとしていた逢を俺は呼び止めた。
「はい?」
「あ~その……お前、一緒に飯食わない?」
大和の為に一応声をかけておいたが、どうせ断られるだろうと思っていた。だが俺の予想に反して、意外にも逢は戸惑いつつも「いいですけど」という肯定の返事をしてきた。
かくして俺たちは三人で昼飯を食うことになった。
ちなみに大和は泣いて感謝していたので、明日の昼飯を奢って貰う約束を取り付けた。