八話
ピンポーン♪
「……」
ピンポーン♪
「…………」
ピンポーン、ピンポーン♪
「………………」
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン♪
「……………………」
ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポーン♪
「だぁもううるせぇ!!」
人が折角気持ちよく寝てんのに誰だってんだよったく。
俺は仕方なく起き上がって、文句でも言ってやろうと思い玄関の扉を開けた。
「しつけぇんだよっ! 朝っぱらから舐めたまねしてっと全裸で縛って表で吊るすぞオラァ!!」
とりあえず第一声で脅しをかけてみた。
フッ、この俺の恐ろしさにびびってこれでちったー静かになるだろ。
などと軽く悦に浸っていると、
「先輩、朝からセクハラですか……」
そこには、僕らのクールビューティー石動逢さんが無表情で立っていました……
「で? お前朝っぱらから何しにきたわけ? まさか人の安眠を妨害するのが趣味な特殊な人間なのか?」
俺は不機嫌さを隠すことなく逢にいった。俺の安眠を奪うとは、まったく無礼な奴だ。
「なに馬鹿なこと言ってるんですか? そんな趣味あるわけ無いじゃないですか。わたしはただ先輩が遅刻しないように迎えに来ただけですよ」
「…………」
今日ほど他人の好意がウザいと思ったことはなかった。
ったく朝から余計なことしてくれやがって。
まぁ実際遅刻は多いんだけどな。
「つーかまだ七時半じゃねぇか。学校まで十分もかかんねぇんだから、あと三十分くらい寝てても問題ねぇよ」
俺の家から学校までは徒歩十分ほどの距離しかない。なのでいつもはもっとギリギリまで寝ているのだ。寝過ごすことも多々あるけど……
「ダメですよそんなの、遅刻ギリギリじゃないですか。 先輩も今日から学生警察なんですから、もう少ししっかりしてください」
「あぁ~そういやそうだったな……」
厄介なもんにされちまったなぁ。別になりたくてなったわけじゃねぇのに……
はぁ……やだなぁ~面倒くさいなぁ~
「やだなぁ~面倒くさいなぁ~」
「先輩……」
「おっと、つい心の声が……」
「はぁ……もう早く行く準備してください……」
「へいへい」
俺は逢にせかされながら準備をして、学校に向かった。
俺たちは学校への通学路を歩いていた。いつもと違う時間に通う道はなんか新鮮な感じだ。一人で歩いてる奴、友達と談笑しながら歩いてる奴、恋人同士で歩いてる奴や自転車で通学してる奴……
「この時間は人が多いな。いつもの時間なら数人、もしくは誰もいないなんてこともあるからな」
まさに学生、って感じの見晴らしだ。
「それは先輩がいつもギリギリに登校してるからですよ」
「俺は常にギリギリの緊張感を感じながら生きていたいんだよ」
「それで遅刻してたら意味無いじゃないですか……」
あきれた声でそう言われた。ごもっともで。
そのあと、とりとめの無い話をしながから歩いていて俺は気づいたことがあった。
「……なんか妙に俺たち視られてないか?」
学校に近づいて人が増えるにつれ、視線も増えてきている気がする。
チラチラとこっちを見ている奴や凝視してる奴、こっちを見ながらこそこそ話してる奴等などがいて、明らかに目立っている。
「そう言われてみればそうですね……。先輩がこの時間に登校してるのが珍しいんじゃないですか?」
「いやいや、普段そんなに俺のこと意識しながら登校してる奴なんていないだろ……」
……いやまてよ。「イケメンである俺が、こんな人の多い時間に歩いているから目立っているのかもしれない」確かにそう考えれば納得のいく話で……
「それはないですね」
「心を読むなよ、失礼な奴だな」
「いや、普通に声に出してますから……」
「おっと失敬」
本音が漏れてしまっていたようだ。
ふむ。だがその可能性が無いとするなら他には……。
などと考えていると、
「おぉい慶介ッ!! これはいったいどういうことだぁ!!」
そう叫びながら、大和がこちらに向かってやってきていた。
「朝っぱらからうるさいぞ大和。近所迷惑だ、消え失せろ」
「ひどっ! ってそんなことはどうでもいい!!」
どうでもいいのか……
だが大和は本当にどうでもいいのか、構わず言葉を続けた。
「お前、逢ちゃんと一緒に登校とは一体どういう了見だ!!」
なんてことを叫びなから言ってきた。
「どういうもなにも、別に好きで一緒に登校してるわけじゃねぇよ。ただこいつが朝、勝手に迎えに来たから……」
「迎えにきただとぉ!! なんだその羨まし過ぎる展開は!! 慶介、テメェ……!」
「なにを熱くなってんだお前は……」
朝から元気な奴だなぁ。若干うざったいけど……
「お前、朝からこんな可愛い娘が迎えにきて一緒に登校なんて……羨ましい以外の何物でもねぇだろ! 俺だって、俺だって……」
そう言って大和は泣き始めた。喜怒哀楽の激しい奴だ。見ていて飽きはしないけど。だが大和はどうでもいいが、その話に納得いくものがあった。
さっきからの注目を浴びるような視線。あれはそういうことだったのだ。
理由がわかると実にくだらないことだ。
ようは一年の中でも人気のある逢が、よくわからない男と一緒に歩いていたってのが原因のようだ。 確かによく観察してみると、こちらに視線を向けているのは大半が男子生徒だった。
「あの、結局どういうことなんですか?」
こいつ案外鈍いなぁ~。
まぁこいつ自身、あまり自分が人気があるという自覚がないのも結果として伴っているようだ。
「先輩?」
黙っている俺を訝しんで再度声をかけてきた。
「いや、なんでもねぇよ。とっとといこうぜ」
そう言って俺は学校への道を歩き出した。
「え、え?」
自分たちが視られていた理由がわからず、しかも泣き崩れている大和を残して歩き始めてしまった俺とを交互にみて、混乱しつつも結局逢は俺の後を追ってきた。
まぁ理由を説明したところでどうにかなるわけでもないしね。わからないならわからないでもいいだろう。
「はぁ……朝から面倒くせぇなぁ」
奇異な視線を浴びながら俺たちは学校へ向かった。
「俺を置いてかないでくれぇ~!」
………………。
あれから、視線の雨に晒されながらも学校へとたどり着いた。
逢とは昇降口で別れ、俺と大和は自分たちの教室へと向かった。
「それにしてもさぁ、なんで逢ちゃんが慶介のこと迎えにきたんだよ?」
ここで、俺が学生警察に入って、しかも逢とコンビを組んだせいだとは言わない方がいいだろう。一応逢には、俺たちが学生警察だということはあまり公言しないように言われてるしな。
「たまたま家が近所だったらくてな。しかも昨日、俺が遅刻が多いって話をしたからそれでだと思うぞ」
「家が近所だとぉ!? かぁ~羨ましいなこの野郎! 一緒に住まわせてください!!」
「断る」
こいつと一緒に住むなんてうるさくて堪らん。
そんな馬鹿な会話をしてる間に教室に着いた。いつもより早い時間にきたせいか、教室にはまだ半分ほどの生徒しかいない。
教室に入ってすぐに、大和は近くにいたクラスメイトと談笑し始めたので、俺はそのまま自分の席へといき、机に突っ伏した。
「あれ慶介? 今日は早いじゃない、珍しいこともあるもんね」
そう言って先に登校していたであろう千里が俺の側にやってきた。
「まぁな、そういう日もある」
俺は顔を起こし千里に向き直る。
「そういや今日の一現てなんだ?」
「確か現国よ」
「そりゃまた朝から眠くなるような授業なこって」
俺は早速、一現は寝ようと決め込んだ。
「そ、そういえばさぁ、昨日はどうだったの?」
「昨日?」
「ほら、放課後石動さんと帰ったじゃない? だから、あのあとどうなったのかなぁ、なんて……」
そのことか。どうなったもなにも、ねぇ? クソ面倒くさいことに巻き込まれましたが。
だが正直に言う訳にもいかず、俺は適当に誤魔化しておくことにした。
「まぁこれといってなにも無かったな」
ホントはメッチャあったけどね!!
「そ、そうなんだ……ふぅん」
千里は一人で納得していた。
「でもこいつ、今日逢ちゃんと一緒に登校してきやがったんだぜ」
いつの間にかこちらにきていた大和が突然会話に入ってきた。余計なこと言いやがって……
「ち、ちょっと! いまの本当なの!? 石動さんと一緒に登校したって……」
「しかも朝迎えにまできたらしいし」
「大和、お前もう黙れ」
こいつ朝のこと根にもってやがるな……
「ちょっと慶介! 聞いてるの!!」
はぁ……朝から面倒くせぇことばっかだなぁ……。俺今日何回面倒くさいって言ったっけ? まぁいいや、数えんのも面倒くせぇし。
授業始まる前からどっと疲れたな、精神的に……帰りてぇ……
ギャーギャー騒いでる千里と大和をよそに、俺は切にそう願った……