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一話

 



 助けてといわれた。 


 だから彼女を助けた。


 そして俺は悪になった。









    



「あ、やべ……」

 俺は夜飯を食おうと冷蔵庫を開けた。だが中はものの見事に空だった。学校の帰りに買出しに行こうと思っていたのをすっかり忘れていた。


 

「はぁ……。しかたねぇ、コンビニでもいくか」

 財布をポケットにしまいながら、俺は外に出た。



 外に出ると空気の冷たさに体が少し強張る。春とはいえ、この時間帯はまだ肌寒い。俺は上にTシャツとパーカー、下はジーンズという格好だった。


(上にもう一枚着てくるんだったな)

 かといって、また家へ上着を取りに戻るのも面倒だ。

 仕方なく寒さに肌を震わせながら、少し足早に夜の街を歩き出した。



「…………」

 夜の街は静かだ。時間はもう少しで午後九時になる。この時間帯は人通りが少ない。

 普通ならばこの時間でも、仕事帰りの会社員やOL、そんな彼らを呼び込む客引きなどがいて、少なからず賑わいをみせているはずだ。

 

 だがこの街は違う。


 ここ朝美市あさみしは人口の大半が学生という特殊な街だ。

子供の自立心を高め、将来性のある人間を育成するという目的で国が作ったもので、ここに住む学生のほとんどは一人暮らし、あるいは学生寮に住んでいる。

 朝美市はいくつかの市を合併させた街でかなり大きい。その理由は、この街に様々な学校を設置する為だ。

 たとえば医療、看護、美容、ファッション、デザイナー、美術、料理、製菓、工学、建築、IT、スポーツ、音楽、俳優や声優……etc

 もちろん一般の学校も存在する。

 俺、夕霧慶介ゆうぎりけいすけは一般の高校に通う普通の学生だ。将来、特になりたいものもなく、やりたいこともない。とりあえず高校には行っておこうと思ったくらいだ。

 俺のように一般の学校に通う奴は意外に多い。普通の学校に行き、時間をかけて自分のやりたいことを探していく、っといった感じだ。


 まぁそんなことはどうでもいいんだが、そういったわけでこの街には学生が多い。

 学校も終わり、放課後に部活や友達と遊びに行ったりしていた奴らもほとんどが帰宅している。翌日も学校があるため、わざわざこの時間に外に出る奴もほとんどいない。

 そのため、この時間外に残っているのはごく少数だ。



 そんな中、俺は駅前のコンビニに行くために近道である裏道を通ろうとしていた。普段からよく使う道だ。いままでここで事件があったり、不良がたまったりなどと言うことは無かったのだが――今日は違った。


 突然、前から数人の男たちがあわてた様子で走ってきていた。


「……なんだ?」

 いきなりのことに驚いていると、


「待ちなさい!」

 と、女の子らしき声が聞こえた。

 よく見てみると、男たちの後ろから、一人の少女が走ってきていた。どうやら男たちは、あの少女から逃げているらしい。

 そんな状況を観察していると、前方の男の一人が俺の存在に気づいた。


「おい、そこのお前!」

「……あぁ?」

 いきなり男に叫ばれ困惑していると、


「悪いがお前を使わせてもらう!」

 そう言って男が近づいてきたかと思うと、そのまま俺の背後に回り、抱きつくような形で俺の動きを封じてきた。


「なんだよお前ら? ていうかいきなり抱きつくなよ、気持ち悪いだろ」

 いきなりのことだったのでとりあえず不満を述べてみた。


「ハァハァ……あぁ? なにざけたこと言ってんだ、こいつが見えねぇのか?」

 いや息荒いよ、気持ち悪いよ、しかも耳もとで喋んなし。

 などと思いつつ、男の右手を見てみると、そこにはナイフが握られていた。

 それに俺がなにか言おうとするよりも早く、男が追ってきていた少女に叫んだ。


「動くな! こいつがどうなってもいいのか?」

 言われ、俺の存在に気づいた少女の動きが止まる。


「くっ……! ここにきて一般人まで巻き込むなんて!!」

 少女が苦々しげな表情を浮かべていた。

いやいや何だよこのドラマとか映画であるベタベタなシーンみたいな状況は……。


「へへ。さっきはよくも邪魔してくれたな。こんな時間まで学生警察ガードの連中はご苦労なこった。おかげでこっちはやりにくいったらねぇぜ……」


 それを聞いて俺は納得した。

(なるほどな。こいつらを追ってた少女は『学生警察ガード』だったのか。)


 この街には『学生警察ガード』と呼ばれる組織がある。学生警察は学生で構成されていて、この街で起こる学生による犯罪などの阻止、あるいは学生から依頼のあった問題を解決したりしている。いわば、警察のようなものだ。

 学生警察に入るには難しい試験をクリアしなきゃいけないらしく、誰でも入れるわけではないと聞いたことがある。

 学生警察に入ると、進学や就職の際に有利になったり、有料施設を一部無料で使用できたりといった特権があるとかないとか。


 ――そういった組織がある一方で、反対によからぬことをする奴らもいるわけで――


「おい! あの女が動けないように手足縛っとけ!」

 俺を後ろから抱きしめ、もとい拘束していた男が指示を出す。


「下手に抵抗するなよ? すればこいつが怪我するぜ」

 男たちのうち二人が少女の元に行き、手足を縛っていく。


 まぁこんな感じでこいつらみたいな悪質な不良連中も少なからず存在する。


 少女は男たちを睨み付けながらも、俺の存在があるためにおとなしくしていた。

 それを見ながら俺は……


(はぁ……ついてねぇな。飯はねぇわ、男に抱きつかれるわ、ナイフでおどされるわ、そのせいで見ず知らずの奴が危険になるわ……。ったく、なんだっつーんだよ)

 そんなことを考えつつ、俺は冷静に回りの状況を観察していく。

 男たちの数は五人、うち二人は少女の元に、それと俺にナイフを突きつけてるリーダーっぽい奴。後の二人はその後ろに控えている。

 男たちの注意はいま、俺から外れている。


(しかたねぇ……やるか)

 そう思い、俺は行動に出た。


「せーのっ!」

 俺は勢いをつけて後ろの男の顔に向かっておもいっきり頭突きをした。


「へぶぅ!!」

 男の手が緩んだ隙に、体の向きを変え突き飛ばす。男は鼻を押さえながらうずくまった。


「てめぇ、なにやってんだっ!!」

 後ろに控えてた二人が怒鳴りながらこちらにやってくる。

 すかさず姿勢を低くし、そのうちの一人の鳩尾に拳を叩き込んだ。


「ぐぇっ!」

 一人がその場に崩れる。


(二人め)


「おらぁ!」

 もう一人が殴りかかってくる。


(大振りすぎだな)

 俺は上半身を反らすだけでそれをかわし、同じように鳩尾に叩き込む。


「がぁっ!?」

 殴りかかってきた勢いも加わり男の身体がくの字になりながら倒れる。

 とそこで、こちらの様子に気づいた残りの二人が走ってくる。

 いま倒した奴をこちらに向かってくる男の一人に投げつけ、それを受け止めている隙に顔面を殴り付ける。


(四人め)


「あ、えっ?」

 残りの一人は、自分以外がやられているこの状況に動揺し動きが止まっていたので、素早く近づき同じように腹部に拳を叩き込み昏倒させる。


(終わり、か)

 そう思った瞬間……


「あっ!」

 という少女の声が聞こえ、振り返ると。最初に頭突きをした男が起き上がっていた。


「てめぇ……! なめた真似してくれてんじゃねぇか! 覚悟はできてんだろうな!」

「いや、そんな逆ギレされても。先にナイフ突きつけてきたのお前じゃん」

「うるせぇ! そんなのしるかぁ!!」

 男は余計に怒ってしまった。


「なんで挑発するようなこと言うんですか!」

「いやだって事実じゃん」

 え、なに? 俺が悪いみたいになってんだけど……

 少女の理不尽な問いに答えていると……


「無視してんじゃねぇ!!」

 男が怒鳴りながらこちらに向かってくる。


「はぁ……ったく。ほんとにめんどくせぇ。悪いが、さっさと終わらせてもらうぞ」

 俺は相手を迎え撃つため構える。


「うらぁ――!!」

 男がナイフを突きだしてくる。

 俺はそれを難なくかわし、その手をはたき、ナイフを落とす。


(所詮素人だな。動きが単調すぎるぜ)

 すかさず顔面に拳を叩き込む。


「これで終わりだ!」

「ぶべっ!」


 男は派手に吹っ飛んでいき、今度こそ起き上がってくることはなかった。



「はぁ、かったるかった」

 俺は脱力しながら少女の元へ行き手足の拘束を解いてやる。


「あなた、いったいなんなんですか?」

「なにって?」

「普通の人がこんな人数相手にして勝てるわけないじゃないですか」

 そのことか。まいったな、どう誤魔化そうか……。


「あ~ほら、あれだ。あいつら油断してたし、運が良かったんだよ」

「運だけでどうにかなるような状況じゃなかったと思いますけど」

「じゃああれだ、俺学校で空手部入ってるからそこそこ強くてさ」

「『じゃあ』ってなんですか、『じゃあ』って!? それにもしそれが本当だとしても、刃物を持った相手に平然と向かっていけるとは思えません!」

「あれはほら、無我夢中でそれどころじゃなくて……」

「……いまいち納得しかねるんですが」

(しつこいなぁ。細かいことをぐちぐちと)

 そんなことを思いながら、俺は少女の拘束を解いてやる。そのままこれ以上追求される前に俺がその場を去ろうとすると……。


「待ってください! まだ貴方には聞きたいことが……!」

 少女の制止の声が聞こえたが……


「わりぃ、俺晩飯買いに行かないといけないから。じゃ!」

 そう言って俺はそのままそそくさと逃げ出した。


「ちょ、ちょっとなんなんですかそれ!!」

 そう言って少女は一瞬、俺を追おうか迷っていたが、不良たちを放ってをくこともできず、迷ってるうちに俺はその場を逃げた。


     


「はぁ……酷いめにあったぜ。ったくこっちは面倒ごとは御免だってのに」

 そう文句を言いながら俺はコンビニの中を歩いていた。

 あの後裏道を出てから俺は、本来の目的である晩飯を買いに来ていた。


「とりあえずさっさと飯買って帰るかな」

 俺は晩飯に弁当と明日の朝飯用にパンを持ってレジに向かった。



「合計616円です」

 女性の店員に言われポケットから財布をだそうと手を入れたのだが、そこにあるはずの感触が無い……


「……あれ?」

 あわててほかの場所も探ってみるが、やはり見つからない。


「…………」

「…………」

 無言の状態が続き、俺は……


「……テヘッ♪」

 とりあえず照れ笑い。

 すると店員さんも

「ニコ♪」

 笑顔を返してくれた。かと思いきや、そのまま商品を持ってレジから出ていきすべて棚に戻していく。


 そしてまたレジまで戻ってくると、笑顔のまま俺に向かって、


「ありがとうございましたぁ」

「えっ……?」

「ありがとうございましたぁ」

「あの……」

「ありがとうございましたぁ」

「…………」

「ニコニコ♪」

「……またきます」

 そういい俺はコンビニを後にした……。今日はホントについてない

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