プロローグ 10年後の昨日
昨日の話をしよう。
季節は秋。
高校生としての最後の秋を迎えた俺を待ちうけるのは大学受験である。
授業が終わり、受験生らしく図書室で参考書とにらめっこをしていた俺が帰路につく頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
バスを降りて、まっすぐ家へと歩を進める。
やがて見えてくるアーチ型の看板の下をくぐり、商店街へと入った。
薄暗くて活気もなく、ほとんどの店がシャッターを下ろし、まるで歯が抜けた大きな口のようになっている。
これでも昔は人もたくさんいて賑わっていたものだ。
しかし、駅の反対側に大型デパートができてからというもの、ここは寂れていく一方だった。
冷たい風が寂れた商店街を吹き抜けていく。
さすがにこの時間になると冷える。
俺は背中を押されるようにして足を速めた。
「ちょっとそこのお兄さんや」
!?
不意に後ろから声をかけられ一瞬背筋がピンと伸びる。
振り返るとそこには腰をくの字に曲げたお婆さんが立っていた。
こんなことを言ってはなんだが、周りの景色と見事に相まって相当に不気味だ。
「な、なんでしょう・・・?」
平静を装い返答する。
「・・・貴方は自分の人生をやり直したいと思ってらっしゃる」
はい?
全く予想していなかったセリフに自分が何を言われたのか理解するのに時間がかかった。
かかったが・・・怪しい、怪しすぎる。
このお婆さんには関わらない方がいい、俺の出した結論はこの1択だった。
「すいません、急いでるんで」
そう言って軽く頭を下げ、足早にその場を後にした。
その夜、布団に入った俺はお婆さんに言われたことを思い出していた。
『・・・貴方は自分の人生をやり直したいと思ってらっしゃる』
たしかに、人間生きていれば重要な選択を迫られる場面に幾度となく遭遇する。
もちろんいつも正しい道を選択できるというわけではなく、時にはその選択を後悔してしまうこともあるだろう。
俺だってそうだ。
例えば今、同じく受験生をやっている人の中には少なからずいるかもしれない。
こんなことならもう少し真面目に勉強しておけばよかった・・・とか。
そんなことを考えながら眠りに着く。
それがつい昨日の出来事、そう思っていた。