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世界平和を願ったら魔王になった  作者: 夜一


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4.望むモノ



「ハデス……何度も言うが、直前の連絡は事前連絡とは言わない」


「ごめんね? 許して、ユーくん」


 あれからハデスはよく世界樹に来るようになった。

本当に、ふざけてるのかと思う程によく来る。

 事前連絡もほぼ無しと言えるレベルで、酷い時には『これから行くね』という連絡が届いて一分も経たず現れた。

どんなに直前でも必ず連絡を寄越すのは、律儀なのか何なのか。


「あなたはいつになったらユグドラシル様への無礼な言動を改めるのですか……! 分不相応にも神の名を名乗っておきながらその体たらく! いい加減になさいまし!」


 世界樹ダンジョンの魔王役を務めてくれているユグレインの怒声が、今日も元気に鼓膜を攻撃してくる。

 ハデスが出入りするようになってから、なぜか各ダンジョンの魔王達に心配されるようになり、魔王代表としてユグレインが側に付くことが増えた。

ダンジョンの1000階層まで遊びに来るのが俺しかいないので、抜け出しても特に問題はないとやたら力説された結果である。


「そっちこそ、ユーくんと同じ由来の名を持ちながら、その下品な騒がしさはどうかと思うなぁ。君よりユーくんの方が強いんだから自己満足の護衛ごっこは止めて、いつもみたいに引きこもってた方が建設的なんじゃない? どうせダンジョンでも植物使ってユーくんのストーカーしてるくせに」


「ユ、ユグドラシル様、違いますからね! わたくしはただ御身の無事を祈り日々見守っているだけです! そんなぽっと出の男の言葉など信用なさいませんわよね?」


 なぜかこの二人はものすごく仲が悪い。

ユグレインはキンキンと怒鳴り始めるし、ハデスは無駄に挑発を始める。

 溜息を吐き出して二人に視線を向けた。


「二人とも落ち着け。なぜいつも喧嘩する」


 ハデスが小首を傾げて上目遣いで見つめてくる。

ユグレインはしゅんと項垂れて「申し訳ありません」と言いながら眉を下げた。


「ごめんユーくん……怒った?」


「別に怒ってはいない」


「よかった、ありがとう!」


 俺の腕にしがみついてきたハデスをユグレインが引き剝がそうとする。


「そのわざとらしく可愛い子ぶる仕草が気色悪くて仕方ありませんわ! さっさとユグドラシル様から離れなさい!」


 ぐぎぎと腕を引っ張られながら、ぼんやりと思考に逃避する。

二人の仲の悪さと同じくらい、わざとぶりっ子ムーブをするハデスも謎だ。


 まさか俺のことが好きなのか、それともユグレインを好きでいじめたくなるアレか。

そう疑って気にかけて見てみても、どちらにも恋愛感情はないように思う。

恋愛特有の甘酸っぱい熱情は一切感じないのだ。


「ダンジョンであんなに楽し気にモンスターを脅しておいて……多少可愛い子ぶったところで悍ましい凶悪さは隠せませんわよ!」


 モンスターを脅す……?

脅した手法と目的が気になるところだが、なるほど、と一人納得する。

魔王達がハデスとの接触を心配していたのは、ダンジョンで彼の恐ろしさを目撃したせいなのかもしれない。


「ユーくん、違うんだよ。君のモンスター達を不必要にいじめたわけじゃないんだ。ただ効率的にダンジョンを攻略するのに必要だったから……」


 ハデスは俺の腕にしがみついたまま瞳をうるうるさせた。

 ユグレインに責められて多少の罪悪感を抱いたのかもしれないが、ダンジョンで倒すためにモンスターを生み出している自分には何も言えないし、正直魔王以外のモンスターにはそこまで愛着を持てていない。


 大丈夫だという思いを込めてハデスの頭を撫でてやれば、安心したように表情が緩んだ。

 まるで親に甘えるかのようにくっつき、兄に甘えるかのように頼ってくる。……まぁ、俺より一つ年上の二十歳らしいが。

成人した男のくせに可愛い子ぶっても見苦しくない容姿は少し羨ましい気もする。


 ハデスは出会って間もない俺に家族にも似た安心感を抱き、甘えられる居場所を求めているのだろうか。

そんな唯一の居場所でくつろぐことを邪魔してくるユグレインに反発して意地悪してしまう。

今のところはそんな解釈がしっくりくる気がするので、ひとまず好きなだけ甘えさせてあげればいいだろうと答えを出す。


「ハデス、一緒にここに住むか?」


 思考をいきなり口に出してしまった。

 勢いよく顔を上げた二人の目が丸くなっている。

ハデスは「えっ」と声を漏らし、ユグレインは「は!?」と混乱していた。


「悪い、唐突すぎたな。以前、寝床がない日があると言ってただろう。スキルですぐにハデス用の部屋も作れるし、もし住みたくなったらいつでもここに来い」


 泣き出しそうな顔で、ハデスは少し俯いた。


「本当に、いいの……?」


「ああ」


「もし……今日から住みたいって言ったら?」


「構わない。部屋の大きさや内装に希望はあるか?」


 ふるふると首を振ったハデスは、声を震わせながら「ありがとう」と呟いた。


「コエ、そういうわけで用意を頼む」


《すでに完了しました。そちらの扉からハデス様の部屋に移動可能です》


「仕事が早いな」


 コエが誇らしげに胸を張っているような気がする。

 早速新しい部屋を見に行くと、俺の部屋を少しだけ小さくしたような空間が出来上がっていた。俺の部屋は無駄に広いので、これでも十分すぎる広さだろう。

 驚きと喜びに浸っているようなハデスの表情を見て、兄弟を可愛がる人間の気持ちが少しわかった。


「今日から好きに使え」


「うん、ありがとう。……僕、部屋に置く物いろいろ取ってくる!」


 ハデスは珍しくはしゃぐように走って飛び出して行った。

 あいつは人を殺してでも欲しい物を奪ってきそうだが大丈夫だろうか。

冥王と呼ばれるほどに暴れていながら、今まで植物達にも他の人間にも殺されずにいるハデスは、おそらく面倒で迷惑な人間だ。


 その場に残ったユグレインは、それはそれは複雑そうな顔をしていて思わず苦笑する。


「これからはハデスもお前たちと同じく俺の家族だ。無理に仲良くしなくてもいいが、受け入れてくれると嬉しい」


「ユグドラシル様のお願いですもの。もちろんですわ……」


 大人しく頷いてくれたのは、きっとハデスの泣きそうな顔を見たからだろう。

やはり俺の魔王達は皆いい子だ。

気持ちのままにユグレインの頭を撫でてやると、嬉しそうに頬を染めて微笑んだ。



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