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みずがめ座流星群

作者: 天野幸道
掲載日:2026/04/10

別の小学校から中学に来た天本、友達がおらず部活も入らず図書委員になる。クラスで不登校の吉村に延滞の督促状を届けるが、吉村は大きな古い農家に弟と二人で住んでいた。その家は昔吉村の祖父が子供たちの学習の場所に提供していた所だった。父親はおらず母親は祖母の介護をしているという。やがて仲良くなった二人は流星群を見る計画を立てる。2026年季刊抒情文芸春季号入選作です。選者は直木賞作家出久根達郎氏です。

挿絵(By みてみん)

「これ延滞本です。」

「督促状を書かなきゃ。」

 三年生の委員長、高木さんが言った。

「吉村由香、一年三組。あら天本君と同じクラスじゃない。」

「はい、そうみたいです。」

「じゃあこれ督促状、渡しといてね。」

て無理なんだけど。一応担任の先生に話しておこう。

「先生、吉村さんが図書を延滞しています。」

「ああ、それ君持って行ってくれないかな?家近いでしょ?」

 こうなると分かっていたんだ。担任の山口先生は、二十代の女性の先生で、あまり学級のことはかまってくれない。バスケの顧問で部活をしている子には、親切なのに。

 吉村さんってあまり顔を覚えていない。僕は、中学になってこちらに来たのだもの。

「吉村さんに届けるよう、先生に頼まれたんだけど。家知ってる?」

「ええ、分かんないよ。」

「最近あまり学校に来てないしなあ。」

 入学してまだ間もない、みんな違う小学校から来ているから、クラス全員のことなど分からないのだろう。

 住所は聞いた、ネットで調べたら確かにそんなに遠くもない。でも僕の家もそうだけど町の中心部からはずれている。

 小学校六年生の時引っ越しが決まった。

「なんで転校するの?」

「しょうがないじゃないか、社宅は二年間しかいられないのだから。」

 せっかく仲良くなれたのに、また新しい学校か。卒業まで半年間だけバス通学した。中学から、誰も知り合いがいない学校生活だ。

 幸い意地悪な子もいないし、学校も荒れていなかったから、それはいい。

「天本君は本が好きだね。」

 部活はかったるいから、図書委員なら楽かと思って決めた。本を読むのは、ゲームをやってるような感覚で読んでいるだけだ。

 ここらあたりか、なんか周りに家が少ないし、すぐ側に大きな川が流れている。磯田225って番地、でもこの辺り住居表示がないじゃん。早く見つけて帰りたい。

 工場と川との間の空き地の角に一軒の家。

表札に吉村、ここかあ。古民家って感じだ。昔なら結構いい家だ、きっと農家だったのだろう。

 声かけようかな、恥ずかしい。それにもしも意地悪な子だったら気分悪いし、郵便受けにでも入れておこう。でもどこにあるんだ?

 門の奥の方を覗いていた。

「なんか用?」

「うわー!」

 思わず声を上げた。いきなり後ろから声をかけられると焦る。

「そんなに驚かないでよ。もしかして天本くん?」

 これが吉村さんか。なんで僕の名前覚えているんだ。

「そうですけど、あっごめん、あの今日はその図書の。」

「ああ、ごめんごめん、忘れてた。天本くん図書委員だったね。」

 なんでそんなことまで知ってんだ。

「まあここじゃなんだし、入んなよ。」

「でもそれは悪いし。」

「大丈夫よ、取って食いはしないわよ。」

 取って食うって、この子テレパシーでもあるのか、悪い子ではなさそうだけど。

「まあお茶くらい出してあげるよ。」

家の中はこざっぱりとしていた。きれいに掃除が行き届いている。

「座んなよ。」

 なんかこういうの苦手だ。、

「動物植物図鑑、忘れてたわ。弟にせがまれて借りてたんだよね。」

「弟いるの?」

「お姉ちゃん、誰か来たの?」

 奥の部屋から五,六歳くらいの男の子が出てきた。

「うん、クラスの天本くんだよ。」

「お姉ちゃんの仲良しさんなの?」

 なんてこった、それは違うよ。

「そうねえ、わざわざ届け物してくれたからそうなのかな。」

 同い年なのにずいぶん大人対応だ。

「あのそろそろ僕、帰んなきゃなんだ。」

「ごめごめん、人に会うの久しぶりだったから、つい話し込んじゃった。」

 それにしても親とかは由香が学校に行ってないこと知ってるのかなあ。でもそんなこと聞けない、会ったばかりだし。

「じゃあね、今日はホントにありがとね。」

 由香は玄関で見送ってくれた。

「また来てねえ。」

弟も手を振っている。由香の家から僕の家まで十五分くらいだった。

「あら、今日は遅かったのね。また図書委員のお仕事?」

お母さんは、部活に入ってないのならもっと勉強しなさい、って言いたいのだ。

「お休みの子に届け物をしてただけ。」

 お母さんは、それなりに親せきが優秀なものだから、僕や兄に期待しすぎている。

「いとこの雅史くんは、難関校の大山高校受かったのよ。T大進学率上位の高校よ。」

 僕は普通の子だ、普通に生きたいんだ。

 高校三年生の兄は、いとこの入った高校に落ちてなにくそと思っているのか、ともかく受験一筋。そのストレスのはけ口なのか影ではずいぶんやんちゃだ。夜中にこっそり外出するわ、とっかえひっかえ彼女を作るわ、でも親は気がついてない、要領がいいのだ。

 翌日少し遅れて学校に到着したら、クラスが少しにぎやかだ。何人かの生徒が固まって話している。

「ねえ、ほんと久しぶりよね。」

「何してたん?」

 そちらの方に顔を向けると、見かけない子がいる、誰だろう。その子は僕の方を見るとニコッとして、手を振った。

「やあ、おはよう。」

 誰だろう?

「昨日は届け物ありがとね。」

 由香だった、制服を着ると別人みたいだ。

「あら、由香は天本くん知ってるのね。」

「うん、昨日届け物してくれたんだ。」

 由香は元々人気がある子なのだろう、久しぶりなのにみんなから声かけられている。

 放課後、今日は図書委員の当番じゃないから早く帰ろう。でも家に帰ると勉強しろと言われるし、あまり早く帰りたくない。僕は要領が悪いから、いつも小言を言われる。

 校門を出たら、誰か駆けて来る音がした。

「よお。」

 肩を叩かれ後ろを見たら由香だ、

「天本君、家こっちなんだ。」

「はあ、そうだけど。」

「へえ、うちと同じ方向じゃん、一緒に帰ろうよ。」

 女の子と帰るのって小学校以来だ。あの時は同じクラスの良子ちゃん、かわいい子だったが由香は普通の感じ、でも嫌味はない。

「ねえ、天本くんって前どこの小学校だったの?この地域の小学校じゃないよね。」

「同じ市内の、本丸小学校だよ。」

「そうなの、私のおばあちゃんの家そっち方面だよ。中町なんだ。」

「中町、ああぼくは上町だったよ。」

 なんか少し安心した、ってなんで話してんだよ。

「へえ偶然だね、これもなんかの縁だね。」

 顔がこわばりそうになった、女の子に興味はあるけれど、なんというかドラマに出てきそうな、可愛いくて清楚な子と仲良くなりたい、とか思っていたから何も言い返せない。

「ねえ天本くんて、本好きだよね。」

「そうでもないけど。」

「どんな本好きなの?」

「別に、特にないけど。」

「古い本とか好きかなあ?」

「古い本?」

「おじいちゃんの本だよ。明治とか大正とか昭和とか古いやつ。それからお父さんの本、結構図鑑が多いけどね。」 

 図書準備室にある、古い本を読むのは結構好きだ。古い活字の形が、なんか宝物を見つけたような気にさせる。

「へえ、すごいんだね。」

「見に来る?」

 そのまま家まで連れて行かれた。

「天本くん、いらっしゃい。」

弟も僕のこと覚えている。

「裕太、今日は天本くんにおじいちゃんたちの本を見せてあげるのよ。」

 三人で奥の部屋に入った。そこら中本棚があって、入りきれない本は、箱の中に押し込まれていた。

「うわ、本がいっぱい!」

 なんか宝さがしみたいだ。本当に明治から昭和まであるんだ。本の後ろに出版年月日が書いてあって、収入印紙が貼られて判子が押されている。こういうのを見るのは面白い。

「いちいち判子押したんだよね。」

「ホコリ吸わないように気を付けてね。」

 図鑑も多い、植物図鑑、天文図鑑、動物図鑑、なんでこんなに子供が読むような本が多いのだろう?それに古いけれど天体望遠鏡や六分儀や実験道具まである。もしかして、家の人は学校の先生でもしてたのかな?

「ねえ、なんで図鑑とか多いの?お父さんやお母さんは何している人なの?」

「裕太、そろそろテレビで大好きな、にゃんにゃんが始まるよ。」

「はーい。」

と言って裕太は、テレビのある部屋に行った。優香は少し黙っていた。

「お父さんは私が小学校五年生の時亡くなったのよ。お母さんは、中町の実家のおばあちゃんの面倒を見に行ってるわ。」

 なんか悪いこと聞いちゃったかな。

「ごめんなさい、変なこと聞いちゃって。」

「気にしない、気にしない。ここはね、昔おじいちゃんが近所の子を集めて、本を読ませたり遊ばせたところなの。私のお父さんもここで一緒に勉強してたのよ。」

「塾だったの?」

「塾じゃないわよ。おじいちゃんが若いころは農家の跡取りで、上の学校に進学できなかったからさあ。子供たちのためになるかと思ってやってたみたいよ。」

 それでか、本が多いのは。

 由香は声を潜めて話しかけてきた。

「お母さんは、おばあちゃんの介護で今は家にいないの。で、裕太にお母さんの話すると悲しがるからさ。」

 僕は黙ってうなずいた。

「それとこのことはクラスのみんなには内緒にしててね。親が二人ともいないって分かると、私たち施設に入れられちゃうかもしれないからね。」

 翌日も学校に由香は来ていた。昨日のことは話題にしないように、僕からは優香に話しかけなかった。

 それからしばらくたった木曜日の放課後、今日は四時まで図書委員の当番日。週の半ばで間もなく週末、少し楽しい曜日だ。

 三時半ごろ由香が入って来た。僕の顔を見るとニコッとして手を振った、なんか恥ずかしい。

 由香は雑誌を取り出すと何か書いていた。

何を調べているのだろう。しばらくしたら僕の所へ来た。

「ねえ、このページコピーしてくれない?」

雑誌『月間天文』だった。春から夏の星座表、みずがめ座流星群って書いてある。

「天体観測するの?」

「観測ってほどじゃないけど、家のそばの河原からは星が良く見えるから。」

 由香にコピーを渡した。

「ねえ、図書室って間もなく閉館でしょ、一緒に帰らない?」

 由香には断るに断れない雰囲気がある、嫌な圧じゃないけれど。

 黙って帰ろうかと思いつつも、昇降口へ向うと由香が待っていた。他の生徒はまだ部活だから、昇降口に僕と由香だけだった。少しホッとした。

「天本くんは星座とか好き?」

「別に特に好きということはないかな。」

「そう。」

「でも星座の神話は好きかな。悲しいのもあるけど。」

「だよね、国によって全部話が違うのも面白いよね。私ね流星群見たことないんだなあ、それで見たいなって。」

 僕の家の近くまで来た。

「ねえ、試しに月を見てみない?」

 なんで僕は由香にしたがっちゃうんだ。由香は部屋から望遠鏡を取り出した。

「お姉ちゃん、お星さま、まだ出てないよ。」

弟の裕太もついてきた。

「お星さまはもっと暗くならないと見えないよ。今日はお月様を見て練習するんだ。」

家の庭に望遠鏡を立てた。そういえば、僕も望遠鏡を見るのは初めてだ。

「うん、いい!」

由香は、東の空に昇りかけている月を見ている。まだ夕方だから、肉眼で見ても月は白っぽい色だ。

「天本くん見て。」

 すごい、図鑑で見るお月様と同じだ。クレーターの形も、小さいけれど分かる。古いけれど良い望遠鏡なんだろう。

「ねえ、僕も見たい。」

 裕太に替わってあげた。裕太は大はしゃぎだった。

「これなら見られるかなあ。」

「何を?」

「流星群、天本くんも見たい?」

夜の外出なんて、お母さんは絶対に許してくれないだろう。

「流星群は五月、連休の頃が見ごろだって。」

 家に帰った後も、流星群のことを考えていた。幼い頃、長野のおばあちゃんの家に行って天の川を眺めていたとき、初めて流れ星を見たっけ。気象や天文は結構好きだ、できの悪い僕が、大きくなれるような気がする。

「あなた今日も遅かったわね。」

お母さんから聞かれた時はドキッとした。

「中学生は進路があるんだからね。今から準備しておくのよ。」

兄はニヤッとした。弟の僕が、苦労するのを嬉しがっている。

翌日由香は休んでいた。なんだろう?どうかしたのかな?

「天本くん、由香今日は何で休んだか知ってる?」

 クラスの子が聞いてきたが知るわけない。

 帰りの会後、担任の山口先生に呼ばれた。

「今日の学校からのお知らせ、吉村さんに届けてくれない?大事なお知らせだから。」

「あの、先生は行かれないのですか?」

「私は放課後部活があるの、私がいなくて生徒が怪我でもしたらどうするの!」

 先生が教室から出て行った後、クラスメイトの萩原君がそばにきた。

「先生は部活オンリーさ。俺の兄貴の担任だったけど、いつもあんな調子だって。」

萩原君は、入学式初日に声をかけてくれた人だ。それが縁で今でも話しかけてくれる。

「ありがとう。」

 由香の家に行ったが誰もいない、裕太もいなかった。なんだろう?せっかく学校に来れるようになっていたのに。その時一台の車が来た。

「天本くん!」

由香と裕太が車から降りてきた。

「何、私に会いに来たの?」

 なんでいつもこのノリなんだ。

「先生から頼まれて、お知らせ持ってきただけだよ。」

「へえ、それだけえ?」

 言葉に詰まるな。

「あらあなたが天本くんなの。由香から話は聞いてるわ。」

 運転席から女の人が降りてきた。

「私のお母さんよ。」

「いつも由香のことありがとうございます。」

 由香のおばあちゃんを、こちらで引き取って一緒に暮らすことにしたのだそうだ。

「今日は、おばあちゃんが暮らす部屋の片づけに帰って来たの。」

 由香はなんか嬉しそうに話した。お母さんと離れて暮らしているのは、やはり寂しかったんだろうな。

「おじいちゃんの教え子でT大出身の先生がいるのだけど、ここをまた子供たちが集まる場所にしたいんだって。その準備もするんだよ。」

 僕のお母さんが聞いたら、喜ぶかもしれない。ここに来るのにも理由ができる。

 帰り際、玄関で由香が話しかけてきた。

「天本くん、ありがとね。最初延滞カード持ってきてくれた時嬉しかったんだよ。正直裕太と二人きり、お母さんには面倒見るからと言ってたけど、しんどかったんだよね。それで休んでいたら、天本くんが来てくれたからさ。」

 そうか、僕も少し良いことができたんだ。

 翌日由香は登校してきた。いつもより明るく見える。

 放課後図書の当番で図書室にいると、由香がやって来た。

「今日は暇そうね。」

「部活の新人戦が近いから、部活に行っている子が多いんじゃないかな。」

「そうかあ。あのさあ、来週みずがめ座流星群一緒に見ない?」

「えっ?」

「五月六日、午前0時過ぎから流星群のピークなんだって。六日は振り替え休日でしょ、だからちょうどいいかなあって。お母さんもその頃は家にいるし。」

どうしよう。その日両親は親せきの家に行って帰ってこない、留守番させられる日だ。兄貴はどうせ夜は遊びに行くのだろうけど。

「来れそうだったらスマホで連絡頂戴ね。」

 その日が来た。案の定両親が出かけると兄はすぐに家を出た。僕は、スマホで由香に連絡した。

「じゃあ、待ってる!暖かい恰好してきた方がいいよ。ピークは午前一時ごろだよ。」

 九時ごろ家を出た。なんかお兄ちゃんよりすごいことをしてるって感じる。

「いらっしゃい、おにぎりとお茶用意してたよ。」

 由香のお母さんがいた。

「裕太はさっきまで起きているって言ってたけど、寝ちゃったわ。」

 由香はパーカーを着ていた。

「河原に行こう、あそこの方が遮るものが無いから。」

河原には、流星群を見に来ている人が何人かいた。深夜十二時を過ぎた頃、東の方から流星が降って来るのが見えた。

 これが流星群なんだ。

「すごい!宇宙がそこにあるって感じ。」

「宇宙って大きいんだなあ。」

「そうだよね、私たちの世界が小さく見えるよね。」

 嫌なことつらいこと、みんな流れていく、宇宙の時間の前に。


不登校だった吉村は天本が家を訪ねて来てくれたことを感謝していた。天本は兄にいやがらせをされていたり、母親も進学のことでうるさかった。夜家の者には内緒で吉村の家に行き、二人で河原で流星群を見ていたら人の世界が小さく見えた。作者の私も病気で学校に行けなかったことがありました。本を読み空など自然を見ているのが好きでした。そんな思い出も作品に入れてあります。

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