第六幕:母への愛
やあ、君。暗闇の中は慣れたかい?
不安なら、ボクが手をつなごう。
君の利き腕でない方の手が、
ボクの手だーー。
第五幕では、ギルガメッシュとシャムハトはエンキドゥの影と出会った。
だが彼は神としては完全だったが、
人としては終わっていた。完全に。
ギルガメッシュは彼を拒絶した。
エンキドゥの影は、
ギルガメッシュに試練は残っていると伝えて消えた。
影から言われたように、
二人は前に進む。
暗闇は変わらず、目の前には何も映らない。
二人は手を繋ぐ。
エンキドゥの影に拒絶されたシャムハトは、まるで生気がない。よろけては歩く。歩いてはよろけた。
また、青白い光が現れた。
二人の目の前には、若い夫婦がいた。
彼らは自分たちを、
始まりの夫婦といった。
大洪水が地上を覆った時、彼らは神々からの使命を遂げて、永遠の命を与えられたと言った。
ギルガメッシュは問いかけた。
「あなた方は若い。子を産み増やさないのか」とね。
二つの影は同時に答えた。
「必要がないのに、なぜ、やらなければいけない?」
ギルガメッシュは、その後も、
わざと似たような問いをした。
彼らは同じ反応を示した。
「する必要がないーー」
ギルガメッシュは、これが神になるという事だと理解し始めた。
「あなた方の中にあった魂は、どこへ行った?」と聞くと、
影たちは答えた。
「旅だった。永遠の旅に。
我々は残された。置いてかれたーー」
ギルガメッシュは、ゾッとした。シャムハトを思わず引き寄せた。
彼女の温かさがなかったら、
彼は動けなくなってた。
歩き回ると、闇の中に影がいた。
立ち尽くす者もいた。
虚空を見つめるだけで、反応はない。
「彼らは残された影だ。
神のなりそこないだーー」とギルガメッシュは呟く。
彼は理解していた。これが神の本質なのだと。ギルガメッシュの中にあった神に対する憧れ、幻想は剥がれていった。
やがて、外へと出た。
黄泉の道を超えた先が、
神々の国の入り口だった。
光に満ちていた。
そこには、女神ニンスンが彼を待っていた。宮殿の一室で、彼を出迎えるように。そこにいた......。
「我が子、ギルガメッシュよ。
よくぞ神々の国に参った。
母と子が顔を会わせる、
息子の夢が叶うこと、
これ以上の幸せはないーー」
そう女神は言った。
女神の後ろには、
神々の完全な国があった。
彼を待っていた。
「母よ。我は沈黙を守れなかった。
我は神にはなれないーー」とギルガメッシュは言った。
女神は笑いだす。
「妾の口添えがあれば、心配は要らぬ。だが、息子よ。やらねばならぬ事がある」と女神はギルガメッシュの肩に手を置く。
「女神イシュタルとの婚姻だ。これにより、神と人の関係は更に強固となれるのだーー」と。
ギルガメッシュは、シャムハトの手を離し、母を抱きしめた。
女神は抱き返さない。
「母よ。エンキドゥの言った言葉を、貴女に贈ろう。」そして、彼はハッキリと宣言した。
「貴様たち神の時代は終わりだ。この人でなしめーー」
それから、彼は踵を返して、シャムハトの手を掴むと黄泉の道へと引き返す。
女神は黙って見守っていた。
(こうして、第六幕は母の後ろ姿で、幕を閉じる。)




