第五幕:神になったエンキドゥ
やあ、君。君という人間の形を考えたことは?
ーー記憶、容姿、思想、反応、趣味嗜好...。君の何かを持てば、君になれるのだろうか?
物語を進めよう。
ボクらは黄泉の道の闇の中にいた。
そこには、三人の人間がいて、
女が一人の男に抱きついていた。
その男は薄ら笑いを浮かべ、少し離れた男の方を向いている。
「ーーエンキドゥ。本当に、君なの、かい?」
ギルガメッシュは、声を震わせて彼に問いかけた。
「......そうだとも言える。」
エンキドゥは薄ら笑いをやめない。
ギルガメッシュを冷ややかに見ている。
「ーーどういう意味だ?」とギルガメッシュは、なぜか警戒する。彼の中の何かが目の前のエンキドゥを否定していた。
「エンキドゥの身体を持ち、
彼の記憶を持ち、
彼の思考さえ備えている。
それが、完全な神のボク、
エンキドゥだ。」
ギルガメッシュは眉を上げた。
「......完全な...神?」
「そうだ。ギルガメッシュ。
君の望む姿が、ここにいる......。
ーーふふふ...、うれしくないのかい?
生きるのも辛くはない。
老いも、病も、死すらないーー」
「......それらに恐れすら感じない。
君の望む神の姿だ。」といい、その神は微笑んだ。
ギルガメッシュは知らず知らずのうちに、後ずさった。
「エンキドゥ!神になったのね!」とシャムハトは叫ぶようにして喜ぶ。
「アンタが幸せそうでよかった」と彼女は更に抱擁を強めた。
エンキドゥは、頬をひくつかせた。
「シャムハト。君、不敬だよ。ーーボクはギルガメッシュと話をしてる」とても冷たい声だ。ギルガメッシュは、このエンキドゥの言葉を聞き、母の前にいる気分になった。
シャムハトは顔を歪める。物乞いのように、彼からの愛を求めてた。
「エンキドゥ!アタシのエンキドゥ、抱きしめて......」と。
でも彼は彼女を無視する。
なぜかって?
面倒くさかったからだ。
「ギルガメッシュ。君は試練に失敗した。残念だ。ボクと君は、神の末席で未来を語らいたかったのにーー」と言いながら冷めた笑い方をする。
「だまれ...エンキドゥを、それ以上侮辱するなーー貴様は影だ。彼ではない」と囁くようにギルガメッシュは言う。
「なぜ? ボクはーー」
「影よ!貴様には彼の温かみがない。
これっぽっちもだ!」とギルガメッシュは言い切った。
「なぜ、失った? 君の魂は、どうした!答えろ、友よ!」ギルガメッシュは叫びをあげた。
影は目を細める。
「魂ーー人間の魂のことか?それは、永遠の旅にでた。」
ギルガメッシュは目を見開く。
「人間の魂?ーー永遠の旅?」
「神になる者は、皆、失い、完全になるーー」彼は歌うように言う。
友よ、想像したまえ。
語られ続けられる者たちを
偉業を成し得た汝は
他とは違う者となる
栄光を背負う
語り継がれない者たち
まるで亡霊の如きもの
霞のようなもの
ただ去り行く残像
我々は違う
永遠の語りの中
川が枯れようとも
川が枯れようとも
歌が終わる。
エンキドゥの影が見つめる。
「ギルガメッシュ。
君を喜ばせたかった。
これは本心だよ。」
影は消えていく。
輪郭がうすれ、
同時にシャムハトが地面に倒れ込む。
『このまま、先を歩むといい。
君の試練は、まだ終わりではないーー』
後は闇だった。
ギルガメッシュは、倒れ伏したシャムハトの腕を掴むと優しく引き寄せた。
(こうして、第五幕は試練の響きで幕を閉じる。)




