第八話:孤島で始まる修行の日々! 「自給自足ラップ」と「魚とのセッション」
アレンとルナは、船で数日揺られ、ついに「音の届かない孤島」へと到着した。島全体が、外部の音も内部の音も遮断する古代の結界で覆われており、島に降り立った瞬間、周囲の波の音や風の音が、遠くで囁くような、不思議な静寂に包まれた。
「うむ。完璧だ。これで、周囲を気にしてボリュームを絞る必要もない。存分に俺のフローを解放できる!」
アレンは、嬉々として両手を広げた。まるで、巨大なライブ会場に立ったロックスターのようだ。
「ただし、先生。ここは無人島ですから、生活は自給自足です。まずは食料を……」ルナは頬の筋肉をピクピクさせながら、冷静に現実を指摘した。
「心配ない、ルナ。俺のラップは、戦闘だけじゃなく、生活にも活かせる。見てろ」
アレンは、早速、食料調達のため、海岸に向かった。彼の狙いは、新鮮な魚だ。
アレンは、釣竿ではなく、自らの魔力を込めた「魔法のルアー」を海に投げ込んだ。そして、魚を引き寄せるための呪文、『フィッシュ・コール・ウェイブ』の詠唱を始める。
「行くぞ、ルナ!今回のビートは、『潮風に乗せるレゲエ』だ!ゆったりとしたリズムで、魚の心を落ち着かせる!」
アレンは、頭の中で穏やかなレゲエのリズムを刻み、口を開いた。
「Yo, Man! 波の音、まるでビートメーカー!ゆらりゆらゆら、海に漂う!」
ルナは、アレンのレゲエ風フローに合わせて、頬の筋肉で「タッタカ、タッタカ」と、静かにパーカッションのリズムを刻んだ。
「魚たちよ、聞いてくれ、俺様のレゲエ!ここには平和と、マジなエサがある!遠慮はいらねぇ、さあ、カモン、カモン!」
アレンの呪文は、レゲエ特有の心地よいリズムと相まって、穏やかな水魔法となって海中に広がり、魚たちの聴覚(魚には聞こえないが、魔力的な感覚)に直接作用した。
すると、驚くべきことに、様々な種類の魚たちが、我先にとアレンの足元に集まってきたのだ。まるで、アレンのフリースタイル・レゲエに聴き入っているようだ。
「……すごいです、先生!魚たちが、先生のレゲエに心酔しています!」ルナは感動した。
アレンは得意げに笑った。
「フッ。生命は皆、良いビートを求めている、ってことだ。ただし、ここで満足しちゃダメだ。次のフローで、一番デカい魚を一網打尽にする!」
アレンは、レゲエから一転、「超高速のドラムンベース」へとビートを切り替えた。
「待ったなし!次のフローは、マジで早いぜ!魚、魚、魚!でかいのがターゲット!」
ルナの頬の筋肉は、高速ドラムンベースに耐えきれず、「チチチチチチ!」と痙攣寸前の勢いで高速パーカッションを刻み始めた。
「食料確保のスキル、これが俺のバース!水から飛び出せ、今すぐCatch!」
呪文は、対象を指定して引き寄せる『ターゲット・プル・ストリーム』。超高速ラップ詠唱のおかげで、狙いは正確無比だ!
次の瞬間、海面が爆発し、巨大なマグロがアレンの目の前に飛び出してきた。
「やった!完璧だ!」
アレンはマグロを抱え上げ、ルナに向かってサムズアップした。ルナは、頬を抑えながらも嬉しそうだ。
「先生……!これで、今日の夕食は確保ですね……!でも、私、もう当分レゲエは聞きたくありません……」
修行は、食料調達だけでは終わらない。アレンは、さらなる魔法の安定とパワーアップのため、夜な夜な森の中でフリースタイル・ラップの練習に励んだ。
「自然とセッション!木々も風も、俺のDJ!俺のリリック、森羅万象を操るスキル!」
彼の放つ炎魔法は、ラップのフローによって、予測不能な形で螺旋状に燃え上がり、木々の影で練習する彼の姿は、まさに狂気の魔導師そのものだった。
そして、夜、魔力を使い果たし、夕食に新鮮なマグロを頬張るアレンに、ルナは真面目な顔で尋ねた。
「先生。総長からの報告書、『韻を踏まない文章』で提出することになっていますが……」
アレンは、マグロの刺身を口に運びながら、深く頷いた。
「ああ、そうだ。だが、俺の体は、既に韻を踏むことを覚えてしまった。真面目に文章を書こうとしても、指が勝手に、『5・7・5』や『7・7』で文節を区切りたがるんだ」
アレンは、報告書のメモを見せた。そこには、
「本日の 獲物はマグロ 非常にデカい」
「孤島での 生活自体 ラップがすべて」
という、妙にリズム感のある、川柳のような文章が並んでいた。
「仕方がない。総長には、『アレン特異詠唱事例:レポート形式の韻化現象』として提出するしかないな」
ルナは、自分の頬の筋肉の動きと、アレンのレポートの韻律が、完璧にシンクロしているのを感じ、ため息をついた。
孤島での修行は、アレンのラップを、さらに予測不能な領域へと導き始めていた。




