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最強の魔導師だけど、呪文を詠唱すると必ず「ラップ」になってしまう件  作者: かわうそくん


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第三話:詠唱中にフックを決めろ! 相手は迷宮を守る「門番ゴーレム」

アレンとルナは、地下迷宮のさらに深部、最奥の間に続く巨大な石の扉の前にたどり着いた。周囲は古代文字が刻まれた壁に囲まれ、重厚な空気が漂っている。


「ここが最深部への入り口か……」


アレンが息を吐くと、石の扉の中央に、突如として砂利が凝集し始めた。ゴロゴロという重い音と共に、巨大な「門番ゴーレム」が出現した。


その身長は7メートルを超え、岩の拳は通路の壁を砕くほどの破壊力を秘めている。ゴーレムの全身には、迷宮の主が刻んだ魔力制御の紋様が施されており、並の魔法ではびくともしない、極めて強靭な魔物だ。


「ついに来たか。ルナ、いいか。こいつは強力だ。通常の炎や水では効果が薄い。魔力制御の紋様を破壊するには、高密度の光魔法を使うしかない」


アレンは真剣な表情で指示を出す。迷宮の魔物の中でもトップクラスの強敵を前に、彼の目は真剣そのものだ。


「光魔法ですね! 先生の『ホーリーフラッシュ・バースト』なら一撃で――」


「ああ。こればかりは、真面目に、正確に詠唱する必要がある。光はリズムを嫌う。今回は絶対に、韻を踏まずに行く!」


アレンは固く決意した。彼の持つ光魔法は、王国最高峰だ。正確な詠唱さえできれば、このゴーレムを一瞬で塵にできる。


「我が内なる光よ、真理の輝きを顕現せよ――ホーリーフラッシュ・バースト!」


アレンは、集中力を極限まで高め、口を開いた。


その瞬間、彼の体の中に眠る「ラップ魂」が、ゴーレムの威圧感と、迷宮の静寂に煽られたかのように、覚醒した。


「Yo, Yo, Check the Mic, 1、2! Go-Re-Muに告げるぜ、俺のVibe!」


アレンは、人差し指を立ててリズムを取り、足を軽くステップさせた。


ルナは思わず、「あーっ!まただ!」と声を上げる。


ゴーレムは、突然のラップに戸惑ったのか、岩の拳を振り上げるのを一瞬ためらった。


「硬いボディ、それまるで石像!だがよ、光の前ではただのデコレーション!」


アレンはさらに加速する。彼の周囲には、ラップのビートに合わせて、白く強い魔力の光が点滅し始めた。光魔法の起動は始まっている。ただし、極めてノリノリで。


「魔力紋様?そんなもん知るか!俺様のフローで、世界を照らす!」


「先生!韻はいいですから、早く紋様のコアを狙ってくださーい!」ルナが焦って叫ぶ。


「ホーリー、フラッシュ、バースト! 3連コンボでキメるぜ、このVerse!」


アレンは高音域の声を張り上げ、完全にクライマックスの「フック」の領域に突入した。彼の声の響きに合わせて、光の魔力が異常な密度で凝縮されていく。


「目には目を、歯には歯を、光には光を!迷宮のルール、ブッ壊すこのアレン様!」


そして、彼は右手をゴーレムに向かって突き出した。


「今、闇を切り裂く、最高のライム!これが光の、ア・ル・ティ・メ・イ・ト・タ・イ・ム!」


その「ライム」が最後の決め手となり、アレンの指先から、太陽が凝縮されたかのような凄まじい閃光が放たれた。


『ホーリーフラッシュ・バースト』。それは確かに発動した。


閃光はゴーレムの全身に刻まれた魔力紋様を正確に貫き、一瞬にしてゴーレムの体を構成していた岩石を、熱と光で蒸発させた。


キュオオオオオオン!


通路全体が真っ白な光に包まれ、その残響が静まった後には、ゴーレムの姿はどこにもなく、通路の壁がわずかに焦げ付いた跡だけが残されていた。


アレンは満足そうに、頭を軽く揺らした。


「……ふう。危なかった。もう少しフックが遅れていたら、光の密度が足りなかったところだ」


ルナは、光で目がチカチカする中、アレンに詰め寄った。


「危ないのは、先生がまたラップを始めたことですよ! 今回は特に長かった! 『アルティメイト・タイム』って、完全に決め台詞じゃないですか!」


「しょうがないだろ、ルナ。ゴーレム相手だと、どうしても『硬い』とか『石』とか、韻を踏みやすい単語が頭をよぎってしまってな……。しかも、相手が強敵だと、無意識のうちにビートも速くなるんだ」


アレンは、苦悩をにじませながら答えた。最強の魔導師が、自分の魔力に「強制的に韻を踏まされる」という、このパラドックス。


「でも、先生。なぜか、先生のラップが始まると、魔法の威力が上がっているような気がします。特に最後の『アルティメイト・タイム!』の時、光が爆発的に増幅しました!」


ルナの指摘に、アレンはハッとした表情を浮かべた。


「そうか……やはり、そうなのか。俺の『強制ラップ詠唱』は、単なる弊害ではない。もしかしたら、この世界に存在する、新しい魔法の発動システムなのかもしれない」


アレンは、自らの能力を真剣に考察し始めた。


「つまり、俺の魔力は、従来の『呪文』という形ではなく、『リズムとライム』という形で、高密度のエネルギーに変換されている……」


アレンは閃いた。


「よし、ルナ。次の敵からは、真面目に詠唱するのを諦める。むしろ、意図的にラップをかます! ラップのフローを調整して、より強力な魔法を生み出すんだ!」


「ええっ!?意図的にですか!?」


「ああ。次の戦闘では、俺のラップに合わせて、お前が声を張って合いのコールを入れてくれ。ラップは一人じゃ完成しない。俺はMC、お前はDJ……いや、俺のフローをブーストさせる、最強のハイプマンだ!」


アレンはそう言い放ち、無事に機能停止した石の扉をくぐって、最奥の間へと進んでいった。


その背中を見て、ルナは頭を抱えた。


(最強の魔導師の助手として、私は魔法を学ぶはずだったのに……まさか、ラップの合いの手を練習することになるなんて!)


ルナは小さく呟いた。 「Yo……って言えばいいのかな……」


彼らの進む最奥の間には、迷宮の主である古の魔物が待ち構えている。そして、その魔物は、静寂と厳粛な儀式を重んじる、非常に真面目な性格であるという。


アレンの「意図的なラップ」が、その真面目な魔物にどう受け止められるのだろうか。

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