表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の魔導師だけど、呪文を詠唱すると必ず「ラップ」になってしまう件  作者: かわうそくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

第二話:地下迷宮でディスリスペクト!? 相手は史上最弱のミミック!

アレンとルナは、王都郊外にある古代の地下迷宮に足を踏み入れていた。今回のミッションは、最深部に眠る伝説の魔導具の回収――という、至って真面目なものだ。


「よし、ルナ。気を抜くなよ。この迷宮は仕掛けが多い。特に『ミミック』には注意が必要だ」 「はい、アレン先生! ミミックは宝箱に化けていて、油断した冒険者を丸呑みにする強力な魔物ですよね!」


アレンは真剣に頷いた。最強の魔導師として、危険を事前に察知し、的確な指示を出す。彼の魔導師としての能力は、ラップとは無関係に超一流なのだ。


迷宮を進むこと数十分。薄暗い通路の先に、キラリと光るものがあった。


「お、宝箱だ!」


ルナが歓喜の声を上げる。そこに置かれていたのは、装飾は質素だが、いかにも「何か入ってますよ」と主張する、普通の木箱だった。


アレンは、警戒を緩めなかった。 「待て、ルナ。これは……ミミックだ」 「え、本当ですか? でも、なんだかすごく普通の箱に見えますけど……」


アレンは目を細めた。 「いいか、ルナ。こいつは確かにミミックだ。ただし、史上最弱の、隠れるのが下手すぎるミミックだ。見てみろ。宝箱の木目に、うっすらと『頑張って化けてます!』って文字が浮かび上がっているだろ」


ルナが目を凝らすと、確かに木目の中に、カタカナで「ガンバッテ化ケテマス」と読めるような、奇妙な模様が刻まれていた。


「あ、ホントだ……なんて正直な魔物なんでしょう……」


宝箱はガタガタと震え始めた。どうやら、見破られたことに動揺しているらしい。そして、パカリと蓋が開いた。中から現れたのは、小さな目玉と、申し訳程度の牙がついた、いかにも弱々しい魔物だった。


「ひ……ひぃん。みつかっちゃったぁ」


ミミックは、泣き出しそうな声で言った。


「見つかったな、ミミック。このまま大人しくしていれば、命までは取らない。だが、お前は通行の邪魔だ。さっさと元の場所に引っ込め」


アレンは、一応、威厳を保とうとする。だが、この弱々しすぎる敵を前に、彼の内心にはすでに「ラップの血」が騒ぎ始めていた。


「ぐ、ぐぅ……しかし、ここは私の縄張り……縄張りですぅ! 私にも意地が!」


ミミックは最後の抵抗とばかりに、アレンに向かって、宝箱のフタをパタパタと威嚇するように動かした。その速度は、そよ風程度である。


「よし、ルナ。こいつは手ごわい相手ではないが、時間が惜しい。一撃で沈める!」


アレンは右手を構えた。今度こそ、真面目に詠唱しよう。相手は最弱とはいえ、魔物だ。彼の得意な、水の魔法「アクアバースト」で、瞬時に動きを封じる!


「清らかなる水流よ、敵を包み込め――アクアバースト!」


アレンは心の中で、完璧な詠唱を組み立てた。しかし、彼の口から飛び出したのは、やはり、あの言葉だった。


「Yo, Yo, Listen Up! お前ミミック、マジでリスキー!」


ルナは思わず額に手を当てた。


「隠れ方が甘いぜ、スキルがロー! 木目からバレバレ、その悲しいフロウ!」


アレンの言葉に、ミミックは傷ついた顔で宝箱を閉じかけた。


「ひどい……ディスられた……」


「真面目にやれよ、ミミック! 伝説の魔物、面目丸潰れ! お前の存在、まるで迷宮の家具!」


アレンは完全にノリノリだ。彼の指先から放たれた水流は、ラップのビートに合わせて激しく渦を巻いた。それは「水魔法」というより、「水圧を伴ったディス」だった。


「この程度の罠、俺様には通用しねぇ! 清らかな水のバースで、お前を洗礼せんれい!」


「アクアバースト」は、激しい水の勢いでミミックの宝箱を容赦なく叩きつけた。ミミックは悲鳴を上げ、まるで洗濯機にかけられたように回転した。


「あああああ!やめてぇ!洗濯されちゃうぅぅぅ!」


水圧ディスにより、ミミックはあっけなく無力化。木箱は通路の隅で、ふやけたまま、小さく震えていた。


アレンは、額の汗を拭い、クールに一言。


「That's it.」


ルナはミミックの残骸……ではなく、気絶したミミックを憐れみながら、アレンに尋ねた。


「先生、今の呪文は、本当に『アクアバースト』だったんですか? なんだか、完全にディスってましたけど……」


「ああ。ディスは最強の魔法なんだ。相手のメンタルを粉砕し、戦意を喪失させる。……いや、違う。俺はただ、真面目に詠唱しようとして、気づいたら韻を踏んでいただけだ。ミミックが弱すぎたせいで、ラップがディス調になったんだ、きっと」


アレンはそう言い訳をしたが、その顔はどこか満たされているように見えた。彼はディスラップでミミックを倒したのだ。


「しかし、先生。今のミミック、中に何か入っていましたよ?」


ルナが指さすと、ミミックが開けた宝箱の底に、ピカピカに光る「新品の消しゴム」が一つ入っていた。


「なるほど、これがミミックのトラップか。冒険者が『やった!宝だ!』と手を伸ばした瞬間に食い付く……」アレンは冷静に分析した。


ルナは消しゴムを手に取り、首を傾げた。 「でも、なんで消しゴムなんでしょう? 普通、ゴールドとか、宝石ですよね?」


アレンは消しゴムを一瞥し、真剣な眼差しで言った。


「フッ……違うぞ、ルナ。これはトラップではない。これは、ミミックの、切実な自己主張だ」


「自己主張?」


「ああ。この『消しゴム』は、『自分は存在を消して隠れたいのに、上手く隠れられない』という、ミミックの心の叫びを表現しているんだ。そして、この新品具合は、『いつか完璧に化けてやる!』という、彼なりの強い決意の表れだ。……深いな、ミミック。まるで、俺の心みたいに……」


ルナはただ、アレンのあまりに壮大すぎる解釈に、消しゴムを握りしめたまま立ち尽くすしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ