表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の魔導師だけど、呪文を詠唱すると必ず「ラップ」になってしまう件  作者: かわうそくん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第十話:そして伝説へ! 全世界がアレンの「エンドロール・ソング」を聞く日

孤島での任務を終え、アレンとルナは王都へと帰還した。彼らの帰還は秘密裏に行われたが、ギルド総長バルドの顔は、なぜか青ざめていた。


「アレン!よく戻った!しかし、すぐに次の任務だ!」バルド総長は焦った様子で言った。


「次の任務?総長、俺の報告書は読みましたか?川柳形式のレポートは、韻を踏まない文章として認められたのでしょうか?」アレンは尋ねた。


「報告書は置いておけ!問題はそれどころではない!」


バルド総長が示したのは、王国の情報網が捉えた緊急事態の映像だった。画面には、王都の空に浮かぶ、巨大な黒い影――「無関心の魔王ロード・オブ・アパシー」の姿が映し出されていた。


「無関心の魔王は、『全ての情熱と意欲』を吸収する魔物だ。奴が現れてから、人々は働く意欲を失い、兵士は戦う気力を失った。このままでは王国が、『どうでもいい』という雰囲気に包まれて滅亡してしまう!」


「無関心……ですか」アレンは静かに頷いた。


魔王が持つ能力は、沈黙の粘体とは真逆だ。音を消すのではなく、「音に込められた感情」を消し去るのだ。人々の意欲を奪われた今、真面目な詠唱も、ラップも、全て「無意味な音」となってしまう。


「アレン!頼む!貴様の『熱いラップ』で、人々に情熱を取り戻させてくれ!」


「総長。俺のラップは、確かに熱い。しかし、相手は情熱そのものを奪う魔王です。俺のディスラップも、魔王にとっては『無関心なノイズ』にしかならないかもしれない」


アレンはそう言いながら、ルナに目をやった。ルナの頬の筋肉は、この極限の危機に、ピタリと動きを止めていた。彼女の心臓のビートさえ、聞こえないようだ。


「……だが、やるしかないな」


アレンは、王都の広場に駆け出した。そこには、虚ろな目をした人々が、ただぼんやりと座り込んでいる。


空を見上げると、魔王が静かに笑っていた。


「愚かな魔導師よ。貴様の魔法も、その軽薄な歌も、全て無意味だ。この世界に必要なのは、感情の波のない、穏やかな『無』だけだ」


アレンは、魔王に向かって右手を突き出した。今回は、ディスでも、ブーストでもない。人々が情熱を取り戻すための、『魂の叫び』が必要だ。


「ルナ。最後のハイプだ。もし俺のフローに情熱が宿らなくても、お前の『無関心に打ち勝つ情熱』を込めて、俺のビートを支えてくれ」


ルナは、ピクリとも動かない頬のまま、アレンを真っ直ぐ見つめた。そして、アレンに聞こえないほどの、心の底からの熱い「Yo!」を、口パクで放った。


アレンは、そのルナの無音の情熱を感じ取り、覚悟を決めた。


「Yo, Check it! 聞けよ、無関心のロード!お前のテーマ、マジで寂しいぜ!」


アレンの詠唱が始まった。それは、いつもの戦闘ラップとは違い、物語を語るような、エモーショナルな叙事詩ストーリーテリングのフローだった。


「情熱が消えても、ビートは止まらない。俺たちが生きた、その証がここにある!」


魔王は、アレンのラップを聞きながら、冷笑を浮かべた。 「無意味だ。貴様の声は、ただの空気の振動。何の感情も持たない」


「振動? No!これは魂の履歴!楽しかった日々、笑い合った記憶!全部、このフローに詰まっている!」


呪文は、人々の失われた情熱を呼び覚ます『エモーショナル・リバイブ・チャント』。


アレンは、孤島での修行の成果を全て込めた。川柳のようにリズム感の良い言葉、レゲエのように優しい流れ、ディスラップのように破壊的な衝動。全ての韻律ビートを重ね、一つの巨大な「バース」として放出した。


「誰もが誰かを、求め、愛し、時にケンカした!その全ての『想い』を、お前は消せない!これが、俺たちの、エンドロール・ソングだ!」


アレンのラップのクライマックスで、彼の魔力は、虹色の光の波動となって、王都全体に拡散した。その光は、人々の虚ろな目に触れると、失われていた情熱を呼び覚ました。


「ああ……そうだ。私、昨日食べたラーメン、美味しかったんだ!」

「私は、あの魔導具をどうしても手に入れたかったんだ!」


人々は次々と、失われた「どうでもよくない感情」を取り戻していく。


魔王は、アレンの魔法に衝撃を受けた。 「バカな!情熱は消したはず!なのになぜ、貴様の歌は……!」


「フッ。俺のラップは、情熱そのものじゃない。俺のラップは、『韻を踏むことで、情熱があった記憶を、強制的にリズム化する』魔法だ!お前の能力は、記憶の『リズム』までは消せなかった!」


魔王は、アレンのあまりにシュールで、しかし確固たる理論に、恐怖した。魔王は、その場から逃げ出そうとしたが、時すでに遅し。人々の情熱の波に押し流され、無関心の魔王は、「どうでもいい……」と呟きながら、跡形もなく消滅した。


こうして、王国は最強のラップ魔導師アレンによって救われた。


数日後。ギルド総長室で、バルド総長はアレンに深々と頭を下げた。


「アレン。貴様のおかげで、王国は救われた。貴様の『ラップ詠唱理論』は、正式に『アレン式・韻律感情復元魔術』として、王国に認められることになった」


そして、バルド総長は、一枚の新しいギルドカードをアレンに渡した。


「貴様は、その功績により、『伝説の魔導師』の称号を与える。存分に、そのラップを世界に響かせるといい」


アレンは、新しいカードを受け取り、ルナと顔を見合わせた。


「ルナ。伝説、だってさ」


ルナは、頬の筋肉を静かに、最高の「Slow Beat」でピクピクさせながら、感動に満ちた口パクの笑顔を見せた。


「先生……!Yo!」


最強の魔導師アレンは、世界を救う「ラップ」というシュールな運命を受け入れ、今日もまた、誰にも理解されない独自のビートで、世界の平和を守り続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ