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オーディンの眷属 七章

オーディンの眷属 七章

 ヨトゥンの迎撃に成功したユーディンたちは、ヴァルハラへと帰還した。

 損傷していた搬入口もすでに修復され、機体は無事、リフトで格納ハンガーへと戻される。

 そこで、待ち構えていたG.O.Dの隊員たちが、戦果を称えるように拍手と声援を送っている。ユーディンが機体から降りると、レイヴァンスが声をかける。


「おい、ユーディン!見てたぞー!やるじゃねぇか!初めての実戦でゴーレムニ体も吹き飛ばすなんてよ!」


 レイヴァンスの声に振り返ると、彼は嬉しそうに笑いながら駆け寄って来た。

 

「レイヴァンスさん……いえ、無我夢中で、ジルさんやリシェルさんが一緒に戦ってくれたおかげですよ」

「おいおい、謙遜すんなって。接近戦での動きなんか殆ど無駄がなかったぞ?初めて操縦して、あんな細かい動き出来るやつはそういないぞ」

「あれは機体の性能、と言うかインターフェースシステムって言って、機体が自分の身体みたいに動くんですよ」

「お?なんかすげぇなそれ」


 この感じは、あまり伝わってない気がするけどまぁ、いいか……


「何にしても良くやった!俺も嬉しいぜ!」


 と、ニカッと笑いながら、ユーディンの肩を軽く叩く。

 なぜレイヴァンス隊長がここまで喜んでくれるのか、それには理由がある。


 ――僕がオーディーンの後継者として選ばれた日から、毎日続けている基礎トレーニング、それに加えて戦闘訓練も続けていたのだけど……その相手をしてくれていたのが、レイヴァンス隊長だった。

 誰にでも明るく、剽軽な態度で話かけてくるレイヴァンスさんは、僕がオーディーンの後継者であろうと、神峰家の血筋であろうと関係なく、普通に声をかけてくれた。

 何度目かの戦闘訓練の後、僕がレイヴァンスさんに尋ねた時の答えが、ずっと心に残っている。

 あの時……

 

「僕が神装機を動かせないこと、どう思ってますか?」


 何故そんなことを聞いたのかは今でもわからない。

 周りの人から、役立たず、期待外れ、そんな言葉を浴びせられる中……レイヴァンスさんはそんなことを一度も口にしなかった。

 ただ、この人の本音が聞きたかっただけなのかもしれない。


「ああ?どう思うってそりゃ、皆の期待を背負って大変だろうなぁって思うぜ?だけどな、そんな血筋だの責任だの気にしてたってしょうがねぇだろ?お前はお前なんだから、お前が出来ることを、お前がやりたいと思ったことのために、真っ直ぐ向かってやりゃいいんだよ!ユーディンのやりたいこと、俺も応援するからよ」


 ニカッと笑いながらそう言ったんだ。


 ――やりたいと思ったことに、真っ直ぐに……


 その言葉がスッと、胸の中に溶け込んでいった。

 だから、オーディーンの後継者として、僕が出来ることは何かを考えて精一杯やってきたんだ。そのおかげで、さっきの実戦でも戦うことができたしね。

 レイヴァンスの笑顔を見て、昔のことを思い出していると、ハンガーの入り口の方が騒がしくなってきた。視界に入ってきたのは、蒼銀の機体……


「あれは、ウルキューレ……リシェルさんか!」

「お嬢さん方も帰って来なさったか、さぁユーディン、出迎えに行くぞー!」

「は、え?ちょっと!」


 レイヴァンスに連れられ、ウルキューレの前までたどり着く。

 すると、目の前に光が集まり霧散すると同時に、リシェルの姿が現れた。


「あれがヴァルキリーってやつか?」

「あいつ、剣なんか持ってるぞ」

「千年前の神様って話らしいが?」


 次々にリシェルのことを見て野次馬達が口を開く。その言葉を気にする素振りも見せず、ユーディンの元へ歩み寄る。


「あなた、神装機の扱いがなってないわよ」

「これこれ、無理もないじゃろ?千年もの間動かなんだ神装機に初めて乗ったんじゃぞ」

「だったら、ミーミル……あなたがしっかり指導しなさいよ」


 そう言い残して、彼女は去って行った。

 

「まったく言われんでも、そのつもりじゃよ」

「悪いわね、ミーミル……あの子も目覚めたばかりで自分がどうしたらいいのか迷ってるのよ」


 目の前のウルキューレから、凛とした声が響く。


「相変わらず、世話の焼ける眷属じゃのう」

「眷属?」

「ん?少し前に言っておったじゃろ?『ヴァルキリーはオーディンが創造した』と」


 確か、司令室で集まってた時にブリュンヒルドさんが言ってたな……


「オーディンの創造の力によって生み出された眷属、それがヴァルキリーじゃ……今では神核に宿っておるブリュンヒルドとリシェルだけしか残っておらぬようじゃが」

「だけど、我らの主神オーディン様はもういない……」

「生命の樹が焼け、生身の身体でフェンリルと刺し違えたからの……」

「オーディン様亡き今、私たちが成すべきことは何なのでしょうね」

「ヒルダよ……」


 ミーミルや、ブリュンヒルド、リシェルさんは千年前の神々の黄昏の時代を戦った神族なんだ……一度は滅んだこの世界で、今も戦い続ける必要は……


「肉体を捨て、神装機の核となったわしらに出来るのは神格を持つものの手足となりヨトゥンと戦うこと、それだけじゃ」

「ミーミル」

「案ずるな、ユーディン……おぬしに戦う意思がある限り、わしは力を貸そう。さて、初の実戦で疲れたじゃろう?休みながら、神装機の事について色々と話してやろう」


 確かに、初めての戦場で心身ともに擦り減っている。


「うん、ちょっと休むよ。ブリュンヒルドさんも、助けてくれてありがとうございました」

「いいえ、助けに入ることを決めたのはリシェルだから」

「じゃあ、今度ちゃんとしたお礼をしないといけませんね……それじゃ、また」


 そう言って、ユーディンはレイヴァンスと一緒に区画移動用リフトへと向かって行った。


「そんじゃ、俺も飯でも食いに行くか!ユーディンも一緒に行くか?」

「いや、僕は管制塔に寄ってからにします。父さんと母さんに会いに行きたいので」

「そうか、んじゃ、後でしっかり休めよー」

「はい、ありがとうございます。また、訓練にも付き合ってください」

「おうよ、またなぁ」

 

 ――ヴァルハラ、第1区画、管制塔


 リフトで移動し管制塔へと戻ると、オルヴァンとユーミルがユーディンの元へと駆け寄る。


「ああ、ユーディン……無事で良かった」

「本当に、よくやったぞ」

「父さん、母さん」


 そこへ、樹里博士も目を輝かせながらやってくる。


「あれが、オーディーンの力かぁ!やっぱりエーテル波を使った武装がメインなのね……だけど、神々の黄昏を戦った機体にしては、なんか地味ね。お爺ちゃん、オーディーンってあんなものじゃないよね?」


 博士は、湧き上がる好奇心を次々と吐露していく……

 

「うむ、あれが通常の状態じゃが、神格の力を引き出すことによって更に出力を上げることができる……わしらは『神装展開』と呼んでおるが、そもそもおぬしらは神装機のことをどこまで理解しておる?」


 神格の力?神装って……

 

「ん〜?機体の基本構造や動力に関してはどうやっても同じ物は作れなかったし、正直言って、何もわかってないかな……G.O.Dシリーズだって、壊れた神装機の動力炉ユグドラシル・ドライブを回収して使ってるだけ。フレームや装甲も、手に入る素材にエーテル結晶をコーティングして、どうにか代用してるの」


 確かに、神装機のフレームや装甲に使われてる素材はいくら調べても解明出来なかった……しかも、フレームと装甲、どちらもエーテルを吸収することで自己修復する機構が組み込まれてて、とても真似出来るものじゃないって父さん達も言ってたな。


「それは無理じゃろうな……神装機に使っておる、ノルンフレームやユグナイト装甲、ユグドラシル・ドライブも全て、オーディンが生命の樹の一部を使い、創造の力によって組み上げた唯一無二の物じゃからな。しかし、創造の力無しに、よくG.O.Dなる物を作り上げたのぅ……」


 ミーミルの言葉に、待ってましたと言わんばかりに前のめりになる博士。

 

「それは、神装機を真似して作っただけの模造品だからね……でも!エーテル結晶を作り出してコーティングする技術を思いついたのは私なのよ!凄い!?」

「ほう……エーテルを凝縮して結晶化させるには、力場の安定が難しかったはずじゃが……更にそれをフレームや装甲にコーティングするとなると……」

「それは、ユグドラシル・ドライブの原理を研究する過程で……エーテライトって……」


 ……ジュリアンとミーミルが二人で盛り上がってしまい、完全に蚊帳の外のユーディン。両親の顔を見ながら、諦めたように肩を竦める。


 二人が満足するまで小一時間ほどかかった。

 

「しっかり休むんじゃぞって、言ったじゃん……」

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