黄昏の終焉 三十八章 後編
黄昏の終焉 三十八章 後編
あつい、身体の中を巡る血が灼けるように熱い。
心臓が張り裂けるような痛みが、脈打つ度に襲ってくる。
それでも、耐えるんだ……意識を途絶えさせちゃいけない。
"創造の力"で、人から神へ……オーディンの力を使いこなせるようにするために!
「ぐ……ぅあああ!」
「ユーディン!」
「気でも触れたか?成す術もなく力を暴走させるとは」
「今更どう足掻こうが、貴様らの運命は変わらん。これで終いじゃ」
次の瞬間、ヘルヘイムから漆黒の波動が放たれる……
それと同時に、オーディーンを包んでいた光が霧散し、光の螺旋が放たれる。
光と闇の奔流がぶつかり合う。
凄まじい閃光と衝撃が走る。
リシェルの前には、いつの間にかオーディーンが佇んでいた。
斬られた腕は元に戻り、装甲の合間から眩いエーテルが白銀の光を放つ……その後ろ姿はまるで
「オーディン、様」
「僕は、ユーディンだよ」
「でも、その力は……」
さっきまでとは、比べものにならない量のエーテルを身に纏ったオーディーンの姿に、リシェルは言葉を失う。
「今の僕なら、世界を……あなたを守ることができる」
オーディーンの胸部装甲が開き、白銀のエーテルが収束し始める。
そのエーテルは徐々に形状を変えていき……一振りの剣と成した。
「全てを薙ぎ払う力を……この神剣に込めて」
オーディーンは剣を手に、ヘルヘイムに詰め寄る。
「くっ、悪足掻きを!」
幾重もの触手と斬撃を放つも、その全てを一瞬で薙ぎ払われる。
「全部、見えてる……ロキ、ヘル、これで終わりにしよう」
「なっ、認めんぞ!我等は……やっと!」
オーディーンは神剣を構え、ヘルヘイムの核ごと一閃で斬り伏せた。
ヘルヘイムは核が破壊されると同時に、全身の力が抜けるように脱力し、地に伏せた。
その衝撃で、ヘルが機体の外へ投げ出される。
「父上!貴様……許さぬ!」
ヘルは怒りと憎しみを露わに瘴気を放とうとする。
「そう、許されないことなんだ……」
オーディーンはヘルを光の檻に閉じ込め、動きを封じると冥界の門の前へと進んでいく。
「例え、どんな力があろうと、誰かの魂を封じたり、縛ったりするのは間違っているんだ」
ユーディンの言葉に、怒りや哀しみの感情はなく……今、自分が成すべき事だけを見つめていた。
「だから……全ての魂を解放させる」
その言葉と同時に、冥界の門が開かれ、幾億もの魂が解き放たれた。
「ヘル、あなたの魂も在るべきところに還るんだ……世界樹の導きのままに……」
オーディーンが手をかざすと、グルヴェイグの身体から瘴気が噴き出し、浄化されるかのように淡い光の玉となる。
その光の玉は冥界から溢れ出る魂の流れに吸い込まれるように消えていった。
「ユーディン、あなた……何を?」
「リシェルさん……僕は、世界の理を変えたんだ」
「世界の、理?」
「うん……神々の黄昏は、ヨトゥンと神族の争いから始まった……」
……世界を揺るがす程の力を持った二つの種族が、互いを危険視し、多くの生命を巻き込んで滅んでいった。
その争いのもととなった"大きな力"、それは"神格の力"と"ヨトゥンの力"だ。
この力を世界から無くし、平等な世界へと変えていくこと、そして、死者の魂が輪廻するように理を変えたんだ。
「……あとは、冥界を隔絶し、僕らの神格の力を消し去れば、本当の意味で黄昏の時代を終わらせることが出来る」
「神の力を、手放すつもりなの?」
「うん、大きすぎる力は……争いの種になってしまうから」
ユーディンは躊躇うように目を伏せる。
「リシェルさんも、ヴァルキリーとしてではなく、普通の人間になってしまうけど……」
「構わないわ……ヴァルキリーとして戦う必要がないのなら、人として生きてみたいから」
「リシェルさん」
「わしとヒルダ、他の神装機の核に宿っておる者はどうする?」
「ミーミル……」
「ほっほ、わがままを聞いてもらえるなら、新しい世界の行末を見届けたいがの……その後に、自分で核を破壊するでの」
「私も、リシェルと最後まで一緒にいさせて欲しいのだけど」
「そう、だね……どのみち神格の力が無くなれば神装機に乗れる人間もいなくなる。だから、ミーミルたちの命に僕は関与しないよ」
「ほっほっほ、これでお別れじゃと寂しくて駄々を捏ねるとこじゃったわい」
ミーミルの言葉で場の空気が一気に緩む。
「それじゃ、皆のところに帰ろう……これからのこと、話さなくちゃ」
「ええ、行きましょう」
――そして、神の血を継ぐ者たちは、新たな世界、新たな理のもとに、人として、その生を全うした。
これが現代に伝わる人類史の一説となる……




