太陽と月を纏う者 三十七章
太陽と月を纏う者 三十七章
――氷原、戦場の一角
吹き荒ぶ瘴気と閃光の奔流が交錯する中、漆黒と輝銀の神装機が宙を駆けた。
神装機
かつて失われた太陽と月の神格を宿し、今は黄昏れの子らソレーユとルーナによって覚醒した神装機。
「見つけたわ、スコル!」
「ハティもいる……お姉ちゃん、気を抜いちゃ駄目!」
双子の声が響き、ソルマーニの双剣が光跡を描きながら氷原を裂く。
その一閃に応じるように、白焔のスコルと漆黒のハティが吠え立てた。
「また貴様らか……!」
「今度は逃がさぬ。ここで、その魂を喰らう!」
双狼は瘴気を膨張させ、まるで天体を呑み込むかのような重圧を戦場へ広げる。氷原の大地がひび割れ、氷塊が崩落していく。
「くっ……前よりも力が増してる!」
「大丈夫、お姉ちゃん……ソルマーニなら!」
背部の光環が輝きを増し、ルーナの声に応えるように無数のルミナス・ビットが宙に舞った。
宙を舞う光の群れが瞬時に陣形を描き、敵に襲いかかる。
「サンキュっ!ルーナ……突っ込むよ!」
白熱の刀身を掲げたソレーユが前に躍り出る。
紅い光を纏った刃が大きく振り下ろされ、スコルの瘴壁と正面からぶつかり合う。
――轟音。閃光。氷原を抉る力の衝突。
「なかなかやるが、所詮は人の子の器!」
「喰い破ってやるわ!」
スコルとハティが左右から挟み込むように襲いかかる。
対するソルマーニは、まるで太陽と月が一つになったかのような光を纏い、氷原に眩い輝跡を残しながら応戦した。
「流石に、二体同時だと手強い!」
「こうも、手数が多いと……」
一進一退の攻防が続く中、互いに決め手が出せず、状態は拮抗していた。
そこへ、空から何かが接近する。
それは、ハティ目掛けて急降下し、凄まじい衝撃とともに姿を見せた。
「どうよ、新しくなった俺の愛剣は?」
「レイヴァンス!」
「隊長、ナイス」
「良いタイミングだろ?流石、おれ……っても、今の手応えじゃ仕留め切れてねぇな」
レイヴァンスは剣を構え、先の衝撃で吹き飛んだハティを見つめる。
ハティは障壁を砕かれ、斬られた右腹から瘴気を噴き出していた。
「ぬ……ぐぅ」
ハティは怒りの様相で口を開くと、黒輝の波動を撃ち放つ。
「俺の剣の斬れ味……見せてやるよ!」
レイヴァンスは避ける素振りなど見せず、そのまま突っ込んだ。
――エーテルを纏う大剣と黒く耀く瘴気の波動が正面衝突した。
空間が歪み、氷原の大地が震動する。
「うおおおおおっ!」
レイヴァンスの咆哮とともに、剣身に纏うエーテルが赤く脈動する。
瘴気の波動を裂き、そのまま一直線にハティの懐へ肉薄した。
「貴様ぁあああっ!」
ハティが牙を剥くも遅い。巨大な斬撃が、黒狼の巨体を大きく弾き飛ばした。
「さっすが!」
「お姉ちゃん、私たちも!」
ルーナの声と同時に、ルミナス・ビットが一斉に光芒を放ち、スコルの動きを封じる。
ソレーユが前に飛び出し、紅焔の刃で白焔の障壁を叩き割った。
「ぐぅっ……この小娘どもが!」
「まだまだ、これから!」
レイヴァンスは剣を構え直し、ソルマーニと並び立つ。
「一気に叩き込むぞ!」
「ええ!」
「はい!」
三者の声が重なり、高濃度のエーテル粒子が収束する。
「『ソルマーニ・エクリプス』!これで終わりよ!」
「レイヴァンス・キャリバー、フルバースト!」
ソルマーニから放たれた光の螺旋……それに追従するように巨大なエーテルの奔流を纏った大剣が迫る。
――天を裂き、地を揺るがす閃光。
スコルとハティは咆哮をあげ、瘴気をぶつけ返した。
光と闇がぶつかり合い、戦場は一瞬にして真昼のような輝きと漆黒の闇が交錯する混沌と化す。
一瞬の静寂……その直後、氷原そのものを揺るがす衝撃とともに、スコルとハティの瘴壁が砕け散る。
光の奔流が黒狼と白狼を呑み込み、轟音と閃光が戦場を塗り潰した。
「ぐああああああっ!」
「バカな、人の子に……!」
スコルの白焔は断たれ、ハティの黒き顎は砕ける。
双狼は血のような瘴気を散らしながら、氷原へ叩きつけられた。
「「今よ!」」
ソレーユとルーナの声が重なり、ソルマーニの双剣が交差する。
その輝きは太陽と月の交わり、黄昏を貫く極光となった。
太陽と月の光が双狼の身体を切り裂く……
残ったのは深々と抉られた氷の大地と、黒い霧となって消えゆく狼の影だけだった。
「……やった、の?」
「ええ……今度こそ、仕留めたわ」
レイヴァンスは大剣を肩に担ぎ、深く息を吐いた。
「ふぅ……あいつら、しぶとすぎんだろ」
瘴気となり消えゆくスコルとハティの亡骸から、二つの光が浮かび上がる。
その光はゆっくりと、吸い込まれるようにソルマーニの中に溶けていった。
「ソール、マーニ……ようやく、取り戻すことができました」
ソルマーニの声は震えていた。
「ソルマーニ?」
「いえ、ごめんなさい……ソレーユ、ルーナ、二人とも感謝しています」
「感謝するのは、私たちの方」
「ふふ、優しい子たち……でも、あなた達のおかげで因果を断ち切り、私の半身を取り返せたのです……本当に、ありがとう」
慈愛に満ちたソルマーニの声音に、ソレーユとルーナは胸の奥が温かくなるのを感じていた。
戦場の凍てついた空気の中で、ほんの一瞬の温もりを感じ、気持ちが緩んでいく。
「……良かった、お姉ちゃん」
「ええ……あとは……」
レイヴァンスがほっとした様子で声をかける。
「はは……なんとか片付いたな。お前ら、本当に頼もしくなったじゃねぇか」
「隊長も……やっぱり強い」
「新しい剣、格好良かったです」
「おう、もっと褒めろ……っと、冗談はここまでか」
彼の視線は遠く、氷塊の中央……黒い雲が渦巻く方角へと向けられていた。
「あいつら、大丈夫だろうか」




