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邂逅する怨嗟の狼 三十五章

邂逅する怨嗟の狼 三十五章

 ――北の氷原上空


「そろそろ、あのヨトゥンがうじゃうじゃ集まってた所まで着くのか?」


 レイヴァンスが目を細めてモニターを注視する。


 空を駆ける神庭の先、氷原の上に黒い塊が見え始める。

 その塊から黒い根が張り巡らされるようにヨトゥンが行列を成していた。

 

「うぇ、気持ち悪っ!」

「うん、気持ち悪い」


 ソレーユとルーナが嫌悪感を露わに言葉を漏らす。


「あいつら全部ヨトゥンか!っしゃ!突っ込むか!?」

「バカ、待ちなさい。命令が出てからに決まってるでしょ」


 暴走しそうなアグニをジルが嗜めながら司令の様子を伺う。


「出撃準備だ、各位、機体に搭乗し指示を待て」

「お、いよいよか!」

「よし……ミーミル、お願い」

「っしゃ!待ちきれねぇぜ!」


 ヴィーダルの指示でG.O.D部隊は第2区画へと移動し、神装機乗りは機体へと転送していく。

 司令室の中にはヴィーダルと樹里博士、グレイブの三人が残っていた。

 グレイブが壁に背を預けたまま、二人に視線を向ける。


「それで、俺はどうすりゃいいんだ?」


「グレイブ殿……あなたにはこの神庭の直衛にまわっていただきたい」


「直衛か、空戦なら俺が適任だろうからな。わかった、任されたよ」


 グレイブは片手を上げ、司令室を出て行った。


「さて、俺たちも管制室へ行くぞ」

「りょーかい!皆の道を切り拓いてあげなきゃね!」



 ――神庭(アスガルド)、格納庫


 ユーディンはオーディーンの搭乗席に腰掛け、深く息を吐く。


「ふぅ……不思議だな、これから決戦なのに、気持ちはとても落ち着いている」


 命をかけた戦いを前に、僕の心は凪いだ風のように静かだった。

 不安や恐怖、怒りの感情すらもなく……ただ、あるがままに、自分の成すべきことだけを意識する。


「ヨトゥンを退け、グエンを取り戻し、ロキを倒す……そして、創造の力でヨトゥンを消し去るために」


 そうだ、目的はハッキリしている。

 誰一人欠けずに生き残るんだ。


 『管制塔より各位、目標地点へ到着した。これより神庭の主砲を発射する』


 管制塔からの通信でヴィーダルが告げた、主砲という言葉にユーディンが反応する。


「主砲?神庭にそんな武装があるの?」

 

「ある。もっとも千年前はギャラルホルンの機構を利用した物じゃったが、実物を使うとなると……」

 

「相当な威力」


 ミーミルが最後まで告げなくとも、その威力がどれほどのものか想像に難くなかった。


 『これより主砲(ホルンブラスト)の発射準備を開始します』


 『ユグドラシル・ドライブとギャラルホルンのエーテル伝導率の同期、完了しました』


 『主砲のエーテル指数、上昇……臨界点まで……三、二、一』


 『……発射だ』


 次の瞬間、神庭の先端下部にある巨大なエーテル結晶に凄まじい量のエーテル粒子が凝縮されていき……ヴィーダルの号令とともに放たれる。


 ――神庭の先端から放たれた白銀の奔流が氷原を照らし出す。


 光は大河の奔流のように広がり、轟音と共に大地を揺らした。

 その直撃を受けたヨトゥンたちは、抵抗する間もなく粒子に分解され、幾百という巨体が瞬く間に光の海へと呑まれていった。


 氷原に林立していた黒い影は、氷を抉る閃光の中で次々と途絶え……残ったのは蒸気を纏う氷の大地と、霧散していく黒い瘴気のみだった。


「これが……神庭の力……!」


 管制室の面々が、その威力に息を呑んだ。

 天空を迸る轟きは、まさしく神々の黄昏を再演を告げていた……


 『各機、出撃!』


 ヴィーダルの声が管制室に響いた瞬間、格納庫のゲートが開かれる。

 吹き込む氷原の冷気と共に、神装機の影が次々と姿を現す。


「さぁて、暴れる準備はできてるぜ!」

 アグニのトールが紫電の閃光を纏いながら駆け出す。


 「勝手に突っ走るなって言ったでしょ!」

 ジルの声が追いすがり、トールの後方を固めるようにG.O.D-03改が滑り出る。


「賑やかな奴だ、俺も新装備のお披露目といくか!」

 レイヴァンスのG.O.D-01"改"が背中の比翼スラスターを展開させ、仲間たちを追い抜いて空へと躍り出た。

 

「ルーナ、行こう!」

「うん!」

 ソルマーニが氷原に反射する光を煌めかせながら舞い上がり、切り拓かれた道を突き進む。


 最後に、白金の光を纏ったオーディーンが静かに立ち上がる。

 それは、かつての大戦で見せた神装機の姿そのもの……ユーディンの瞳には迷いの影は微塵もなかった。


「……行こう。ヨトゥンとの戦いをここで終わらせるんだ」


 オーディーンの追加装甲(スレイプニル)が展開し、神庭から空へと飛び立つ。

 その後を、リシェルのウルキューレが追従し空を駆ける。


 

 ――空を震わせた角笛(ギャラルホルン)の轟きに呼応するように、ヴァルハラの戦士たちが氷原へと姿を見せる。


 その姿にヨトゥンたちが咆哮をあげ、氷原を震わせた。

 消滅した幾百を超える巨影の奥から、なお数知れぬ黒き兵が湧き出してくる。


「へっ、まだまだいるじゃねぇか!上等だ!」

 アグニのトールが稲妻を纏い、群れの中へ飛び込む。


「もっと周りを警戒しなさい!まったく!」

 追随するように、ジルのG.O.D-03改が背後から射撃で援護する。


 それを両サイドから畳みかけようと迫るヨトゥンの群れへ、レイヴァンスの機体が大剣を構えて空から飛び込み薙ぎ払った。


「ふぅ、出力も機動力も段違いだな!」

 

 氷原の一角は一気に閃光と轟音に満ち、戦場の幕が切って落とされる。

 


 ――その遥か前方へと先行するソレーユとルーナ


「見つけた!……ルーナ、気を抜いちゃ駄目よ!」

「うん、お姉ちゃんこそ」

 

 ソルマーニが金色の輝きを纏い、ソール・キャリバーを構えて二体のヨトゥンへと迫る。

 

 白輝のスコル、漆黒のハティ……

 太陽と月を喰らう宿命の双狼が、神話の再来と言わんばかりに氷原を駆け抜けた。

 

 鋭い爪と牙の一撃に、ソルマーニのルミナス・フィールドが光塵を撒き散らす。

 

 熾烈な攻防は周りのヨトゥンを巻き込み、氷原をも砕いていった。

 


 ――そして、氷塊の眼前


「来いよユーディン!お前は俺の獲物だ!」

 復讐機ヴァーリを駆るグエンが、黒い瘴気を撒き散らしながら迫る。

 オーディーンはその一撃を受け止め、氷原に衝撃波を走らせた。


「グエン!こんなこと、エリシュさんは望んじゃいない!」

 

「黙れぇっ!!お前がそれを言うのか!?俺はコイツの力で全てを壊す!お前も、その女も……!」


 互いの刃が幾度もぶつかり合い、白と黒の光が氷原を切り裂く。



 その時――


 「……ようやく姿を見せたか」

 氷塊の上に黒き影が立った。

 

 冥王機(ヘルヘイム)

 禍々しい闇を纏う、漆黒の巨影が降り立つと、周囲のヨトゥンすら身をすくませた。


 「ロキ……!」

 

 ユーディンが息を呑んだ瞬間、リシェルのウルキューレが前に出る。


「ユーディン、あなたはグエンを!こいつは……私が引き受けるわ!」

 

「リシェルさん!?危険だ!」

 

「大丈夫、戦乙女の名にかけて……ここで退くわけにはいかない!」


 ウルキューレとヘルヘイムが激突する。

 雷鳴のような斬撃と闇の奔流が交錯し、リシェルの機体が吹き飛ばされる。


「リシェルッ!」

 ユーディンの叫びが響いた。

 その刹那、オーディーンの全身から白銀の光が奔り、装甲が変貌していく。


「神装……展開!」


 ユグナイト装甲が花開くように輝き、オーディーンは新たな姿を顕した。

 その光はヴァーリに纏わりつく闇ごと機体を吹き飛ばす。


「ぐっ……俺は……!」

 グエンの瞳には依然として憎しみの炎が灯っていた。


「神装を展開させたか、あの時はエーテルに飲まれて暴走したようだが……」

 フェンリルの声が重く響く。


「グエン……お前の憎しみはそんなものではないだろう?もっと力をくれてやる」

 

 その言葉で、再び闇がヴァーリを覆い尽くし……狼の姿へと変貌させていく。


「くく、はははは!いいぞ犬公(フェンリル)!もっとだ……もっとよこせッ!」


 神域の時とは比べ物にならない量の瘴気を噴き出し、紅雷を周囲に放散させる。


「グエン……」

「ユーディンよ、迷っている暇はないぞ!このままではあの若僧も危険じゃ!」


 ミーミルの言葉にユーディンは覚悟を決め、グングニルを構える。


 そうだ、急がないとグエンも、リシェルさんも危ない……


「やるんだ……」


 次の瞬間、ヴァーリとオーディーンが凄まじい速度でぶつかり合い、辺りの空気に衝撃が走る。

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