ヴァルハラへ集結 三十一章
ヴァルハラへ集結 三十一章
――ヴァルハラ内部、第1区画、ブリーフィングルーム
移動商船隊とともにヴァルハラへと帰還したユーディンたちは、代表のグレイブを伴ってブリーフィングルームへと集められていた。
「私がこの要塞都市ヴァルハラの司令、神峰=ヴィーダルだ。グレイブ殿……ユーディンたちを助けてくれたこと、心より感謝する」
ヴィーダルが深々と頭を下げる。
「よしてくれ」
グレイブは首を横に振った。
「俺たちの信条は、助け合いだ……困ってたら助ける。それだけだ」
気取らぬ答えに、場の緊張が和らぐ。
「だが、一組織の代表として……」
「分かってるさ、礼は受け取った。だが、まずは状況を共有……だろ?」
グレイブの眼差しが鋭さを増す。
「うむ……」
「俺たちが生命の樹に辿り着いた時には、ヘルとかいうやつが神装機を奪ったとこだったが……あいつがおたくの言う世界の脅威か?」
ヴィーダルが重く頷く。
「ああ、奴はヘイムダルをも奪い……ロキを復活させた。その配下の新たなヨトゥンも確認されている……しかし……」
一瞬の沈黙……ヴィーダルは、レイヴァンスへと目を向ける。
「グエンも……奴らと一緒に行っちまったよ」
「それは、僕が……」
ユーディンの胸が痛む、オーディーンを暴走させてしまった記憶が鋭い棘のように刺さる。
「グエンのことは、次に会った時に何とかするしかねぇさ」
レイヴァンスがキッパリと告げる。
「フェンリルも、ヴァーリもな」
「フェンリル……なぜ奴の魂がヴァーリに封印されておったのかは分からぬが、グエンの復讐心を糧に復讐機を動かしておるようじゃった」
ミーミルが神域でのグエンとフェンリルの様子から、推測を述べる。
「それじゃ、どうしたらグエンを……助けられる?」
ユーディンが問う。
「機体を無力化し、フェンリルとの魂の繋がりを断ち切るしかあるまい……そのためには……」
「オーディンの……創造の力が必要?」
「そうじゃ」
「やるよ、僕が必ず……」
レイヴァンスは、ユーディンの瞳に強い決意が宿っていることを感じ、自身の意思も固めた。
「俺もやるぜ!皆でやりゃ何とかなるさ!そんでもって、ヨトゥンの奴らもぶっ飛ばしてやろうぜ!」
だが、そこでブリュンヒルドが口を開いた。
「そのことだけど、あなたたち……ヨトゥンを倒す方法は分かっているの?」
室内の空気が再び張り詰める。
「ヘルとロキを討てば、脅威はなくなるのでは?」
ヴィーダルが神妙な顔で尋ねる。
「残念だけど、ヘルを討つことは不可能に近いわ」
「なに?」
ヴィーダルが目を見開く。
ミーミルが説明を引き継ぐ。
「ヘルは不死身の魔女……グルヴェイグの身体に魂を移しておるんじゃ」
「不死身の魔女?」
「そうじゃ、その言葉通り、何をしてもやつを葬るとこは出来んじゃろう」
ユーディンの脳裏に、かつての光景がよみがえる……オーディーンの一撃で吹き飛んだ体が、すぐに再生していた光景を。
「それじゃ、なおさら僕がこの力を使って……」
「いや、それなら私の力で何とかできるかもしれないわ」
ユーディンの言葉を遮るように、リシェルが口を開いた。
「リシェルさん?」
ユーディンが顔を上げる。
「私の神格は魂の選定……ヘルの魂をエインフェリアとして、身体から引き離すことが出来るかもしれない」
「ダメよ!」
ブリュンヒルドが即座に制した。
「仮にグルヴェイグの身体から引き離せても、ヘルは魂そのものを操る力を持ってる。あなたが呑み込まれる危険が高すぎるわ!」
リシェルは首を振る。
「それでも、今一番可能性のある方法よ」
ユーディンは自分の無力さに歯噛みする。
神格の力を得たはずなのに、結局なにも出来ない……またリシェルさんに負担を押し付けてしまうのか。
そんな彼の迷いを断ち切るように、柔らかな声が響いた。
「そのことについては、改めて考えましょう?」
ソルマーニだった。
「答えを焦らずに、皆で考えましょう」
その言葉で、張り詰めていた空気がようやく和らいだ。
そして、ユーディンはソレーユとルーナの腕に神装機のデバイスが着いていることに気付いた。
「今の声、まさか……二人も?」
「ふっふ〜ん、そうよ!あたしたちも神装機に選ばれたの!」
ソレーユが胸を張りながら答えた。
「これで、私たちもユーディンさんと、同じ」
その隣で、ルーナは静かに微笑んでいた。
「サボディンなんかよりあたしらのソルマーニの方が凄いわよ!」
ソレーユがユーディンに張り合って唇を尖らせる。
「神装機にどちらが凄いもないわよ、それぞれ神格の力も違うのだから」
リシェルが溜息を吐きながら、ソレーユの言葉を切り捨てる。
「なっ!サボディンの下僕のくせに、生意気なやつ!」
「お姉ちゃん、落ち着いて……」
リシェルに対して怒り露わにするソレーユを、ルーナが嗜める。
「私はオーディン様の眷属であって、下僕じゃないわ……私は、ユーディンの……」
(ユーディンの……なに……?)
言葉の途中で動きを止めてしまったリシェルに、ユーディンが声をかける。
「リシェルさん、どうしたの?」
「え、いや……何でもないわ」
「ほらほら、お嬢さん方もそんなことで喧嘩しないで、仲良くしなって」
レイヴァンスが仲裁に入るように声をかける。
「それより、樹里博士は?こういう場に出て来ないのは珍しくないか?」
「あいつは、商船隊の技術者のとこに行っている……船の飛行技術がどうのと騒いでいたが」
ヴィーダルも難しい顔で首を捻りながら答えたが、そこに管制塔から連絡が入る。
『……司令、捜索に出ていたジル機が、神装機とともに帰還しました』
「そうか、では戻って早々で悪いが、ブリーフィングルームまで案内を……」
『え?あ、司令、申し訳ありません!トールの搭乗者は機体を降りてどこかへ走って行ってしまったようです!』
管制官の慌てる声がブリーフィングルームに響き渡り、一瞬の静けさが部屋を包む……
ヴィーダルが口を開こうとした瞬間、部屋の外か騒がしくなる。
ドタドタ……と誰かが駆けてくる音が近づいてくると、勢いよく扉が開け放たれた。
「ここかぁあ!!」
そこに現れた、薄い紫がかった短髪の青年……その場にいた全員がその男に注目する。
「俺がトールに選ばれた男、アグニ=シヴヘイム様よ!よろしくな!」
親指を突き上げ、自分を指しながら大声でそう告げた。
そして、ジルが息を切らしながら追いかけて、アグニの背を叩く……
「ちょっと、待ちなさいよ……ばか!」
ジルさんをここまで振り回すなんて……
「わ、悪い……大丈夫か?」
そんなジルを心配そうに見つめるアグニ、さっきまでの豪快さが嘘のようだ。
「だ、大丈夫だから……心配しないで」
気恥ずかしそうにジルは顔を逸らした。
「ん?お前ら……もしかして」
二人の様子をみて、レイヴァンスは何か察したのかニヤニヤと笑みを浮かべる。
「アグニ=シヴヘイム、ヴァルハラへよく来てくれた。先に控えたヨトゥンとの戦い、君の力も頼りにしている」
ヴィーダルがその空気を吹き飛ばすように声をかけた。
「お、おう、任せてくれ!ヨトゥンなんかぶっ飛ばしてやるよ!」
「うむ、では……顔合わせも出来たようだし、解散とする。今後の作戦や展開については追って召集をかける。今は、各々十分に休んでくれ」
ヴィーダルの言葉で皆が部屋から出ていく。
あのアグニという人……豪快だけど、ジルさんを心配する眼差しは本物だった。
同じ神装機に選ばれた者として、僕たちの大きな力になってくれるはずだ。
「僕も……しっかりしないと」
ユーディンは来たるヨトゥンとの戦い、グエンとの再戦を前に覚悟を決める。




