アグニ=シヴヘイム 二十九章
アグニ=シヴヘイム 二十九章
――神装機トールは、稲妻のような速さで目の前を駆け抜け、氷のヨトゥンへ膝蹴りを浴びせた。
「どうじゃあ!」
若い男の声、その豪声から直情的な性格の人間であることが伺えた。
吹き飛んだヨトゥンは、ゆっくりと立ち上がろうとする……そこへ追い打ちをかけるように、トールが踏み込む。
「オラァア!これが、勝利のコンボ"A"じゃあ!」
懐に入り、神速の連続パンチを繰り出す……ヨトゥンはその衝撃で徐々に身体を宙に浮かせていく。
ヨトゥンの足が地面から離れた直後、鳩尾の辺り目掛けて雷撃を纏ったアッパーをめり込ませる。
バチィイイン……と雷が落ちる衝撃と共に、ヨトゥンは丸焦げになった。
だがすぐに再生しようと、瘴気を吹き出した瞬間……
トールの後方から連装砲が放物線を描くように放たれ、ヨトゥンに直撃し、消滅させた。
「うお!なんだ!?」
トールの搭乗者は、その攻撃に驚き振り返る。
「こちらは、ヴァルハラG.O.D部隊のジル=フィルメイア……神装機トールの捜索の命を受けています」
ジルは冷静に状況を説明する。
「俺を探しに来てくれたのか!?助かったぜ!」
「……そちらは、ニブルヘイム所属の神装機、トールで相違ないか?」
「しょぞく?なんだかよくわかんねぇけど、俺はトールの血を継ぐ男、アグニ=シヴヘイム様よ!」
このやりとりだけで、ジルは理解した。
この男は面倒なタイプな人間であると……
「……これよりヴァルハラまで帰投します。同行を願いたいのですが?」
「ヴァルハラまで連れてってくれんのか!ありがてえ!」
「しかし、この吹雪の影響でヴァルハラとの通信が取れない状況です。吹雪が止むまで、ここで待機したいのですが」
「通信が切れたのはこの吹雪のせいだったのか!?前が見えなくて大変だったんだよ!」
「……」
(先ほどの戦いを見る限り、戦闘技術はかなりのものだけど……周囲の状況がまるでわかっていない)
ジルはアグニ=シヴヘイムという男のことを静かに分析する。
「……熱血、バカ?」
不意に漏れ出た小さな呟き……アグニには聞こえていないようだったが、第三者がこれに反応した。
「ふっ……ははは!」
「うぉ!急に笑うなよ!」
「いや、悪い悪い!その娘さんが面白くてな」
「……っ!」
いきなり聞こえてきた声にジルは驚いたが、すぐにその声の主に気付く。
「トール……」
「惜しい、トールは俺の親父の名前だ。俺はマグニ、トールの息子だった者だよ」
「おい、それより、そいつの何が面白かったんだ!?」
「ったく、アグニ!自己紹介ぐらいさせてくれないか?」
「おう?そりゃ、悪い……で、何が面白かったんだよ!」
「マグニ……あなたも、大変ね」
「まったく、その通りだ……」
――それから吹雪が弱まるまでの間、アグニはひたすら何か喚いていたが、ジルとマグニはそれを気に留めることなく状況の確認を行った。
「それじゃ、アグニがヴァルハラに向かうためにこの雪原に一人で入り、遭難した……ってこと?」
「ああ、コイツは本当にバカでな……後先考えずに突っ込んじまうんだ」
「大変ね……」
「ははは、まぁだいぶ慣れたがな。さて、外の吹雪もそろそろ弱くなってきたようだが?」
その言葉通り、メインモニターに映る周囲の視界が徐々に広がっていく。
ジルはヴァルハラへ通信を送ると、すぐに応答があった。
『ジル!大丈夫!?』
珍しく、樹里博士が焦燥感を露わにジルを心配する。
「ええ、吹雪の影響で通信が途絶えたみたい」
『そう、良かった……』
「心配をかけたみたいね……それから、神装機トールとも合流できたわ」
『おお!流石ジル!……こっちに来たら、どんな奴が乗ってるか顔を拝んでやる!』
「ふふ、とにかく、トールと共にヴァルハラに戻るわ」
『わかった、気をつけてね』
通信を切り、機体の関節可動域に熱を通す……プシューッと音をたてながら装甲の隙間から蒸気を吹き出す。
「ふぅ……では、出発するわ」
「了解した」
「あと、そろそろミュートを切ってあげて」
「ん?ああ、忘れていたよ」
マグニはアグニの音声ミュートを解除する。
「……っ、誰か!何とか言えって!無視すんなよ!」
「アグニ、うるさい……出発よ」
「ああ?ようやくかよ!ってか、うるさいって言ったよな!おま……っ」
アグニの音声が途切れる。
「ありがとう、マグニ」
「気にするな……こちらこそ、迷惑をかけてすまない」
――二機は雪を掻き分けながらヴァルハラへと向かう。




