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オーディンの覚醒 二章

オーディンの覚醒 二章

 一瞬の閃光が辺りを飲み込んだと思ったら、ユーディンは……見覚えのある操縦席に座っていた。

 

「え……なんで?」

 

 どうしてオーディーンの中に?さっきまで、この機体の前にいたはずなのに……というか、僕、生きてる……


 金色の髪の女……ヘルの攻撃で、死ぬ寸前だったユーディン。

 自分の身に何が起きたのか分からず、呆然としていた。そんな彼を他所に、機体の動力炉が鳴動し始め、機体に熱を吹き込んでいく。

 

「なに?なに!?今度は何だよ!」

 

 今まで何をしても動かなかった神装機の反応に、彼は更にパニックになってしまう。

 そして、モニターが光りだし、声が聞こえる。

 

「神装機オーディーン、起動……ユグドラシル・ドライブ、正常に稼働」

 

 目の前の画面に『ミーミル』と表示される。

 

「オーディンの神格を確認……搭乗者のデータは認証されておらぬようじゃ。若者よ、名を教えよ」

 

 言葉の響きは重く、それでいて自然と脳裏に染み入るような安心感のある声だった。

 

「は、はい……ユーディン、神峰=ユーディン」

 

 ユーディンは咄嗟に応える。

 

「神峰=ユーディン登録完了。搭乗者として認証。インターフェースシステム……接続完了」

 

 その瞬間、ユーディンの視界に格納庫の様子が映し出される。

 ヘルは突然姿を消したユーディンに驚いた様子で、周囲を見回している。だが、すぐに神装機に乗り込んだ事に気付き、こちらへ振り返ろうとしているところだった。

 

「うわっ!何だこれ!」

 

 言葉で現すなら、そう、神装機が見てる景色をそのまま自分が見ているような感覚だ。

 

「インターフェースシステムを接続すると、機体とおぬしの感覚は同期されるのじゃ」

「僕が、オーディーンと……凄い、これが神装機の……」

「と、まぁ、ゆっくりと説明しとる時間は無さそうじゃな……わしの権限で武装を使わせてもらうぞい?」

「え?それってどういう……」

 

 確認する間もなく、コンソール画面が勝手に動き始める。

 

「『プリズミックミサイル』を使う」

 

 その言葉に応えるように、オーディーンの両肩が眩く光だす。


 ……キュィン……パシュシュシュシュシュシュン!


 エネルギーを充填し、それを解き放つと、幾つもの光線がホーミングレーザーのように金色の髪の女に降り注ぐ。

 

「なにっ!?」

 

 ヘルは咄嗟に黒い瘴壁を展開させて攻撃を防ぐ。

 

 ズドドドドドォオオン……

 空気を震わせる爆音ととも、辺りに霧散した粒子が広がっていく。徐々に視界が晴れてくると、ヘルの右腕と左脚は吹き飛び、おびただしい量の血が滴っていた。

 

「ちぃ……やってくれるじゃないか?」

 

 ヘルはそんな姿でも平然とした顔で話している。

 

「人間じゃない」

「左様、奴は死と魂の力を持つヨトゥンじゃ……その危険すぎる力故、オーディンが冥界に封じたはずじゃが」

「どうして、そんな奴が!」

「くく、決まっておろう?我が一族……いや、父上や兄上の肉体を滅ぼしたお前達の魂を、冥界に送るためよ」

 

 話している間に、ヘルの手足から流れていた血は止まり、グチャグチャと音を鳴らしながら、身体は元の形を取り戻していた。

 

「じゃが、いくら不死身とは言え、この身体では神装機の相手は厳しいか。オーディーンが動いたのは想定外だったが、ヘイムダルさえ手に入ればそれで……」

 

 そう言うや否や、黒い霧が辺りに広がり、その霧の中へとヘルが飲み込まれていく。

 

「……逃がさない!」

 リシェルが距離を詰めて斬りかかるも、手応えはなく、黒い霧が散っただけだった。

 

「ふふふ、そう急くな……いずれゆっくり相手をしてやろう」

 

 その言葉を残して、霧とともにこの場から消え去った。

 

「何だったんだ」

「ヘル……冥界に封印されたヨトゥンよ。身体は別物だったけど」

 

 ユーディンの呟きに、リシェルが剣を納めながら答える。

 

「ええ、あれは……黄金の魔女グルヴェイグの身体だったわ。ミーミル、あなたの見解は?」

「うむ、憶測ではあるがおそらく、ヘルは何らかの手段でグルヴェイグの身体へ憑依したのじゃろう。やつの力ならば、自分の魂をこちらの世界へ結びつけることも可能じゃろうしの」

「そんなことをして、グルヴェイグは無事なの?」

「どういった経緯でそうなったかは分からぬが、無事ではないじゃろう。ヘルの魂と入れ替わり、冥界に送られたと考えるのが妥当じゃ……同族じゃというのに容赦がないのぉ」

 

 話についていけずに三人のやりとりをオーディーンを介して聴くユーディンだったが、格納庫の中で鳴り響くギャラルホルンの音とともに、ここに人が集まって来ていることに気付いた。


「おい!神装機が動いてるぞ!」

「侵入者は!?」

「あそこに不審な女がいるぞ!」

「捕えろ!」


 集まって来た者達が、リシェルを侵入者だと判断してこちらに向かってきていた。

 

「ああ、待ってください!その人は侵入者じゃ……いや、敵じゃありません!」

 

 ユーディンは咄嗟にリシェルの前に出てしまったが、そこで気付いた。

 自分が目の前の人達より、何倍もの大きさであることに

 

「うわっ!とっとと、危ないな」

 

 気をつけないと、一歩間違えれば周りの人を踏み潰してしまうぞ……

 

「その声、お前!ユーディンか!?」

 

 G.O.D部隊の隊長、レイヴァンス=テイルが前に出て大声を上げる。

 

「はい、神峰=ユーディンです。侵入者はなんとか撃退することはできました」

「そうか、とりあえず、何があったか状況を教えてくれ!」

「わかりました!」

 

 そう言って、機体から降りようとするユーディンにミーミルが声をかける。

 

「ユーディンよ、おぬしの左腕に転送用デバイスを装着しておくのじゃ。機体への乗り降りはこの方が楽じゃぞそれに、いつでもわしと話せる」

「転送用……」

 

 そうか、さっき一瞬でこの操縦席に移動したのはこの力なのか。

 

「よし、ミーミル、さん……機体から降りるよ」

「わかった。ほほ、ミーミルでよいぞ……では、インターフェースシステムの接続を解除する。転送するぞ」

 

 ユーディンの視界が白く染まり、地に足をつく感覚とともに視界が開ける。

 

「わっ、すごいな不思議な感覚だ」

「ユーディン!お前、神装機を動かせるようになったんだな」

 

 レイヴァンスが驚喜の表情を浮かべて、駆け寄って来る。それを警戒するように、リシェルがユーディンの前に駆け寄る。

 

「り、リシェルさん?」

「オーディン様に近寄るな」


 そのまま剣に手をかけようとする彼女を、ユーディンは慌てて止める。

 

「ちょ、リシェルさん!この人たちは敵じゃないから、剣を抜こうとしないで!」

 

 リシェルはこちらをチラッと見てから、静かに手を下ろした。

 

「敵でなくとも、我が主神に対する不遜な態度を看過するわけにはいかないわ」

「えぇ〜」

 

 さっき僕のこと殺そうとしてませんでしたー!?

 

「ふふっ、どの口が『不遜な態度』なんて言ってるのよ」

「ほほほ、あいも変わらぬのう」

 

 姿は見えないが、凛とした女性と老人の声にレイヴァンスたちは警戒して辺りを見渡す。

 

「おいおい、まだなんかいるのか?」

「あ、いえ、これは……この腕のデバイスから声が出てるんです」

「へぇ、通信機みたいな物か?というか、その銀髪のお嬢さんも見かけない顔だな?」

 

 確かに、リシェルさんも侵入者と言えばそうなんだよな。でも、ギャラルホルンが反応しないなんて……ほんとに、何者なんだろう……

 

「レイヴァンスさん、彼女のことについては僕も分からないことばかりですが……少なくとも、敵ではないと思います。ただ……」

 

 そう言ってユーディンはリシェルを見つめる。

 

「リシェルさんがここに来た理由……教えてもらえますか?」

 

 リシェルはゆっくりと警戒体勢を解き、ユーディンの方へと振り返る。

 

「そうね……私も、確認したい事があるし、話をさせてもらおうかしら」

(オーディン様の想いは、いま……)

 

「あら、あなたにしては素直ね?」

「オーディン様の命には背けないわ」

 

 オーディン様って……僕のこと、なのかな?僕自身はオーディンじゃないんだけどな……

 リシェルの態度に何とも言えない気持ちになるユーディンだったが、そのことは胸にしまい、レイヴァンスに話しかける。

 

「あの、レイヴァンスさん。司令室の方で話をしようと思うんですがいいですか?」

「ん?ああ、もちろんだ……込み入った話になりそうだしな。神峰博士たちも一緒に来てもらうとするかね」

「あ!父さんと母さんは無事ですか!?第5区画に侵入者が来たって……」

「大丈夫だ。無事に確保してるよ。侵入者の狙いは神装機だけみたいだったしな」

「よかった」

「良くはないわよ?神装機と神核がヘルの手に渡ったとしたら」

「そうじゃな……その事についても話をした方がいいじゃろう」


 ……ユーディンたちは司令室へと向かう。


 その一番後方にいたリシェルは、誰にも聞こえないほどの声で呟く。


「なぜ、あんな人間にオーディン様の神格が……」

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