神装機トール見参 二十八章
神装機トール見参 二十八章
――ヴァルハラ南部、氷雪地帯……
要塞都市ヴァルハラとニブルヘイムを隔てる広大な雪原。
その吹雪の中、雪を掻き分けながら一機のG.O.Dが進んでいた。
凍てつく装甲の隙間から高熱の蒸気を排出させながら、周辺の索敵を続ける。
「……周辺に熱源反応……なし」
吹雪の影響でモニターにノイズが混じる。コンソールを操作しながら、ジル=フィルメイアは機体の状態を確認する。
「各可動域、正常に駆動。索敵ノイズは、この吹雪では仕方ない……か」
そこに、ヴァルハラから通信が入り、応答する。
「こちらG.O.D-03改、ジル……」
『やっほー!新装備の調子はどう?』
モニター越しに、樹里博士の快活な声が響く。
「問題なく稼働しています」
『まぁ、問題ないのは当然として、G.O.D-05から移植したユグドラシル・ドライブは?』
ジルは動力炉の数値を確認する。
「こっちも、問題ない……稼働域、機体内部の温度調整も想定通り」
『ふっふ〜ん、即興で用意した割には上出来ね!流石私!』
「はいはい、博士すごーい……」
興味ないと言わんばかりに、言葉を投げ捨てるジル。
何故、彼女が単機でこんなところにいるのかと言うと……事の発端は二日前のヨトゥン襲撃の後まで遡る。
――
「……なに?それは本当か!?」
司令室で、ヴィーダルが驚きを隠せず声を上げる。
「……わかった、こちらからも捜索に協力する」
「どうしたの?珍しく大声出して」
樹里博士が、普段見ないヴィーダルの反応に、首を傾げながら尋ねる。
「ああ……ニブルヘイムの神装機が、こちらに単独で先行し、消息を絶ったらしい」
「はぇ?」
樹里博士は口を開けたまま、その動きを止める……
「その捜索を、こちらでも協力することになった……なんとか出来るか?」
「あ〜っと、まぁなんとかするしかないでしょ?幸い、新しい神装機のデータとユグドラシル・ドライブもあるから……即興になるけど、なんか考えるわ」
そう言うや否や、思考の渦へと沈んでいく。
「あの氷雪地帯を……寒冷地仕様にして、熱交換効率を……ソルマーニの兵装を応用すれば……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、手元のモニターを凝視する樹里博士……その姿をヴィーダルは静かに見つめる。
「……助かる」
(だが、どうして司令室の中で……いや、構わんのだがな)
――数分後には、捜索に向けて動きのシミュレーションまで出来たらしく、樹里博士は第二区画の整備員に指示を飛ばしていた。
「いけるのか?」
「私を誰だと思ってるの?とりあえず、ジルを呼んで……彼女に頼むわ」
「ジルか、捜索任務なら適任ではあるが」
顎に手を当てながら思案するヴィーダル。
「いいから呼んで」
「……わかった」
――それから、ジルを司令室に招集し、任務の詳細が伝えられた。
急に呼び出されたかと思えば、極寒の氷雪地帯に行方不明の神装機を探しに行けと命じられ、困惑するジルだったが……樹里博士のG.O.Dの新装備のテストも兼ねていると聞かされ、任務を引き受けた。
――そして、現在……ジルが氷雪地帯に足を踏み込んでから二時間程経過していた。
「G.O.D-03改……これで、あの化け物たちに太刀打ち出来るの?」
ジルは先日のヨトゥン襲撃の情景を思い出す。
二体のガルム相手に、部隊が壊滅寸前まで追い詰められた現実を……
『太刀打ち出来るかは、あなたの技量にもかかってるわよ?機動性と火力は格段に向上してるから』
思わず漏れた言葉に、樹里博士が答えた。
ジルは返事が来ると思っておらず、一瞬驚いた……ジルが通信を返そうとした瞬間。
通信機にノイズが混ざり、ヴァルハラとの通信が途絶してしまった。
「これは……外の吹雪が強くなってる?」
メインカメラからの映像には、辺り一面が真っ白に染まり、何も見えなくなっていた。
「吹雪が弱まるまで待った方がいいか……」
ジルは機体に吹き付ける雪と風の音の中に意識を沈めていった。
その静寂の中、索敵レーダーに別の熱源反応が二つ映し出される。
一つの反応は、不規則に揺れ動き
もう一つの反応は、こちらにゆっくりと、正確に接近して来ていた。
「……っ!」
レーダーの反応を頼りに、メインモニターを覗き込む。
次の瞬間、雪原の中から巨大な塊が襲いかかってきた。
肉眼で確認できたのは、"氷の拳"だった。
「くっ……フロストゴーレムか!」
ジルは咄嗟に機体を後方にステップさせて躱す……しかし、雪原に足を取られてバランスを崩す。
氷の巨人は、その隙を逃さず間合いを詰めると、両手を組んで叩きつけてきた。
その攻撃を躱すことはできないと判断したジルは、新しい武装を使うべく、両腕を前に突き出した。
「グラキエス・イグニション……爆ぜなさい」
突き出した両腕の外部装甲に噴射口があり、そこから冷気と炎が一斉に噴き出す。
青と緋色の光が螺旋を描き、膨大なエネルギーの奔流となって目の前の巨人へと突き進む……
氷を纏うヨトゥンは、その光線ごと両腕を叩きつける。
蒸気が飛び散るように一気に広がり、爆発とともにヨトゥンは後方へと吹き飛んだ。
ヨトゥンは両腕を失い、雪の中に突っ伏していたが……
「一撃とはいかないか……」
ジルはヨトゥンを警戒しながら見つめる。
すると、ヨトゥンの失われた腕から黒い瘴気が蠢きだす……
「なに?」
瘴気は周りの雪に根を張るように広がり、腕の形を成していく。
「再生、した……厄介ね」
ヨトゥンは両腕を再生させると、ゆっくりと立ち上がり、G.O.Dに向かって拳を突き出した。
その不自然な動きに、ジルは更に警戒心を強める。
「今度は何をするつもりなの?」
不用意に動けば、雪に足を取られると考え、防御耐性をとる……
次の瞬間、ヨトゥンの拳が瘴気を巻き上げながら撃ち放たれた。
「……っ!そうくる!?」
咄嗟に左腕の噴射口から冷気とエーテル粒子を噴き出させる。
それは透き通る青色の障壁を作り出す。
迫り来る氷の拳は、障壁に阻まれ動きを止める……ジルはすぐさま右腕を前に突き出した。
「イグニション・レイ……」
そして、右腕の噴射口から炎の熱線がレーザーのように放たれる。
その熱線は吹雪を突き抜け、氷の拳を貫通し、ヨトゥンの腕を吹き飛ばした。
しかし、吹き飛ばした腕もすぐに再生を始めてしまう……
「キリがない……どうすれば」
ジルがこの場をどう切り抜けるか思考を巡らせていると、レーダーに反応があったもう一つの熱源に動きがあった。
「この状況でもう一体……まずいわね」
この危機的状況に、嫌な汗が頬を伝う……
レーダーに映る熱源はこちらにゆっくりと近づいて来たかと思うと、一瞬で反応が途絶えた。
「えっ?」
メインモニターに目を映した瞬間、目の前に閃光とともに稲妻が走る。
――
「見つけたぜぇえええ!」
吹雪の中に響き渡る豪声、その声とともに稲妻のごとく駆け抜けた巨体は、氷のヨトゥンにぶつかった。
その衝撃に、ヨトゥンは吹き飛び……周囲の雪が舞い上がる。
そこへ徐々に姿を見せたのは、紫電を身に纏う白紫の機体……
「あれは、神装機……トール」
ジルが捜していた、ニブルヘイムの神装機であった。




