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要塞都市への帰還 二十七章

要塞都市への帰還 二十七章 一部

 ――イーステッド村、入り口


 村の中で宴が催され、皆が寝静まった頃……

 村の入り口で佇む二機の神装機は、柔らかく光る人々の灯を見つめながら"二人"のことを話していた。


「ミーミル、ユーディンの身体のこと……どう思ってるの?」


 ブリュンヒルドはウルキューレの瞳に淡い光を灯しながら、神世の賢人に尋ねた。


「うむ、リシェルの血を体内に取り込んだことで神格の力を扱えるようになったとみて、間違いないじゃろう」

 

「あの状態じゃ、彼を助ける方法は他に無かったでしょうしね……でも」


 ブリュンヒルドの声音は重く、言い淀む。

 その言葉の続きをミーミルが代わりに告げる。


「ユーディンの体組織の分析も行ったが、既に人の身ではなくなってきておる」

 

「それ、本人は気づいてるの?」

 

「もちろんじゃ……傷の治癒速度や神格の力に触れたことで、ユーディン自身が一番わかっておるじゃろう」


 夜の静けさの中、二機の重い沈黙が広がっていく。

 

 そこに、村の方からゆっくりと近づいてくる人の気配を感知する。


「お二人さんは、眠らないのか?」


 いつになく落ち着いた雰囲気で現れたのは、レイヴァンスだった。


「ほほ、わしらは機械じゃぞ?」

「冷やかしに来たの?」

「違うっての……その、ユーディンのことを聞きたくてな」

 

「「・・・」」

 

「そう深刻な雰囲気を出しなさんなって……実を言うと、ここに来るまでにあんたらの話が聞こえちまってな」


 哀愁を帯びた目を細め、胸ポケットから煙草を取り出すと、慣れた手つきで火をつける。


「……ふぅ」


 ふかした煙を吐き出しながら、岸壁の隙間から覗く夜空を見つめる。


「神格を受け継いだ人間ってのは、ユーディンみたいになるのか?」


 レイヴァンスの問いに、少しの間をおいてミーミルが答えた。


「……いや、それは血の濃さによると考えられる。ユーディンはリシェルという神族……それも、オーディン自身の眷属の血を取り込んだことで大きく変化したのじゃろう」

 

「あいつの体には、悪い影響はないのか?」


 レイヴァンスは真剣な表情で、一番懸念していることを尋ねた。


「それは、正直わからぬ……前例が無い故」


「……そうか」


「そんなに心配なの?」


 ブリュンヒルドの言葉に皮肉っぽさを滲ませた表情で答える。


「お嬢さんの妹を心配する気持ちと、同じだよ……あいつにばかり重荷を背負わせたくないのさ」


 レイヴァンスは短くなった煙草を携帯灰皿で擦り潰す。そのまま踵を返して、村へと戻っていった。


「俺の話に付き合ってくれてありがとよ」


 二機に背を向けたまま歩く彼の右手は、力強く握り締められていた。



 ――翌朝


 ユーディンたちは目を覚ました頃には、商船隊の隊員たちが物資の搬入を終え、出立の準備を進めていた。


「もう、出発するのか……」

「そのようじゃな」


 その喧騒の中、ユーディンは一階の広間へと降りると、上着のジャケットをマントのように羽織る男と遭遇した。


「ん?お前は神装機の……ユーディンだったか?」

「は、はい……あなたは?」


 自分のことを知っている様子だが、ユーディンは初めて会うその男に名を聞いた。


「ああ、すまん。俺はグレイブ、この商船隊のリーダーをやってる」

「あなたが……あの、助けていただいてありがとうございました」

「気にしなくていいさ。こちらこそ、病み上がりなのにヨトゥンの殲滅を頼んじまって悪かったな」


 グレイブは羽織っている上着を翻しながら、大仰な動きで頭を下げた。

 

「いえ、被害が出る前に対処できて良かったです」

「うん?なかなかに好青年だな。気に入ったよ」


 腕を組んだまま何度も頷いた。

 そこへ、ダナンが帳票を確認しながらやって来る。


「グレイブ、荷の積み込み作業はだいたい完了した。あとは……と、ユーディンもいたのか」

「はい、おはようございます」

「ああ、おはよう。ぼちぼち船に乗り込んでくれ、もう少ししたら出るぞ……んで、グレイブ?ヴァルハラまでの航路を……」


 二人はこれからの動きについて確認を始めた。

 ユーディンは、その場を離れ……ダナンに言われた通りに船へと向かう。


「ヴァルハラか……」

 

 ヴァルハラを離れて数日しか経っていないはずなのに、とても長い間……離れていた気がする。

 そう感じる程に色々な事があったんだと、ユーディンは自分の手のひらを見つめる。


「僕は……人間、なのかな」


 その呟きは、空へと消え入るように溶けていった。

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